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舞台脚本「眠り姫」

※トップ絵は全文をChatGPTに読み込ませて描いてもらったものです。

あらすじ

昔テレビで流行した都市伝説。その話題の一つに上がった“眠り姫”。原因不明の病により、眠り続ける代わりに不老不死となった彼女の存在が、十数年の時を経て一つの縁を繋ぐ。
ブロガーの若者「コウジ」は偶然書いた“眠り姫”の記事に付いたコメントをきっかけにとある離島へ行き、その妹「アカリ」と出会う。
軽い気持ちで訪れた彼はそこで“眠り姫”となってしまった女の子「アイリ」とその家族の苦悩と悲しみを知る。変わらない姿で眠り続ける姉と老いていく妹。その止まった時間と流れ続ける時間の狭間で彼が“愛”や“優しさ”を知り、一人の人間として向き合っていく物語。


#A「夢」

 “眠り姫”アイの夢の中から始まる物語。

 SE:子供たちの声

 大勢の友達と鬼ごっこをしていたはずの中学~高校生くらいの彼女が気が付くと誰にも追われずに一人で走り回っている。

 明。オレンジ色の照明。

アイ「あれ?みんな?」

 一人また一人と居なくなっていく友達は鬼に捕まったわけじゃない。鬼の役の好きだった男子も追いかけてこない。居なくなってしまっている。舞台中央上手寄りで止まるアイ。

アイ「ねえ、どうしたの?」

 最後に残った中学生くらいの妹アカリは舞台下手側で目の前にいるアイを探している。そして、アイがいなくなったと思ったアカリは舞台中央下手寄りにへたり込んで泣いてしまう。

アカリ「お姉ちゃんどこにいったの?私を置いていかないで」

 泣き叫ぶアカリが目の前にいるのに何もできない、触れることもできない、ましてや居ることに気づいてももらえないアイはアカリと舞台上の真ん中で鏡写しのような姿で泣く。アカリは顔を上げて、アイはうつむいて涙を流す。

アカリ「お姉ちゃん!どこ?どこに行っちゃったの!?」

アイ「どうして…なんで気づいてくれないの?私ここにいるよ」

 暗。

#B「DM」

SE:うっとうしいアラーム音

舞台上手にベッドがあり、コウジが寝ている。なんかいろんな人の私物みたいなカバーやクッションや枕が雑に散乱している。

コウジ「ああ、くっそ…。はいはい起きます起きますよーっと…あれ?どこだ?スマホスマホ…」

舞台袖からケイスケ登場。客席側に自販機がある提でマイム。

ケイスケ「また寝てんのか。お前夜ちゃんと寝てるか?」

自販機の音

コウジ「わっ、ケイスケさん…」

ケイスケ「コウジ~。いくら休憩室にベッドがあるからって、夜更かしし過ぎんなよ~」

コウジ「いや、せっかくあるんだし…みんな使ってるじゃないっすか」

ケイスケ「まあな」

コウジ「そういえばなんでベッドあるんすかね。長椅子だってあるのに」

ケイスケ「それがこの会社の闇ってやつだ」

コウジ「え?」

ケイスケ「ベッドを置かなきゃいけない理由があるから置くんだろ?」

コウジ「誰も撤去しろって言いませんしね」

ケイスケ「つまりそこそこ重要なポジションにこれがなきゃいけない人間が居るってことだ。どうしてこれが無きゃいけないか?家で寝てないってことじゃないか?つまり」

コウジ「下手するとまる1日中会社に居る人間が…ってことっすか…」

ケイスケ「闇だろ?」

コウジ「闇っすね…」

ケイスケ「ところでだ」

コウジ「はい」

ケイスケ「おまえ寝言でずっと元カノの名前叫んでたぞ」

コウジ「は!?元カノ!?え、嘘。叫んで…」

ケイスケ「まあ嘘だけどな」

コウジ「良かった…冗談キツいっすよ」

ケイスケ「アカリちゃん?」

コウジ「は?」

ケイスケ「アカリちゃんって誰?」

コウジ「え?」

ケイスケ「ごまかすなよ~。さっきボソッと「アカリさん…」って言ってたの聞いちゃったんだよ~。なあ、誰だ?誰?やっぱ元カノか?」

コウジ「ちが、違いますって!」

ケイスケ「コーヒー奢ってやるよ」

コウジ「違うんですって!(そっぽ向いて)…やっかいな人に聞かれちゃったなー」

ケイスケ「アカリ“さん”ってことは年上か?コウジは年上好みだったか~」

コウジ「あのね~…嫌いじゃないですけどね~…」

ケイスケ「やっぱりあれか?色気か?デカいのか?誘われたのか?」

コウジ「いや待って待って、違うんですって」

ケイスケ「誘ったのか!?」

コウジ「うぇうぇウェーイト!!」

静まる

コウジ「(咳払い)あのですね」

ケイスケ「きっかけは?」

コウジこける。

コウジ「聞いてくださいよ!」

ケイスケ「ごめんごめん、面白くなっちゃって」

コウジ「じゃあ改めて…(咳払い)。アカリさんっていうのはブログにコメントくれた人なんですよ。一時期流行った「眠り姫」って覚えてます?」

ケイスケ「「眠り姫」?あーなんかずっと眠り続けてる女の子だっけか?「月刊ラムたそ」とかに載ってたな」

コウジ「ケイスケさんそういう雑誌読むんですね…」

ケイスケ「オカルト系のバラエティとか結構好きだったんだよ。「信じるか信じないかは、わたし次第です」みたいなやつな。最近はどれも作り物っぽくなって見なくなっちまったけどなー」

コウジ「最近は誰でも動画作れたりして、バズればいいみたいな嘘くさい心霊動画とかも珍しくもなくなりましたしねー」

ケイスケ「そうなのよ。最近はどの番組もなーんか作り物臭くて昔ほど面白くないってか」

上司、舞台袖から登場。

上司「全然姿が見えないと思えば…いったいいつまで休憩してる気だ?」

ケイスケ「あちゃー…も、もう飲み終わったら戻るんで!」

コウジ「すみません!すぐ戻ります!」

上司「まったく…」

上司去る。

コウジ立ち上がって。

コウジ「じゃあ、そろそろ戻ります」

ケイスケ「おいおい、全然アカリちゃんについて聞けてないんだが?」

コウジ「だからブログにコメントくれた人なんですよ!元カノでも今カノでもないですって!」

ここからコウジにスポットが当たり、場面が暗。上手面側に部屋っぽいデスク、ワークチェアと開いたパソコンが置いてあり、スポットが当たっているのでコウジがそこへ座りキーボードを叩き始める。

タイミングを見計らって奥のベッドの雑貨をはけてシンプルな病室っぽいベッドに。

下手側にコメント欄の文章が映し出される。

アカリ(AkaRi)の声「コウジぃさん、初めまして。“眠り姫”の記事読ませていただきました。とても面白くて、特に「眠り姫がまだどこかで眠っているとしたらどんな夢を見ているのだろう?会ってみたい。もし目を覚ましてたら眠っていた時のことを聞いてみたい」というところに共感しました。実は私、もう少し詳しく知っていることがあるんです。コウジぃさんが“眠り姫”に会う手助けができるかもしれません。もし興味がありましたらダイレクトメッセージ戴けませんか?」

コウジ「…マジか。女性…だよな。女性の方からDM下さいなんてことあるか??」

テレビの音「0時になりました。天気予報をお届けします…」

コウジ「いやいや…ネット初心者じゃあるまいし…。でもDMしてヤバそうだったらブロックでも通報でもなんでもできるわけで、個人情報抜かれるワケじゃない…し」

テレビの音「こちらの天気は雨、時々曇り…」

コウジ「まだ休み希望出してなかったな」

テレビの音「この先、一週間の予報です」

コウジ「来月、どうしようかな…(カレンダーがある方を眺めながら)」

キーボードを叩き始める。

コウジ「えーと…(書きながら読むように)初めましてアカリ(AkaRi)さん。コメントありがとうございます!“眠り姫”について、気になったのでDMさせていただきました。どのようなことを知っているのかお伺いできますか?」

全体ゆっくり少しだけ暗くなるが、なりきる前に通知音と共に元に戻る。この時コメント欄だけは戻らず、舞台上半分暗い状態になる。

コウジ「(あくび)あ、返信きたかな。…(立ち上がって舞台面でCMみたいに)逆転カードマンからお知らせだぁ!!このメッセージを受け取ったあなたに!エントリーするだけで逆転ポイント合計10万ポイント山分けの大チャンス!!お得な情報はこちら!!」

コウジ「…じゃなくて!(また座ってパソコン確認)…あ、来てる。えーと?」

下手側からアカリが出てくる。(スポット)

アカリが話している間に上手が暗転し、コウジの部屋から病院のセットへ

アカリ「DMありがとうございます。コウジぃさんの記事は“眠り姫”を茶化したり変な誇張も感じられなかったので、気になってコメントしました。信じて頂けるかはわかりませんが、私は“眠り姫”と呼ばれる向井愛理の実の妹です。もし信じて頂けるようでしたら都合のいい日に“向海島(むかいじま)”へお越しいただけませんか?その島の診療所で姉は今も眠っています(ここまでは読み上げるように)…あの時のまま」

アカリが上手を見つめると舞台上に照明が当たり病院のベッドで“眠り姫”になる前の姉と中学生時代のアカリが照らし出される。

#C「あの日」

“眠り姫”が世間を騒がす前。その前兆のような場面から始まる。

病院のベッドで高熱でうなされる中~高校生くらいのアイリと不安そうに手を握って見守る妹アカリ。

アカリ「お姉ちゃん…」

下手袖から口論する向井母と担当医。(下手側でスポット)
上手側ではアイがアカリと苦しそうにコミュニケーションを取っている様子。

向井母「原因がわからないってどういうことなんですか!?あなた医者でしょ?インフルエンザや流行りの風邪とかじゃないんですか?!何もわからないということはないでしょう!」

担当医「落ち着いてください!お願いします!」

向井母「落ち着いて?!…ただの風邪かウイルスにかかったのかと思えば、散々待たせた挙句「原因がわからない」って一体何分、何時間待たせたと思ってるの!?あの検査もこの検査もやってみますって…私も予定ってものがあるんですよ!」

担当医「それは大変申し訳ありません。弁解するつもりも毛頭ございません。しかし、落ち着いて聞いて戴けませんか!あなたの娘さんは何か大変な病にかかっている可能性があるんです!少なくともここの設備では…もっと大きな病院を紹介します。そこへ行っていただけませんか?さらにお時間を取らせてしまうことになることは重々承知の上です。どうか娘さんのために」

向井母「それを信じろっていうの!?もしこれで風邪やウイルスだなんて言われたら二度とここには来ませんよ!」

担当医「構いません。少なくともここの設備で診断できる病気ではありません。それは間違いありません」

向井母「…あなたが紹介する病院なら診断できるの?」

担当医「…正直、何とも言えません。娘さんは今ギリギリで意識を保っているような状態であるにも関わらず何の病気の原因も特定できないのです。もしかしたら先天的なものか、あるいは脳にかかわるものか…」

向井母「そんな…」

担当医「どうか気を強く持って。可能性が無いわけではありません。私などよりもっと専門的な知識を持った医師ならば何かわかるかもしれません」

向井母「わからなかったら?」

担当医「そのようなことは今は考えない方がいい」

向井母「でもわからなかったら!?」

担当医「…不確定なことを言ってあなたをこれ以上不安にはさせられない。申し訳ありません。今はただ、ここより大きな病院で診断してもらう方がいい。一刻も早く受け入れてもらうように掛け合ってみますので」

向井母「…」

担当医「…どうか、気を強く持ってください。娘さんを救うために私たちも最大限努力します。今日はこのままお泊りいただいて構いませんので…結果が分かり次第お伝えします」

担当医、下手へはける。(スポットが細くなる)
向井母、その場でへたり込む。

アカリ「大丈夫?お姉ちゃん…」

アイ「さっき薬飲んでから少し…。アカリ、泣いてるの?」

アカリ「だってお姉ちゃんがこんな風に寝てるの初めてなんだもん。怖くて…」

アイ、アカリの頭を撫でる。

アイ「大丈夫だよ。ちょっとボーっとして眠いだけだから」

アカリ「眠いの?」

アイ「ちょっとだけ。でも眠れない感じ。変だよね」

アカリ「わかんない。寝たら?」

アイ「眠いんだけどね。眠れない」

アカリ「…変だね。じゃあ眠れるようにあたしがお姉ちゃんを撫でてあげる」

アカリ、立ち上がってアイの頭を撫でる。

アカリ「すごく熱い…」

アイ「やっぱり?でも氷枕のおかげで少し楽」

アカリ「本当に寝なくて平気なの?」

アイ「平気…かな?でも寝られそうにないんだよね」

アカリ「変なの」

下手で何とか気を取り戻した向井母が舞台上中央で扉をノックして(マイム)病室へ。

向井母「なんだ、二人ともやけに仲良しね」

アカリ「お母さん、お姉ちゃん眠いけど眠れないんだって」

アイ「アカリ、いいって~」

向井母「眠れないの?大丈夫?」

アイ「うん、大丈夫。でもボーっとするけど」

向井母「無理しないで眠いなら寝ちゃいなさい?」

アイ「うーん、眠いんだけど眠れない感じなんだよねー」

向井母「…そう。少しでも身体を休めないとダメよ。目をつぶってるだけでも身体は休められるから」

アイ「でもお母さんもアカリも居るのに目をつぶりたくないよー」

向井母「…そうだね。そうだよね。じゃあ今度はお母さんが撫でてあげるか」

アカリ「えーいいなーお姉ちゃん」

向井母「アカリもおいで」

向井母、アイの頭とアカリの頭から背中を撫でる。

照明がオレンジ色になり、少し暗めに。下手から向井父がやってくる。(ここからマイムでオレンジの照明に照らされる影絵っぽい演出“できたら”)

向井母が泣きそうなアカリを撫でてキスをして見送り、病室に残る。扉が閉まると向井父の服にしがみついて涙を流すアカリをなだめながら下手へはけていく。

暗くなり、残った二人にスポット。

アイ「お母さん、私…大丈夫なの?」

向井母「えっ、急にどうしたの?」

アイ「アカリは慣れてないからしょうがないけど、みんななんか変。お父さんも…お母さんもなんか無理してない?明日仕事でしょ?」

向井母「仕事は休み。アイリだってここに一人じゃ寂しいでしょ?」

アイリ「そうだけど…」

向井母「アイリが一人で寝るようになって何年経ったかな?こうやってベッドで寝てるアイリの横に居るのも久しぶりね」

アイリ「うん…変な感じ」

下手から現在のアカリが出てくる。二人を眺めて。

現在アカリ「この夜、眠った姉がその後…もう目を覚ますことはなかった。どこの病院に行っても原因は不明。でも心臓が止まることもなかった。健やかな寝息を繰り返して、姉は今もあの日から時間が止まったまま。あの時の姿のまま、眠り続けてる」

 暗

#D「向海島」

 暗のまま。コウジが舞台ど真ん中から大声。

コウジ「はあーーー!!青い海!!白い雲!…っと思ったら一点も雲なし!!なんだ!最高か!!そして、何といっても!!この!向海島で俺はっ!!!」

 明。舞台ど真ん中に目的も忘れてバカンスを楽しむ気しかない、頭悪い恰好をしたアホが立っている。

コウジ「女性に会う!!」

 SE:ざばーん(波の音)

コウジ「どんな人なんだ!どんな人なんだ!どんな人なんだーー!!大きいのか!?何かが大きいのか!?なんらかの何かがボン!とかキュっ!とか、ボン&ボン!だったりするのか!?…ふ、ふくらむ~!!期待が~!期待が膨らむ(唐突に股間を抑えて)…あっぶね~。そこはいけねぇよ。どんな彼女かもわかんないのに、期待がふくらみ過ぎて膨らんじゃいけないところが膨らみそうだったわぁ…!あっ!!彼女って言っちゃった!!彼女!彼女~?彼女になっちゃうのかな~??!」

 アホがいろいろ言ってる間に舞台奥から現在のアカリが登場。実年齢40代後半だけど若く見える美魔女のイメージ。若い男がなんか言ってるな~みたいな生暖かい目で見ている。この日この時間にここに居る時点でこの若者が“コウジぃ”だと確信はしている。

コウジ「さぁて~?どこかな~?あっかりさ~んはっ??」

 振り向いたコウジ、アカリと目が合う。コウジ、いろいろ脳内を駆け巡るが、頑張って取り繕う。

コウジ「あ、あの~…もしかして…?」

アカリ「コウジぃさん?」

コウジ「は、はい!コウジぃ…いえ、コウジと呼んでください!あなた…お、お姉さんはアカリさん?」

アカリ「初めましてコウジさん。ええ、私がアカリです。…なんか、おばさんでごめんなさいね?」

 コウジ、客席側を向いて。

コウジ「やばいやばいやばいやばい!!どこからだ!?どこから聞かれてた!?全然人いないと思って完全に油断した!!こういう島の人って時間にルーズだって聞いてたのに!!どうする俺!?どうしたらここから最大のリカバリーできる!?」

アカリ「コウジさん?」

コウジ「は、はい!えーと、あのですね…」

アカリ「(面白がって)一応これでも人妻だと言うことは先に言っておきますね」

コウジ「ひ、と、づ、ま」

アカリ「ええ、もう結婚してるので」

コウジ「も、もちろんですよ!何を言ってるんですか!僕は別に何かやら、やましいことを考えてたわけじゃないので、そんなアカリさんが人妻かどうかなんて…人妻かどうかなんて関係ないですよ~!ははは~!」(コウジ悶々)

アカリ「(こういうテンションの人珍しいから面白い)なんか期待を裏切っちゃったみたいで、ごめんなさい。コウジ君って呼んでいい?」

コウジ「全然全然!何も裏切られてなんてないです!とても綺麗で最こ…もちろんです!君でも呼び捨てでもなんでも!」

アカリ「コウジ君、口が上手ね」

コウジ「いやいやそんな、本当のことなんで…あはは」

アカリ「それじゃ…コウジ君、そろそろ本題に入ってもいい?どうしてここへ来てくれたのか」

 間

コウジ「…“眠り姫”ですね」

 SE:鳥の声

アカリ「ここでもう一度あなたの口から聞かせて。“眠り姫”について思ってることを」

コウジ「僕は…俺は、DMでも書きましたけど、別に“眠り姫”が実在したとしてもどうこうしようとは思ってませんよ。ブログにこの島の感想くらいは書きたいと思ってますけど。もし“眠り姫”のことを書くとしたら詳しい情報は伏せるつもりです。だから昨日の記事にも“離島に行く”としか書いていませんし」

アカリ「…ごめんなさいね。私たち家族は姉の存在でたくさん傷ついてきたから」

コウジ「聞いてもいいですか?」

アカリ「ええ」

コウジ「…どうしてあんなコメントを?」

アカリ「今まで散々騒ぎ立てて私たちをここへ追いやってきた人たちが突然何事も無かったかのように引いて行った。あの時の気持ち悪さは忘れられない。でも、日が経つにつれて完全に忘れられてしまった姉が少し可哀そうにも思えてしまって」

コウジ「俺なんかで良かったんですか?」

アカリ「あなたのブログを読んで、あなたのような感性をもってる人ならいいかもしれないと思ったのよ。ちょっと、びっくりしたけど(コウジの恰好を眺めて)」

コウジ「え、あはは~(苦笑い)。すいません」

アカリ「いいのよ。せっかくこんな離島に来たんだから楽しんでいってちょうだい!それじゃ…案内するわね。姉のところへ」

 アカリが車のキーを取り出して暗。

#E「診療所」

 暗のまま。

 SE:玄関の扉を叩く音。
 SE:玄関の呼び鈴。
 SE:電話が鳴る音。

ニュースの声「現在、大学病院に入院中の原因不明の病で眠り続けているという向井愛理さんについて新しい情報が入りました。向井さんの担当医から彼女の眠り病はここの設備でも原因が特定できなかったという話があったようです。しかしおそらく感染性のものではないため、感染の心配は要らないとのことです」

声A「向井さんのお姉ちゃん、もう5年以上眠ったままなんだって」

声B「アカリちゃんとうとう学校来なくなっちゃった…大丈夫かな」

声C「アカリちゃんの家、今大変らしいよ。なんかテレビが来てたことあったじゃん。あれから」

声D「聞いた?向井さんのお姉さん不老不死みたいな噂」

声E「全く成長してないって話?妹さんの方が大きくなったって」

声F「なんか本当なら、ちょっと気持ち悪いねー」

記者A「向井さん!向井さん!いらっしゃったら一言いただけませんか!?」

記者B「娘さんは海外の病院で検査を受けるとのことですが、どちらの病院へ行かれる予定ですか!?」

記者C「娘さんは不老不死になったと言う噂が流れているそうですが、何かコメントはありませんか!?」

記者D「一部では“眠り姫”と呼ばれているようですが、そのことについてどのようにお考えでしょうか!?」

 SE:勢いよく車のドアを閉める音

 SE:鍵のロック音

 ロック音きっかけで舞台中央より下手側だけ明転。中央上手側に移動式のパーティション。上手側にはベッドと診療所内のセット、ベッドの上で眠るアイリ。

 下手からだいぶ落ち着いた格好になったコウジが出てくる。

コウジ「ここに…」

 SE:トランクを閉める音

 後から何やらたくさん入ったビニール袋を持ったアカリが出てくる。
 
アカリ「思ってたより小さい?」

コウジ「離島の病院なら小さいとは思ってましたけど…」

アカリ「ドクター東郷で見たイメージかしら?」

コウジ「ドクター東郷?」

アカリ「いや、なんでもない…もう20年以上前のドラマよ」

コウジ「?」

アカリ「そうね。もう20年以上ここの診療所にお世話になってる」

コウジ「診療所…」

アカリ「もうすっかり船降りた時のコウジ君はどっか行っちゃったみたいね」

コウジ「え、ええ…ちょっと緊張してきちゃって。この中に“眠り姫”がいるんだなって」

アカリ「…そう。眠ってる。ずっとあそこで」

コウジ「アカリさん?」

アカリ「じゃあコウジ君の心の準備ができたら行こうか」

コウジ「行きます」

 コウジ扉に手をかけるマイム。
 
 SE:ガラガラ(引き戸が開く音)
 
 下手が暗転し、上手側が明転。コウジ、アカリ下手袖へ。
 遅れて下手側も明転。

 下手袖からコウジがが入ってくる。

コウジ「ごめんくださーい…」

アカリ「大島先生ー?」

コウジ「大島先生?」

アカリ「ここの先生よ。大島診療所」

コウジ「あ、なるほど」

アカリ「…いないのかな?」

 アカリ、扉を閉めて足元に袋を置く。(扉の傍に置くイメージ)

コウジ「もしかしてあの奥に?(パーティションを指さす)」

アカリ「あれは…あの奥に寝てるの」

コウジ「“眠り姫”ですか…」

アカリ「アイリって呼んであげて」

コウジ「え?」

アカリ「姉の名前。向井アイリ」

コウジ「アイリさん…」

 コウジ、ゆっくりとパーティションを開けてアイリと対面。上手側からパーティションの奥を見つめるアカリ。

コウジ「…本当にこれがアイリさん?」

アカリ「そう」

コウジ「この子…この人?せいぜい高校生くらいの…」

アカリ「そう。まるで私の娘みたいでしょ?でも、そこで寝てるのは紛れもなく私の姉」

コウジ「“眠り姫”…」

アカリ「アイリって呼んであげて」

コウジ「すいません…」

アカリ「姉は…姉だけじゃない。その呼び名に人生をめちゃくちゃにされてきたの」

コウジ「アカリさん…」

アカリ「ごめんね。少し感情的になっちゃって」

コウジ「どうみても健やかに眠ってる女の子にしか見えないのに…アイリ、さん」(“ちゃん”っていいそう)

アカリ「ホントにね。いつの間にか妹の私が姉みたいになって、そして今はもうお母さんみたい。…妹だったはずなのに」

コウジ「不思議…ですね」

 アカリ、アイリの傍へ。

アカリ「私ね、一度、姉を殺しかけたことがあるの」

コウジ「え?」

アカリ「いや、“殺そうとした”が正しいかな。よく見て?点滴無いでしょ?」

コウジ「あ、確かに…」

アカリ「姉は眠ってしばらく、生死の境を彷徨ったの」

 舞台上が薄暗くなり、コウジはアイリを見つめたまま。
 現在アカリは舞台下手へ目線を移す。
 
 「ピッ…ピッ…」と機械の心拍音が響き始める。

#F「アカリ」

 舞台奥から向井母と過去アカリ(高校生)が登場。

アカリ「大丈夫?お母さん」

向井母「…ごめんね」

アカリ「えっ?」

向井母「ごめんなさい…私が、あの子を産んでしまったばっかりに」

アカリ「何言ってるの?!お母さん!お姉ちゃんのこと…今までそんなこと…」

向井母「ごめんね。ごめんね…!お母さんなんてこと…。どうかしちゃったのかな」

アカリ「お母さん…」

向井母「最初の…かかりつけだったお医者さんが言ってたの。もしかしたら先天性のものかもしれないって。本当に、そうなのかなって」

アカリ「先天性?」

向井母「生まれた時からそうなる可能性があった子供だったっていうこと」

アカリ「お姉ちゃんが…?あたし何ともないよ?」

向井母「それはお母さんにもわからない。偶然、アカリは大丈夫で、アイリが…」

アカリ「なんで!?なんでお姉ちゃんだったの?あたしで良かっ」

向井母「やめなさい!!」

アカリ「…」

向井母「やめて、アカリ。そんなこと言うものじゃない」

アカリ「ごめんなさい…」

向井母「これは本当かどうかわからない話。もしかしたらっていう話だから…」

アカリ「お母さん無理し過ぎだよ。あたし、高校卒業したら働くから…」

向井母「ああ…アカリ…ごめんね…。本当に…将来の夢たくさんあったのにね…。お姉ちゃんに負けないくらい早く走れるようになって、陸上選手になるんだって、言ってたのにね…」

アカリ「いいの…。もういいのお母さん…。お母さんは何も悪くないから…」

向井母「ごめんね。お母さんどうしたらいいかわからなくなってきちゃって…」

アカリ「お母さん…。そういえばお父さん遅いね」

向井母「そうね…。ちょっとお父さんの会社に電話してみるわ。戻るまで、お姉ちゃんのこと見ててね…」

アカリ「わかった」

 出ていこうとする向井母。

アカリ「…お母さん?」

向井母「どうしたの?」

アカリ「…なんでもない」

向井母「そう。それじゃ電話してくるね」

アカリ「うん」

 向井母舞台奥へはける。

 アカリ、上手側へ行き、傍の丸椅子に座り、アイリの手を握る。

 コウジは動かないが、現在のアカリは過去の自分を見つめている。

アカリ「お姉ちゃん…どうしてこうなっちゃうの?あたし、お母さんにどうしてあげるのがいい?お父さん、仕事変わっちゃったよ。前と違って残業ばっかりで晩御飯も一緒に食べられなくなっちゃった。お姉ちゃんわかる?あのお母さんとお父さんが最近時々けんかしてるんだ。想像できる?あのお母さんとお父さんがだよ?いつもみんなで晩御飯食べてさ、あたし、お姉ちゃんに人参押し付けてさ、お父さんとお母さんが怒ってさ…。でももう最近あたしが晩御飯作るんだ。朝ごはんも。お母さんたら全然食べてくれないの。いつも「美味しい」って言ってくれるんだけど、半分くらい残しちゃってさ…。今わかるんだ。あたしが野菜とか残した時、お母さん寂しかったろうなあって…」

 アカリ、言葉が続かなくなる。

アカリ「いつかお姉ちゃんにも食べて欲しいなあ…」

 嗚咽。

アカリ「ねえお姉ちゃん?いつになったら起きてくれるの?ねえ…ねえ、お姉ちゃん。心臓の音聞こえるよ?なんで目を覚まさないの?なんか言ってよ…。みんなお姉ちゃんが眠ってからなんだよ?ねえ、お姉ちゃん!!」

 静まる室内。聞こえてくるラジオの音。聞いてしまう過去のアカリを抱きしめる現在のアカリ。

ニュースの声「近頃話題の“眠り姫”ですが、大学病院のヤナギ教授からお話を伺いました」

ヤナギ「数日に渡り患者の身体を調べたところ、何らかの影響により身体の成長…これは老化といっても差し支えないかもしれない働きが止まっているような傾向が見られました。さらに少し衰弱しているものの、健康状態としてはむしろ健康な方だと言わざるを得ない状態。ただいつになっても目を覚まさない」

ニュース「まさに“眠り姫”ということですね。老化が止まっているとのことでしたがそれはつまり不老不死のような状態であると?」

ヤナギ「断定はできません。しかし現実に不老不死が存在するならば、彼女は最も近いところに居るのではないかと思われます。眠っていることが重要なんじゃないかという意見もあり、万が一目を覚ますようなことがあれば生命の危機となるのではないかとも」

ニュース「しかし、これはもしかしたら人の寿命を変える研究のチャンスとも言えるでしょうね!」

ヤナギ「否定はできません。この患者の経過を見ることでもしかしたら現実で不老不死の可能性を見出せるかもしれません。しかしその可能性は…」

過去アカリ「聞きたくない!」

 その声で現在アカリ、過去アカリから離れる。

過去アカリ「お姉ちゃんが眠ってる限りずっとこのままってこと?私たちはどうなるの!?お母さんこのままじゃ死んじゃうよ!お父さんだって!ずっと追いかけてくるの!?いつになったら帰れるの!?ねえ、お姉ちゃん!目を覚まして!」

 肩を震わす過去の自分を眺めながら。

現在アカリ「お姉ちゃんが居なくなれば、あいつらみんな居なくなる?お父さんもお母さんの笑顔も戻ってくるの?」

過去アカリ「ダメ、そんなのダメ…」

現在アカリ「でもみんなお姉ちゃんを見たがる。あたしたちに聞きたがる。大勢で。家に帰れば止まらない着信音、玄関の呼び鈴、ドアを叩く音。求めているのはお姉ちゃん。あたしたちじゃない」

過去アカリ「ダメだって…」

現在アカリ「お母さんも言ってた。お姉ちゃんが居なければって」

過去アカリ「そんなこと言ってない…」

現在アカリ「でもそういうこと。ほら見て?お姉ちゃんを繋いでるもの。あれがお姉ちゃんを生かしているのかもしれない」

過去アカリ「…(目がアイリの酸素マスク、点滴や心電図の機械へ向く)」

現在アカリ「苦しそうに眠るお姉ちゃん。楽にさせてあげて、あたしたちも楽になれるとしたら?」

過去アカリ「そんな…本当にそんなこと…?」

現在アカリ「わからない。でもこのままじゃ変わらない」

過去アカリ「う、ん…。そう、あたしがやらなきゃ…変わらない…」

 駆け込んでくる向井母。暗転。現在アカリのみにスポット。

現在アカリ「悪魔のささやきに身を任せてしまった私は姉からすべてを引きはがした。でも幸運か不運か、姉は衰弱した状態から回復することになる」

 語る現在アカリの後ろで無声の回想のような場面が展開される。

現在アカリ「生命維持を補助する器具を取ると、姉は「やっと解放された」とでも言うように、今までで最も気持ちよさそうに寝息を立て始めた。器具を取った姉は数日でやせ細った身体が健康体へ変わった。これには誰もが気味悪がった」

 現在アカリのスポット以外の明かりが消え、アカリのスポットとクロスフェードするように舞台全体を青い光が覆う。

 SE:波の音、海鳥の声

現在アカリ「叔父の計らいで離島へ引っ越すことができた私たちはそこで隠れるように暮らすようになる。…眠る姉も一緒に」

 暗

#G「サヤ」

 パッと舞台上が明るくなると現在のコウジとアカリ、アイリの場面に戻っている。

アカリ「バカみたいよね。殺そうって考えてやったことが姉に付いてる器具を取るっていうのもそうだけど…姉を殺そうって考え自体が」

コウジ「…俺は、ずいぶん甘い考えで来てしまったみたいです。謝らせてください」

 コウジ、アカリに頭を下げる。

コウジ「ごめんなさい。そして、ありがとうございます。こんな機会を与えて頂いて」

アカリ「やめてちょうだい」

コウジ「え?」

アカリ「これは私のわがままだから。他人のあなたがこんなに私たちの家族へ気を遣う必要なんてない。あなたは“聞かされた”立場なんだから」

コウジ「でも俺はそれでも感謝はしたいです。アカリさんは話す相手として自分を選んでくれた。そのことには」

アカリ「…困ったな。こんな時なんて言ったらいいか。大島先生いつになったら戻ってくるんだか」

コウジ「触ってみてもいいですか?アイリさんに」

アカリ「ええ」

 コウジ、眠るアイリの頬にふれる。

アカリ「…」

コウジ「本当に普通の女の子にしか見えないのに…」

アカリ「私もその肌が欲しいわ」

コウジ「それは、そうですよね」

アカリ「どういう意味よ」

コウジ「えっ…いや、別にアカリさんの肌がどうという意味じゃなくて!」

アカリ「ははっ…やっぱり面白いわね。コウジ君は」

コウジ「ぇえ…」

 SE:車の音

アカリ「あ、大島先生かな?」

 大島先生下手から登場。

大島先生「さーーお姫ちゃーーん!!美味しい美味しいりんごをもらってきたよーー!!って、あれぇ?アカリちゃんかい!どうしたの?湿布はこの間出したばっかりじゃないかい?」

アカリ「いえいえ違うんですよ!ちょっと…姉に会いたいって子が来てて」

大島先生「なに?内地からかい?こいつぁは久しぶりだねぇ!どうだい?採れたてのりんご!瑞々しくって美味しいよぉ~」

 アカリとコウジにりんごを手渡して奥へ。

コウジ「あ、ありがとうございます!」

大島先生「今からお姫ちゃんの分も切ってくるからね~」

コウジ「…(あっけにとられる)」

アカリ「食べたら?美味しいよ。むしゃっ」

コウジ「えっ!?そのまま!?」

アカリ「いけるいける」

コウジ「マジっすか…」

アカリ「いい人そうでしょ?大島先生。実際いい人なんだけど」

コウジ「え、ええ…。元気な方ですね」

アカリ「あの人が匿ってくれたから私たちとても助かったんだよね…とはいってもいつまでこの調子で姉を見ててもらえるだろう、ということは考えちゃうけれど」

コウジ「そうですよね。もし本当にアイリさんに寿命がないんだとしたら…いや、すいません」

アカリ「いいのよ。いつかは考えないといけないことだから。もしそうなら、私たちは姉を残してこの世を去ることになる。その時、誰かに姉を任せられるのか…」

コウジ「お子さんはいらっしゃらないんですか?」

アカリ「…ええ。産みづらい体質みたいでね」

コウジ「そう、ですか」

大島先生「いよっし、お姫ちゃん!美味しい美味しいミカンだよ~!」

 大島先生、アイリの傍にりんごを乗せた皿を置く。

大島先生「あれ?二人ともまだ食べてなかったのかい?早く食べて食べて!まだまだいっぱいあるからね!」

コウジ「は、はは…丸かじりはなかなか難しくて…」

大島先生「ええ?君、男のくせにだらしないねぇ!じゃあちょっと待ってて!今切ってきてあげるから!」

コウジ「あ、いや、包丁か何かいただければ自分で切りますけど…!」

 行っちゃう大島先生。外から若い女性が入ってくる。

サヤ「先生ー!もどりましたー!?」

アカリ「あ、サヤちゃん」

サヤ「あ、アカリさん!先生もどってますよね?回診行ってくるって言ったっきり、どこ探しても見当たらなくって…もう」

アカリ「なんかリンゴもらってきたみたいよ」

サヤ「ええ?」

アカリ「あと、そうそうこれ」

 最初に持ってきたビニール袋を手渡す。

アカリ「近所のおばあちゃんが先生にお世話になったお礼渡してほしいって」

サヤ「めっちゃトマト…」

アカリ「今日からしばらくトマトサラダかな?」

サヤ「めっちゃリンゴとトマト…」

アカリ「まあ、お昼持ってくる量減っていいんじゃない?」

サヤ「うーん…」

 大島先生奥から戻ってくる。

大島先生「ほらっ!これでどうだい!ってあれ?サヤちゃん戻って来たのかい!」

サヤ「それはこっちのセリフですよ!どこ行ってたんですか!」

大島先生「いやーリンゴ作ってるおばあちゃんと話してたら盛り上がっちゃってねー」

サヤ「また薬局で薬剤師の女性にちょっかいかけてたんじゃないんですか?」

大島先生「これはするどいなぁ!さすがサヤちゃんは頭がいい!」

サヤ「ここきて何年だと思ってるんですか…」

大島先生「今日もやってくれたのかい?」

サヤ「ちゃんとやってますよ。先生に言われなくても」

大島先生「さすがサヤちゃんだ!がはは!」

 サヤ、貰い物やらなんやら片付ける。

コウジ「…なんですか?」

アカリ「サヤちゃんは毎日姉に電気刺激療法をやってくれてるの」

コウジ「電気刺激…」

アカリ「電気刺激療法。これを毎日やっていれば少しでも筋力が落ちるのを防げるって」

コウジ「筋力が…ですか」

アカリ「もし、姉が今後目覚めるようなことがあれば、これを定期的にやっていたかどうかでリハビリの難度が大きく変わる…らしい」

コウジ「…役に立てばいいですね」

アカリ「…ほとんど習慣だからやってるみたいなところはあるけどね。ただ、そう…ね。いつか役に立つことを願うわ」

サヤ「役に立ってくれなきゃ困ります。毎日やるの大変なんですよ?」

アカリ「いつもありがとう?」

サヤ「まあ、お代は頂いてますし」

アカリ「今度家で育ててるミニトマト持ってくるから」

サヤ「気持ちだけで大丈夫です。もうトマトだけで3週間過ごせそうなんで」

アカリ「えー」

サヤ「カリウム過多で死んじゃいます」

アカリ「大丈夫大丈夫!」

サヤ「あのね!カリウム摂り過ぎると腎臓に負担かかって最悪心停止しちゃうんですよ!」

アカリ「そんな大げさなー」

サヤ「アカリさんもミニトマト食べた後に手足のしびれや動悸、不整脈、吐き気が出たらすぐ来てくださいよ!」

 アカリ、(リアクション)言われる症状を大げさに確かめる。

アカリ「だ、大丈夫!」

サヤ「大丈夫って連呼する人は大丈夫じゃないって言いますけど」

アカリ「大丈夫ーー!!(高らかに)」

サヤ「…はぁ、ところでそっちの人はお客さんですか?」

コウジ「え?ええ!アカリさんとご縁があって…というかなんというか」

アカリ「姉に会いに来たのよ」

サヤ「え?アイリさんに?まだ居たんですねそういう人」

アカリ「偶然彼が書いてる記事に姉のことが書いてあったからちょっと覗いたんだけど、興味が湧いちゃって」

サヤ「大丈夫なんですか?私はちょっとしか知らないですけど、大変だったって言ってたじゃないですか」

アカリ「彼なら大丈夫かな?って思っちゃってね」

サヤ「知らないですよ?どうなっても」

アカリ「大丈夫よ。たぶんね」

サヤ「いつまで居るんですか?えーと」

コウジ「コウジです!」

サヤ「コウジさん」

コウジ「えー…と正直あんまり考えてなくて…(アカリがイイ感じの女の子だったら…とか考えてた)」

アカリ「良かったら泊ってく?」

コウジ「…え?マジっすか?」

 暗。

#H「夜」

 明。

 診療所でサヤがアイリの枕カバーや掛け布団カバーを交換している。(上手)

 下手では前の場面と全く同じ場所で同じポーズのアカリとコウジ。

コウジ「って、え?ここ!?こういう時アカリさんの家とかにならない!?」

アカリ「何言ってんの?あら、もうこんな時間」

コウジ「あれ?なんかめっちゃ時間経ってる!?」

アカリ「コウジ君ずっと同じ姿勢でよく平気で居られるわね~私には無理だわ~(首やら肩やら回す)」

コウジ「おかしい!何かおかしいぞ!なにかとてつもない置いてきぼりを喰らっているぞ!」

サヤ「大島先生帰っちゃいましたよ」

 大島先生よくわからない場所から出てくる。客席側とか?

大島先生「そんなことはないぞ」

サヤ「あ、先生。どこから出てきたんですか?」

大島先生「いやわしもよくわからん」

サヤ「そうですか」

コウジ「なんでだ!?今違和感を感じているのは俺だけなのか!?」

アカリ「コウジ君、テンションが戻ってきたわね。良かった」

コウジ「んー…いいのか!?いいのかこれで!?」

アカリ「もしかしてサヤちゃんに会ってちょっと思い出したのかも?」

サヤ「なにを?」

アカリ「ここに来た時のテンション」

サヤ「??」

大島先生「コウジ君、コウジ君」

コウジ「(ぜえぜえ)なんですか?」

大島先生「サヤは彼氏持ちじゃぞ」

コウジ「いや別になにも期待してなかったのになんでちょっとそういう…!」

 サヤ、アイリのシーツ交換と片付けが終わり。

サヤ「じゃあ先生あたしそろそろ帰りますねー。あ、アカリさんもし泊まるなら、リンゴとトマト食べちゃっていいですからね~。あと電気つけっぱ厳禁で。じゃあお疲れ様で~す」

大島先生「サヤちゃんお疲れ~!さてわしも帰ろかな。鍵はいつものとこでいいからね」

アカリ「ええ、いつもありがとうございます」

大島先生「これは医者としてではなく、爺の戯言だと思ってくれて構わないが…アカリちゃんにどんな気持ちの変化があったのかは知らんが、また1人で抱え込んではいけないよ。なぜあの若者をここに呼んだのかは知らないが、頼れるなら遠慮せず頼りなさい。ダメそうならまた、わしでもサヤちゃんでもいいからね。(めっちゃコウジに向けて)ダメそうならね」

コウジ「…いやめっちゃ含むじゃないですか」

アカリ「(少し笑って)ええ、そうさせてもらいます」

大島先生「(アカリに聞こえないように)コウジ君」

コウジ「(まさか自分に話が振られるとは思っていない)えっ?…」

大島先生「なんの縁で君がアカリちゃんと知り合ったのかはわからないが、一つだけのぅ」

コウジ「な、なんですか?」

大島先生「アカリちゃんやアイリちゃんとの縁を誇りなさい。これは滅多な縁じゃないよ。(アカリが聞き耳を立ててるだろうと思って)あといくらアカリちゃんが若いからって20近く離れてるのは流石にもう少し考えた方がいいと思うのぉ!」

コウジ「ええっ!?」

アカリ「先生!?」

大島先生「あちゃ~こりゃ退散退散!」

 大島先生下手袖からはける。

コウジ「…」

アカリ「…ったくあの先生は…」

コウジ「縁か…」

アカリ「え?」

コウジ「どうして俺だったんですか?ネット上でなら他にも“眠り姫”の話題を出してる人はたくさん居ますよね?少なくなってるとしても」

アカリ「どうして…か。確かに他にも姉の話題を取り上げてる人はいる。けれど」

 アカリ、アイリの元へ。話しながらアイリの手を握る。

アカリ「姉を“人として見てる”と感じたのは偶然にもあなたの記事だけだった」

コウジ「人として、ですか…」

アカリ「“何をもってそう感じたか”って具体的なことを聞かれたら…例えば…研究者っぽくないとか“価値”とか“利用すること”を考えてないとか…。素っぽく感じた…とか?注目されようという印象を受けなかったとでもいうか…」

コウジ「うーん、あんまり褒められてない気がする」

アカリ「まあ、記事として考えるならそうかもね」

コウジ「そうなんだ…」

アカリ「でももしコウジ君の記事が上手かったとして、それじゃもしかしたら私は話してみようとは思わなかったかもしれない」

コウジ「…」

アカリ「縁なんてそんなもんよ」

コウジ「そうですか…」

アカリ「手、握ってみる?」

コウジ「えええっ!?マジすか!?いやあの年の差…」

アカリ「私じゃないわよ」

コウジ「あれ?」

アカリ「姉の手、触ってみたくない?私より年上なのに、私より綺麗な手」

コウジ「…」

 コウジ、迷いつつもベッドの方へ。

 アカリ、立ち上がってコウジにアイリの手を預ける。

アカリ「これがあなたより20以上上の姉の手。時間に置いて行かれたみたいな…綺麗な手」

コウジ「俺よりずっと柔らかい…」

アカリ「まあ男の手と比べるのは違う気がするけどね。そしてこれが私の手」

 コウジの反対の手を握る。

コウジ「えーと、すいません、その…なんて言ったらいいか…」

アカリ「おばさんの手よ。私の方が年下なはずなのに。そうは思えないでしょ?」

コウジ「…」

アカリ「コウジ君」

コウジ「はい?」

アカリ「私は、私が死ぬ前に姉を殺すと思う」

コウジ「…」

アカリ「私が居なくなった世界で姉を一人置いて行ったとして、どうなるか…。いつまでも先生は生きてるわけじゃないし、サヤちゃんに任せるわけにもいかない。そもそも私が死んだあとお願いするのにお金にも限界がある」

コウジ「それは…俺が…」

アカリ「そういう意味じゃない。これを話すのはあなたに負担をかけるためじゃない。他に…言える相手も居ないし、あなたはこの島では客人。明日になれば去っていく人。だから、ただ、知っておいてほしいだけ」

コウジ「だから自分だったんですか…」

アカリ「私の勝手よ。あなたなら、この事実と距離を取れると思った。物理的にも、精神的にも」

コウジ「…やっぱり、ネットで突然会おうって人には会うものじゃないですね」

アカリ「失敗した?」

コウジ「たったいくつかの記事をネットで読んだだけでは、やっぱり、わからないですよ。どんな人間かなんて」

アカリ「…」

コウジ「俺はそんなたいそうな人間じゃない。今日聞かされた事実とどう向き合えばいいのかもわからないし、帰ったら忘れるなんて…きっとできない。アカリさんが辛かったことも我慢してきたこともわかりますけど…俺は…」

アカリ「ごめんなさい」

コウジ「謝らないでください。“眠り姫”が現実に存在するのか…をこの目で確認することが当初の…来る前の目的でした。そしてあわよくば背景が知れればなんて…。本当に、甘く見ていた…」

アカリ「おばさんの話を延々と聞かされるなんて?」

コウジ「茶化さないでくださいよ…。俺はあなたを否定したいと思ってる。お姉さんを…最終的には殺そうと考えてるあなたを。でも否定できない。自分が同じ立場なら俺だってきっと同じことをすると思う。ああーもう!「間違ってますよ!」って言いたい!」

アカリ「…ありがとう。コウジ君」

 暗。

#I「お元気で」

 SE:戸を叩く音

サヤ「アカリさーん!アカリさん、開けてくださーい!」

 明。

 ベッドに上半身を預けてうつ伏せのアカリと待合室で眠るコウジ。叩く音でコウジが目を覚ます。

コウジ「(あくび)え、あっ!今開けます!」

 鍵を開けるマイム。

サヤ「あれ?アカリさんは?」

コウジ「アイリさんのところですよ」

サヤ「…ふーん」

コウジ「な、なに?」

サヤ「ちゃんとアイリさんって呼ぶんだ」

コウジ「まあ、そうだけど…」

サヤ「ま、いいや。アカリさーん?」

コウジ「…なんなんだ?」

 サヤ、アカリを呼ぶが全然起きない。ほっぺツンツンしたりするけど起きない。

サヤ「がっつり寝てるじゃん…」

コウジ「アカリさん起きないですか?」

サヤ「ずいぶんすっきりした顔で寝てるけど、なんかあったの?」

コウジ「別に何も…いや何もっていうのも違う気がするけど」

サヤ「えっ…!」

コウジ「…は!?いや待って待って待って!そういう“何”じゃない!」

サヤ「いやまあ一つ屋根の下出会った男女が一晩過ごすとなれば何も起こらない方が…」

コウジ「待って!お願いです!風評被害!」

サヤ「ふーん…?」

コウジ「そういえば今何時…」

サヤ「8時」

コウジ「え?あれ、確か出発9時だったはず…」

 コウジ、スマホポチポチ。

コウジ「ここから港まで歩くとどのくらいかかります?」

サヤ「んー1時間は掛かるかな」

コウジ「マジか…。あ、アカリさん…!」

サヤ「…仕方ない」

コウジ「え?」

サヤ「5万」

コウジ「は?」

サヤ「5万で送ってあげる」

コウジ「いやそれはぼったくり」

サヤ「仕方ない…1万にしてあげよう」

コウジ「桁下がりませんか…?」

サヤ「ああーあたしってなんて優しいんだろ!仕方ない、これで(パーを掲げる)」

コウジ「えーっと500…」

サヤ「五千!」

コウジ「せめてガソリン代くらいで…」

サヤ「今ガソリン代だって高いんだよ?」

コウジ「五千は掛からないだろ!」

サヤ「はぁ…仕方ないなぁ。ほら、準備して」

コウジ「え、結局いくらに…」

サヤ「間に合わなくなるよ?」

コウジ「は、はいはい!」

 コウジ、出ていく前にベッドの方へ。

コウジ「アカリさん、アイリさん…こうやって見ると本当に姉妹なんだな…。いろいろ、ありがとうございました。どうか、お元気で」

 暗。

#J「再訪」

 SE:着信音(バイブ音でも)
 
 時が経ち、年を取ったコウジがスポットで照らし出される。その手にはスマホ。

 クロスフェードで青い光が舞台上全体に

 SE:波の音、海鳥の声

 コウジ、スマホから目を離して船から島を眺めるように客席側を見る。そして一瞬暗くなり、明転。

 初めて島へ来た時のように立っているコウジ。

コウジ「久しぶりだなぁ」

アカリの声『初めましてコウジさん。ええ、私がアカリです。…なんか、おばさんでごめんなさいね?』

アカリの声『一応これでも人妻だということは先に言っておきますね』

アカリの声『なんか期待を裏切っちゃったみたいで、ごめんなさい。コウジ君って呼んでいい?』

コウジ「…」

サヤ「もしかしてコウジ君?」

コウジ「え?あれ?サヤさん!?」

サヤ「久しぶり!すっかりおじさんになったね」

コウジ「それを言ったらサヤさんだって同じじゃ…」

サヤ「え?」

コウジ「…ないですね。そうですね、どーも失礼いたしました」

 SE:波の音、海鳥の声

コウジ「相変わらずここは静かでいいな」

サヤ「住めばよかったのに」

コウジ「離島に住むってなかなか勇気が…」

サヤ「あーあアカリさん可哀そうになあ」

コウジ「アカリさん…」

サヤ「コウジ君いなくなった後すっかり大人しくなっちゃってさ」

コウジ「え?」

サヤ「毎日のように「コウジ君が…コウジ君が」って」

コウジ「ホントに?」

サヤ「嘘に決まってるでしょ」

コウジ「ひどい」

サヤ「まるっきり嘘ってわけでもないけど」

コウジ「またそうやって…」

サヤ「アイリさんに話しかけるとき、よく話題にするようになってた」

コウジ「アイリさんに…そうか」

サヤ「あの子は相変わらず。“あの子”たってあたし達よりずっと年上だけど…なんか不思議よね」

コウジ「そういえばアイリさんは出席…できるんですか?」

サヤ「無理。いくら島の人たちでもあの子の扱いは…拒絶はされてないけど受け入れられてるとは言えないし」

コウジ「今も診療所…ですか」

サヤ「しょうがないわこれは。アカリさんには悪いけど、誰も噂に流そうとしないだけ幸運。何か間違えればまたアカリさんが言ってたようなことになりかねない。それを知ってるから騒ぎを嫌ってみんな黙ってるってだけ」

コウジ「アイリさんはこのまま永遠にこのままなんですかね」

サヤ「私だっていつまでもは面倒見切れない。習慣になってるからやってるだけで、ていうか大島先生が居なくなってからはあそこは診療所でもないしね」

コウジ「大島先生…」

サヤ「…そろそろ行く?」

 サヤ、車のキーを取り出す。

コウジ「今回はガソリン代しか払いませんよ」

サヤ「えーじゃあ1万円ねー」

コウジ「おい!待っ…!」

 暗。

 SE:ドアを閉める音。

 青いライトが舞台全体を照らす。コウジが下手面にサヤが上手奥にお互い背中を向けるように立っている。上手いこと舞台上の役者が影で覆われて後ろが青い状態になるととてもいい。

 大まかなイメージとして、過去を語るときのサヤは背を向けたまま、コウジに話すときはコウジの方を向くような感じ。上手側なら感情の赴くまま自由に動いて構わないくらい。

 SE:車のエンジン音

サヤ「そういえばアカリさん、コウジ君に嘘ついてたってボヤいてたな」

コウジ「嘘?」

サヤ「アカリさん、コウジ君に結婚してるって言ってたんだって?」

コウジ「ああ…人妻だって言ってたな。あの時は何も考えてなかったけど…え?嘘ってこと?」

サヤ「そうそう。アカリさん、何回か結婚はしてたみたいなんだけど、結局うまくいかなくて別れちゃってて」

コウジ「どうして?」

サヤ「あの人、昔アイリさんが眠り続けるのを“先天性の病かもしれない”って言われたことがあったんだって」

コウジ「それは聞いたな。お母さんが言ってたって」

 上手袖から、当時の医師と向井母が出てきてマイム。

サヤ「そう。最初にアイリさんを診た迂闊なおっさんが憶測でお母さんにもの言ったらしいんだけど、それがお母さんからアカリさんに伝わってさ。アイリさん、結局今も原因不明のままだからさ」

 会話の流れに合わせて上手手前の二人がはけて現在アイリが出てきてマイム。

コウジ「まさか…」

サヤ「そう、そのまさか。もし先天性だとしたら遺伝する可能性がある。万に一つの可能性だったとしてもアカリさんはその万に一つが既に目の前で起きてる」

コウジ「普通だったらせいぜい祈るくらいなところを…アカリさんは」

サヤ「そりゃ怖いよね。きっと血縁関係めっちゃ調べたと思うよ」

コウジ「それでも不安が消えなかったとしたら」

サヤ「まあ、産めないよね。姉の時の大変さが身に染みてるのに、もし自分の子供がそうなったら。なんて普通なら考えなくてもいいこと」

コウジ「普通なら…」

サヤ「そ、普通なら。あの人の境遇は普通じゃなかった」

コウジ「そんな言い方」

サヤ「でもそうでしょ?どうしてアカリさんは別れなきゃならなかったと思う?」

 男Aが出てきてマイム。

コウジ「え?なんでって…」

サヤ「アカリさんは予め言ってたんだって。「子供を産む気はない」って」

コウジ「じゃあ、別の理由が?」

サヤ「まあ、全くなかったとは言えないけどさ。あの人ちょっとクセあるし」

 アカリ控えめに「はぁ!?」ってリアクション取ってもいいかも。

コウジ「君が言うとなんか…」

サヤ「え?何?」

コウジ「なんでもない」

サヤ「男ってさ、一緒に住んでれば女が少しづつ譲歩してくれるようになるとか思ってるのかもしれないけど、少なくともアカリさんの問題はそんな軽いもんじゃなかったわけ」

コウジ「それは、そうだよね」

 アカリ、男Aはける。

サヤ「コウジ君はさ、それなりに聞いたじゃん。だからわかるかもしれないけど、アカリさん多分アイリさんのこと隠してたんだと思うわけ」

コウジ「ああ…」

サヤ「わかる?何も知らない男が理由も知らないで「そのうち譲歩してくれるだろう」って期待してんの。で、いつまで経っても変わんないから理解できなくて別れんの。はーアカリさんかわいそ」

コウジ「説明すれば…」

サヤ「本気で言ってる!?」

コウジ「少なくとも俺には話してくれたんだから…」

サヤ「もしかしたら最初の彼氏には話したのかもね。でもさ、信じられると思う?「姉があの“眠り姫”なんです~」って。万が一信じたとして、産まないって思うほどの怖さが理解できると思う?あんたわかってなかったでしょ?」

コウジ「そんなことは!」

サヤ「その口から「説明すれば」って言葉が出たのが証拠。少なくともアカリさんの年代は“眠り姫”ドンピシャ世代だからね。調べないと出てこないあたしらとはわけが違うのよ」

コウジ「…」

サヤ「はぁ…だらしないの。やっぱいいわ。一万」

 暗。

#K「選択」

 暗のまま。

 SE:車のドアの閉じる音×2

コウジ「あの、サヤさん」

サヤ「何?」

コウジ「ここから診療所って結構近い?」

サヤ「まあ。行く気?葬儀まであんまり時間ないけど?」

コウジ「ちょっと遅れるかもしれないけど、どうしても行っておきたくて」

サヤ「アイリさん?」

コウジ「ええ、まあ」

サヤ「…わかった。しょうがない、あたしちょっとやることあるから。診療所ここまっすぐ行けば着くから」

コウジ「わかりました」

サヤ「あんまり遅れ過ぎないでね!」

コウジ「はい!」

 下手面にスポットでコウジ、客席側を向いている。しゃがんで、手を合わせる。

コウジ「お久しぶりです。大島先生…」

 スポットが消える。

 SE:診療所の引き戸の開閉音

 上手が明るくなり、ベッドにアイリ。奥からリンゴとまな板(軽いやつ)と包丁を持ってコウジが出てくる。

 下手で葬儀場の場面。アカリの親族にあたる人間が居ないため最も関わりが深かったサヤが取り仕切っている。人はほとんど居ない。

コウジ「アイリさん、お久しぶりです。覚えていますか?アカリさんに紹介してもらったコウジです。…その、お変わりないようで良かった(よかった…のだろうか)。アカリさんのことは残念でした。きっと今までたくさんお話してきたのでしょうね。…覚えていますか?りんご。この島のじゃないんでちょっと味は落ちるかもしれないですけど、美味しいやつ持ってきたんですよ」

 下手では静かに葬儀が始まる。サヤは何度も時計を見ながら少し不安そうにしている。(無声)

コウジ「…リンゴと眠り姫、か。おとぎ話ならこの後、王子様のキスでお姫様は目を覚ますっていうけど…俺は王子様っていうにはな…第一おっさんだし」

 リンゴを切り始めて。

コウジ「そういえばアイリさんは誰かとキスとかしたことあるのかな?それともそんなことも経験しないまま眠ってしまったんだろうか…。だとしたら可哀そうだな。きっと学校じゃモテてただろうに」

 コウジ、診療所の中を眺めて。

コウジ「君はいつまでここで眠っているんだ?お父さんもお母さんも、アカリさんも居なくなって…親戚も甥っ子も姪っ子もいない。孤独じゃないか。俺なら耐えられない。いや、眠っているから関係ないのか…でも。君はどんな夢を見ているんだ?アカリさんの声は届いていたのかい?こんなに気持ち良さそうに寝息を立てているのに…まるで時間に置いて行かれたみたいな…」

 コウジ、リンゴを齧る。

コウジ「前にここで食べたリンゴの方が美味しかったな」

 コウジ、席を立って出ていこうと背を向ける。

コウジ「さようなら、アイリさん…またいつか…」

アカリの声「私が居なくなった世界で姉を一人置いて行ったとして、どうなるか…」

 一歩踏み出そうとするが、立ち尽くした後、その場に崩れる。

コウジ「ああ、ダメだ…今、とても良くないことを考えてしまった…!」

 振り返り、包丁を握る。

アカリの声「そういう意味じゃない。これを話すのはあなたに負担をかけるためじゃない」

コウジ「ダメだ…ダメだ…ダメだ」

 息が震える。

アカリの声「私の勝手よ。あなたなら、この事実と距離を取れると思った」

コウジ「この子は一生このままなのか?一生…いつまで続くかわからない中で誰も居なくなった世界で」

 下手面に現在アカリが出てくる。自分の告別式を眺めるものの、その目は早々に上手の二人に向けられる。下手が暗くなり、クロスフェードで現在アカリへ暗めのスポット。

コウジ「アカリさんは独りぼっちで逝ってしまうのか?この子はこのまま独りぼっちで眠り続けるのか?それでいいのか?…アカリさん、あなたはそれでいいんですか?」

アカリの声「でももしコウジ君の記事が上手かったとして、それじゃもしかしたら私は話してみようと思わなかったかもしれない」

コウジ「俺は…いいと思えない。ダメだなぁ…こんな時、ここに大島先生が居たら、なんていうだろう?そんな馬鹿な事いってないでリンゴでも食えって言うのかな?…サヤさん、ごめんなさい。葬儀には行けそうにないです…。これは、間違いかもしれない。けれど、どうしても俺はこの二人がそれぞれ孤独にいかなきゃいけない理由がわからない。思い浮かばない。たくさん苦しんできたアカリさんが、アイリさんを置いたままで…。アイリさんが自分で逝けないのなら…」

アカリの声「姉を“人として見てる”と感じたのは偶然にもあなたの記事だけだった」

 コウジ、包丁を振り上げる。

アカリ「縁なんて…」

 振り下ろすと同時に暗。

 その後のコウジの声と共にベッド周囲を照らすオレンジ色のスポットがゆっくりと明るめに
 

コウジの声「いつか、こうしてしまう気がしていた。だから怖かったのかもしれない。誰も居なくなった世界でアイリさんはどう扱われるのか、想像するのは容易かった。誰かがやらなければ、彼女はアカリさんにも永遠に再会できないまま、また“眠り姫伝説”が世間に流れただろう。誰も守るものが居ない世界でそれは、彼女にとって悲劇だろう。それでも彼女自身は眠ったまま何も感じなかっただろうか?だとしてもこの選択に後悔はしない…。アイリさん、アカリさん…どうか…」

ベッド脇で気を失うコウジ。その傍にアカリが立っている。コウジを慰めるように手を触れ、その後アイリに目を移してベッドの奥側へ。

 目を覚ますアイリ。状況がわからないといった感じでキョロキョロする。
 
 手を伸ばすアカリ。目が合う二人。

 コウジの声の終わりと共に暗転。

#L「二人の夢」

 過去のアカリが姉を探して下手から出てくる。

過去アカリ「お姉ちゃんー!ねえーお姉ちゃんー!どこに行ったのー!お願い、出てきてよー!」

 上手からアイリが眠そうに目を擦りながら出てくる。

アイリ「あれ?アカリ?お姉ちゃんここにいるよー(あくび)」

過去アカリ「ちょっとお姉ちゃん!やっと見つけた!」

アイリ「なんかすごく長い間眠ってた気がする…」

過去アカリ「そうだよお姉ちゃん寝すぎだよ!ほらあっちでみんな待ってるよ!一緒に行こう?」

アイリ「うん!」

 MU:「グラヴィティ(ポルノグラフィティ)」2番から

ここから音楽に合わせて

①草原や美しい自然の中、お花畑の中に居るように2人で走り回ったり、遠くを指さして何かを見つめたり、客席まで行ってお客さんにちょっかい出してもいいかもしれない。

②ラストサビ前くらいで向井母と父登場。二人を舞台中央へ呼び戻して抱き合ったり撫でたり笑いあったり、写真を取り合ってるジェスチャーなんかもいいかもしれない。
ラストサビ終わりくらいで母と父二人は先に舞台奥へはける。

③ラストサビ後、曲調が変わるところで奥から客席へ向かうスポットに切り替わる。できたら姉妹二人で踊るように舞台奥へ退場していき、スポットが消えて暗転。終。

最後はMU:空と君のあいだに(中島みゆき)でエンディング。
(願わくばちょっと歌詞を聴かせたい)

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