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【感想】劇場映画『ワン・バトル・アフター・アナザー』

ポール・トーマス・アンダーソンa.k.a. PTA

カンヌ・ベネチア・ベルリンの世界三大映画祭の全てで受賞経験を持つ紛うことなき天才
しかし一方で、決して娯楽作家ではなく万人にオススメできる決定打が無いのもまた事実だったように思う。
個人的には前作『リコリス・ピザ』が一番見やすいかなと。

そんなPTAの新作はまさかの(?)ビッグバジェットのアクション娯楽大作
…大丈夫なのか?w
本作の情報を初めて聞いたとき「アクション撮れるのか?」という一抹の不安を抱いたのは私だけではあるまい。
日本公開前に聞こえてくる絶賛の嵐で大丈夫そうとは思いつつ鑑賞前はまだ半信半疑w

公開初日にグランドシネマサンシャイン池袋のIMAXレーザーGTで観てきました。

仕事は午後半休 m(_ _)m

いやー、すごかった!!!

撮影のダイナミズム

本作は、というかPTAの作品はいつも撮影が素晴らしい。
なんと今回はビスタビジョンで撮影(!)
(ちなみに「ビスタビジョンって何?」という方には書籍『映画技術入門』がオススメ)

IMAXレーザーGTだと全編1.43:1画角で上映される。
文字通り映像を浴びるという体験。

『ワン・バトル・アフター・アナザー』に映画的な息吹・リズムを与えているのが

  • 流れるようなカメラワーク

  • 臨場感溢れる手持ちカメラ

の合わせ技
鑑賞中ずっと惚れ惚れしてしまった。

映画が始まってすぐ、冒頭の夜を捉えたショットからもう素晴らしい。
特に16年前を描く過去パートは編集のテンポも良すぎて圧巻。
映画のお手本のように鮮やかな手さばきでフレンチ75の隆盛と斜陽を描いていく。
第一幕の疾走感は本当に圧倒的だった。

他に印象に残ったショット

  • 銀行強盗からの逃走シークエンスでの真上からの空撮

  • 移民収容所を警察官が歩くシーン(あそこはジャンプカットする編集も素晴らしかった)

  • 店の2階に上がってからの長回し

  • 屋根伝いの逃亡劇の逆光カット

  • 病院からの脱出劇やウィラが銃を手にしたシーンでの、横移動カメラワークからの奥行きを強調した画面設計

カメラが動く。
被写体が動く。
観客の視点が動く。
ここに編集と劇伴を加えてリズミカルに組み合わせれば傑作映画になるというのを本当にやってのけたPTAはマジで偉大すぎる。

そして終盤のカーチェイス!!!
あれは本当に凄い。
マジで見たことない映像
『罪人たち』の酒場ライブのシーンと並んで2025年のハイライト

本作は「スピルバーグ大絶賛」と宣伝されているが、まさに『激突!』のオマージュかつ進化版でもある。

脚本・構成

そんな本作のストーリーやテーマは現代アメリカ社会批評ひいてはトランプ批判と読み解かれることが多いように思う。
確かにフレンチ75は黒人を中心メンバーとして移民解放のために動く革命集団だし、中盤で主人公を助けるのもヒスパニック系移民だ。

ちなみに台詞に何度も登場する「地下鉄道」はバリー・ジェンキンスがAmazonでドラマ化したこれ。

フレンチ75の活動の根底には虐げられてきた人々の怒りがある。
そういう意味では大友啓史監督の『宝島』にも通じるものが。

「沖縄の方言が強くて台詞が聞き取れない」という声があるようだが、本作も劇中で喋られるスペイン語に字幕は付かない(日本語字幕だけでなく英語字幕も無い)

しかし、そういった政治的イデオロギーが物語を貫くのかと思いきや後半にウィラの父親をめぐる意外なツイストがあり、PTAの作家性ともいえる父性の話になっていく。
そう、ボブ(レオナルド・ディカプリオ)もロックジョー(ショーン・ペン)も動機は政治的信条ではなく極めて私的な感情なのである。
なので個人的には本作は政治性・社会性を全く帯びていないとは言わないが、途中で明確にそこから降りている=政治性・社会性は本作の主題ではないと思う。

その結末を「2人の男が戦い、より力の強い者が娘を所有する」という安っぽいドラマにしなかった脚本も丁寧で良かった。
2人の男の争いは第三者(刺客として送り込まれた殺し屋)によりあっけなく幕引き。
ウィラも最後は父親に助けられるのではなく自分の手で自分の身を守った。
いくら革命集団(テロリスト)が主人公の映画だからといって暴力は肯定しないという明確なメッセージ。

また、シリアス一辺倒ではなく随所にコメディ要素を挟んでくるのも上手い。

  • しつこく聞かれる「今の時間は?」

  • 充電したいのになかなか出来ない

この辺りが好きでしたw

そういえばセンセイ役のベニチオ・デル・トロはウェス・アンダーソン作品にも出てたな。

世界二大アンダーソンを制覇

ジェームズ・ガンとの共鳴

さて、移民や白人至上主義を描いた作品といえば近々のDCU作品=ジェームズ・ガンの作品が思い浮かぶ。

特に『ピースメイカー』シーズン2は第6話で異次元のアースXがナチス統制下の白人至上主義が支配する世界だと判明するも、第7話でクリス(ジョン・シナ)の個人の葛藤や苦悩のドラマにツイストするなど類似点が多い。
音楽の使い方とかもだけど、個人的にはポール・トーマス・アンダーソンとジェームズ・ガンって全然結び付けて考えたことない作家だったけど意外と似てるのか?

『スーパーマン』やアレックス・ガーランドの『シビル・ウォー アメリカ最後の日』がメディアやジャーナリズムを通じたマクロな視点から現代アメリカ社会を批評したのに対し、『ワン・バトル・アフター・アナザー』や『ピースメイカー』の着地は私的でミクロである。

『ピースメイカー』シーズン2の第7話の終盤に出てきた台詞

残念ながら(この世界の問題は)俺の力では正せん。
目の前のイカれた人殺しや怪物を倒すのが限界だ。
人生を終え神に裁きを受ける時、俺が力を尽くしたと知ってほしい。
より良い世界にして世を去るのだと。

『ピースメイカー』シーズン2第7話

まさに『ワン・バトル・アフター・アナザー』の終盤に登場した手紙と共鳴する。
この世界をより良くするために、我々は小さくても眼前の課題と戦い続けるのである。

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