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英語だけが世界の入口じゃなかった。チェコで25ヶ国語を話す達人に出会った話。

僕はこれまで、ずっと英語を教えてきた。中学校教師、EdTech、英語教育事業。そしてロンドンの大学院で応用言語学を学んでいる。妻はアメリカ人で色んな国で生活をしている。

そんな僕がチェコに行った。

すると、

そこは言語学習者の巣窟だった。



2026年5月、チェコで開催された「Polyglot Gathering」というイベントに参加してきました。Polyglotとは複数の言語を話す人たちのことで、このイベントには世界中から言語が大好きな人たちが集まります。言語学習の方法についてプレゼンテーションをしたり、自分が話せる言語を使って交流したり、いろんな国の文化を紹介したりする5日間のイベントです。

参加人数は900人越え。熱狂が生まれていました。



僕は大学院で応用言語学を勉強していますが、こんなイベントが存在すること自体知りませんでした。たまたまSNSか何かで見つけて「なんやこれ。絶対行きたい」と思い、勢いだけでチェコ行きを決めました。しかもプレゼンターとして笑。

僕は昔から複数の言語を話せる人たちに強い憧れがあります。大学4年生の時にスペインへ短期留学した時、周りの友達がスペイン語、英語、フランス語など3〜4ヶ国語を普通に話していて衝撃を受けました。英語を話せるようになるだけでもあれだけ苦労したのに「まだいくん?」と思いました。そこから多言語話者にずっと興味があったので、世界中のPolyglotが集まると聞いて行かない理由がありませんでした。

ということで、チェコへ。

朝イチのヒースロー空港は怖いぐらい静かだった。



チェコに足を踏み入れると、そこは言語学習者の巣窟だった

会場に着いてまず面白かったのが、参加者が首から自分の話せる言語が書かれたカードをぶら下げていたことです。英語、スペイン語、フランス語、ドイツ語。ここまでは分かる。でも、まだ国旗がある。下にもある。まだある。なんかめっちゃある。

大体みんなこんな感じ。えぐいてぇ。




3ヶ国語、4ヶ国語を話せる人は普通にいました。5ヶ国語、8ヶ国語、10ヶ国語。イベントに参加して数時間で自分の感覚が完全にバグり、5ヶ国語くらいではあまり驚かなくなりました(十分すごい)。僕は英語と日本語、そして少しだけスペイン語を話せるので、この世界では完全にひよっこです。産まれてすらないレベル🐣。普段「UCLで応用言語学を勉強しています」と言うとちょっと強そうに見えるのですが、ここではそんな肩書きは何の役にも立ちませんでした。周りにいる人たちが言語モンスターすぎる。

日本人は僕を含めて数人しかいなかったです(チェコだからね。その分、日本語を勉強している人たちがめちゃくちゃ話しかけてくれました。僕が日本人だと分かると、いきなり日本語で話しかけてくる。「日本に行ったことがあります」「日本語を勉強しています」と嬉しそうに話してくれて、僕もめちゃくちゃ嬉しかったです。僕は1人で参加しましたが、初日からたくさん友達ができました。みんな言語が好きなので、そもそも人とコミュニケーションを取ること自体が好きな人が多いのだと思います。知らない人に話しかけることへのハードルが異常に低い。僕には最高の環境でした。

初日の夜には、各国のお菓子や食べ物、飲み物などを持ち寄って紹介するイベントがありました。いろんな国のテーブルが並び、それぞれが自分の国のものを紹介していて、会場は人でパンパン。めちゃくちゃ楽しかったです。ただ、一つ問題がありました。僕はそんなイベントがあることを知らなかったので、日本から何も持ってきていませんでした。

これはマズいと思い、チェコにあるアジア系スーパーまで走って行って(マジで走りました、ラムネ、ポッキー、コアラのマーチなどを大量に買いました。日本だったら2,000円くらいで買えそうな量でしたが、6,000円くらいしました。ポッキー高すぎるやろ。それでも持って帰るとめちゃくちゃ喜んでくれて、ポッキーを食べながら日本の話をしたり、相手の国のお菓子をもらったりしました。言語村でも絶対こういうことをやりたいと思いました。同じものを食べるだけで自然と会話が始まる。言葉が完璧じゃなくても、食べ物や遊びを間に置くだけで人って簡単につながれるんですよね。

抹茶ラムネを配る。ごめん、日本人これ飲まへんねん。
でも、みんな喜ぶから買ってきた。
お返しに、と40度のエストニアアルコールを受け取る。
笑顔が可愛すぎて断れなかった。

パーティーが終わって人が少なくなってきた頃、会場には大量のゴミが残っていました。僕はというと、普通に早く寝たかったので帰るつもりでした。

すると、一緒に参加していた日本人のよしきさんが、突如サムライブルーを発揮し始めました。誰に頼まれたわけでもないのに、会場に残ったゴミを拾い始めたのです。帰ろうとしていた僕も、その背中を見て「これは帰られへんな」と参戦。結局、ゴミ拾いだけでなく、その後の設営まで夜11時くらいまで手伝いました。

運営の人たちもそれを見ていて、僕のことを覚えてくれました。そこから少しずつ話すようになって、イベントの中にも入りやすくなっていきました。世界中から言語オタクが集まるイベントで、日本人二人が最初に発揮したのは語学力ではなく、日本人勤勉さでした。

運営チームのみんな。みんなでやると楽しい!!

日本の株、上げときました(ドヤ顔)。

いや、真面目な話こういうのって本当に大切ですよね。世界でプレゼンスを発揮する時にどう発揮するか。よしきさんは大切なことを教えてくれました。


サムライブルーよしきさん。ガチでリスペクト。

25ヶ国語を話す台湾人に出会った



このイベントで一番衝撃だった出会いの一つが、台湾人のTerryさんです。きっかけは会場で日本人の方に話しかけたことでした。その方はスペインで科学者をされていて、その人自身もかなりの多言語話者でした(登場人物が全員強い)。その方から「日本人がいるよ」と紹介してもらったのがTerryさんでした。

Terryさんは僕を見るなり普通に日本語で話しかけてきました。しかもめちゃくちゃ上手。スペイン語も話せるというので少しスペイン語でも話しました。他にもエスペラントを含めていろんな言語を話すことができ、聞くと25ヶ国語くらい話せるらしいです。25ヶ国語て。ほんまかいな。

しかも大阪にもよく来るらしく、なぜか大阪の中小企業の社長たちともつながっている。世界中のLanguage Exchangeのコミュニティにも関わっていて、とにかくいろんな人や場所を知っていました。話せば話すほど何者なのか分からなくなりました。その後も「大阪だったらここに行った方がいい」「この人と話した方がいい」といろんな場所や人を紹介してくれて、それが今の言語村の活動にもつながっています。今では僕の中で師匠みたいな存在です。

右のメガネの男性がテリーさん。
ホテルの自室でワインパーティするぐらいのパリピ。



ちなみに25ヶ国語話者と出会って僕が最初にした会話の一つは、日本の夜の店についての説明でした。Terryさんと一緒に他の人たちに一生懸命説明しました。もっと他に伝えるべき日本文化あったやろ。

他にも忘れられない出会いがありました。視覚に障害のあるPolyglotの女性です。その方も十数ヶ国語を話すことができ、日本語も話せました。一緒に昼ごはんを食べながら言語学習についていろいろ話しました。文字を見ることができない中で、耳で聞いて、口に出して、いろんな言語を身につけてきたそうです。

僕たちは外国語を勉強していると「単語が覚えられない」「時間がない」「自分には才能がない」と思うことがあります。もちろん人それぞれいろんな事情があるので、単純に比較する話ではありません。ただ、その人が楽しそうにいろんな言語を使って人と話している姿を見て、純粋に「人間ってここまでできるんや」と思いました。心からのリスペクト。言語を学ぶこと自体が、その人の人生を豊かにしているように見えました。

最終日、吐きそうになりながらプレゼンする



そして今回、僕自身もこのイベントでプレゼンテーションをしました。これが今回一番「来てよかった」と思えた瞬間です。

正直に言うと、めちゃくちゃ緊張していました。初めて参加するイベントで、どんな人が来るのかも分からない。周りを見渡せば10ヶ国語とか話せる人が普通にいる。僕は大学院で応用言語学を勉強しているとはいえ、研究者として長年活動してきたわけでもないし、Polyglotとして何十ヶ国語も話せるわけでもありません。「俺、ここで何喋んねん」となっていました。

しかも当時は修士論文も進めないといけなかったので、イベント期間中も夜中まで作業していました。プレゼンの準備もあり、修論もあり、周りは言語モンスターだらけ。正直、吐きそうでした。

最初は、僕が大学院で学んできたことをベースに、参加者自身の言語学習について考えてもらうようなワークショップ形式にしようと思っていました。でも現地に行って他の人たちのプレゼンを見ていると、具体的な言語学習法を説明したり、発音についてかなり詳しく解説したり、とにかく内容が濃かったです。各部屋は100人くらい入るキャパで、人気のセッションには50人以上が普通に入っていました。

他の人の発表中。完成度高すぎてお腹痛くなる。

「これ、今用意してる内容では違うなぁ」と思いました。
というか日本人の僕が伝える意味があるのかなぁとか思ってしまいました。

なので現地で内容を大幅に変えました。言語学習の方法論を説明するのではなく、「そもそも、なぜ僕たちは言語を学ぶのか」という話をすることにしました。言語とアイデンティティがどうつながっているのか。なぜ英語だけではなく、いろんな言語が存在し続けることが大切なのか。パプアニューギニアで出会った先生から言われたことや、大学院で言語の多様性について学んで自分自身の英語教育への見方がどう変わったのか。そして最後に、日本に「言語村」をつくりたいという話をしました。

僕のプレゼンにも50人くらいの人が来てくれました。話している途中、泣いている人がいました。最後には大きな拍手をもらいました。言語村をつくると言った時にもみんなが拍手してくれて、終わった後にはInstagramを聞きに来てくれたり、「一緒に何かやりたい」「日本でやるなら行きたい」と言ってくれる人がたくさんいました。

あの瞬間は本当に嬉しかったです。夜中まで準備して、吐きそうになりながら前に立って、本当にやってよかったと思いました。

夢を叶えるためには勇気を出して声を上げることだ(Masato 2026)
プレゼンの内容に関してもまた記事にします。



ただ、このイベントがずっと美しい空間だったかというと、そんなこともありませんでした。5日間の中で参加者同士がかなり激しくぶつかっている場面も見ました。僕が見ただけでも2回くらいありました。そのうちの一つはアメリカ人同士で、今世界で起きている戦争へのスタンスについて意見がぶつかっていました。かなり加熱していてFワードが飛び交っていました。世界平和を目指す多言語イベントでFワードが飛び交う。なかなか考えさせられる光景でした。。。

でも、ある意味これもこのイベントの一部なんだと思います。いろんな国、宗教、文化、政治的背景を持つ人が一つの場所に集まり、たくさん会話をすれば、当然すれ違うこともある。異文化理解って「いろんな国の料理を食べて楽しいね」で終わるものではなく、自分には全く理解できない考えを持っている人と出会った時に、それでも相手を理解しようとできるかという話なんだと思います。時にはぶつかることもあるでしょう。言語を話せるだけでは平和にはならない。当たり前ですが、そんなことも改めて感じました。

なぜ人は「必要以上」に言語を学ぶのか



5日間、こんな人たちに囲まれていると、だんだん一つの疑問が湧いてきました。

「この人たち、なんでここまで言語を勉強をするのだろうか。」

仕事で必要なのかというと、おそらくそうではありません。25ヶ国語必要な仕事なんてほぼないと思います。しかも今はAIがあります。翻訳したければ一瞬でできますし、スマホを向ければ文字も読める。情報を正確に伝えるという目的だけで考えれば、人間が何年もかけて外国語を勉強することは、どんどん非効率になっているのかもしれません。

それなのに、目の前にはその一見すると「非効率なこと」を嬉々としてやっている人間が大量にいました。理由を尋ねてみると家族のルーツを知るために言語を学ぶ人、自分の祖父母が使っていた言葉を勉強する人、世界平和への想いを持ってエスペラントを学ぶ人、ただただ言語が好きで気づいたら何ヶ国語も話せるようになっていた人。しかも、みんなめちゃくちゃ楽しそうです。

イベントには「英語を使わない場所」までありました。世界中から人が集まっているので、英語を使えば一番簡単にコミュニケーションが取れます。それでも、あえて英語を使わない。相手が話す言語を使ってみる。間違える。教えてもらう。通じたら嬉しい。そういう遠回りをみんな楽しんでいました。

これを見ていると、言語って「情報を伝えるための道具」だけではないんだと思います。相手の言葉を使うということ自体が、その人の生きる世界に少し入ってみる行為なのかもしれません。

僕は大阪で生まれ育ち、普段から大阪弁を話します。「知らんけど」「ちゃうねん」「なんでやねん」。こんな言葉を使いながら人と関わっています。もし明日から大阪弁がなくなったら、僕はどうやってボケたらいいのか分かりません(笑)。でも、これは結構本気で思っています。言葉って、自分がどう笑うか、どう怒るか、どう人と距離を縮めるか、どう自分を表現するかという部分と深くつながっていると思います。Bonny Nortonは、言語学習をアイデンティティと切り離して考えることはできないと論じています(Norton, 2013)。

パプアニューギニアを訪れた時にも、現地の先生から「英語を話すことはいつもポジティブなこととは限らない」と言われました。英語が広がることで自分たちの母語が失われれば、そこに紐づいている文化やアイデンティティまで薄れていく可能性がある。ずっと英語を教えてきた僕にとって、この言葉は強烈に自分へ跳ね返ってきました。

踊りに参加させてくれたオロの人々。ありがとう。
うるさいオカンに「Masatoも踊れ!」と120回ぐらい言われて半強制的に混じりました。
神聖な踊りに絶対こんな格好で入ったらあかん。



だから今、僕は「なぜ人は必要以上に言語を学ぶのか」という問いがすごく面白いです。

必要なことだけを考えれば、みんなが一つの言語を話せばいいのかもしれません。もっと効率だけを考えればAIを使えばいい。でも、人間はわざわざ相手の言葉を覚える。発音を間違えながら話す。通じたら喜ぶ。知らなかった文化に興味を持つ。そして、またその人と話したくなる。

この「必要以上」の部分に、言語を学ぶ面白さがあるんじゃないかと思っています。

そして今、日本に「言語村」をつくろうとしています。いろんな国の人が集まり、言語や文化を教え合い、同じ釜の飯を食べ、一緒に過ごす。気づいたらいろんな国の友達ができて、知らなかった言語をちょっと勉強してみたくなっている。そんな場所をつくりたいと思っています。

今回Polyglot Gatheringに参加して、言語村でやりたいことがたくさん増えました。各国の食べ物を持ち寄るのもやりたいし、いろんな言語を教え合う時間もつくりたい。英語禁止の時間があっても面白い。世界中のPolyglotにも来てもらいたい。そして何より、外国語が全く話せない人にも来てほしいと思っています。2月に大阪で開催する予定で動いております。

別に25ヶ国語話せなくていい。2ヶ国語話せなくてもいい。「スペイン語ちょっと面白そう」「台湾行ってみたい」「この人ともう一回話したい」。そんな小さな興味が生まれる場所をつくりたい。

チェコでの強烈な出会いの連続がこのゴールを突き動かしてくれました。

そして僕は、25ヶ国語話者に出会い、ポッキーと変な抹茶ラムネに6,000円払い、吐きそうになりながらプレゼンをして、未来の言語村に持って帰りたいものをたくさん見つけました。苦しい、、、笑

まだ「なぜ人は必要以上に言語を学ぶのか」という問いへの答えは分かりません。

だから、もう少し世界を回って考えてみようと思います。

僕の探究はこれからも続く。。。

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