桜とたんぽぽ|シロクマ文芸部
「夜桜とわたし、どちらが綺麗だと思う?」
突然香織が僕をじっと見つめて口にした。僕たちは桜のライトアップを楽しんでいるところだった。
「突然何を言い出すかと思えば、在り来りな質問だね。どこにでもそんなこと言う人がいるんだよなあ。どっちでもいいじゃん。比べようがないし」
「ああ、やっぱり健二くんは桜の方が綺麗だと思ってるのね」
「そんなことないよ。比べようがないって言ったでしょ。聞いてなかったの?」
「そんな言葉には騙されないわよ。わたしはいつも綺麗だとは言われないんだ。みんな可愛いとしか言ってくれないの」
「可愛いも褒め言葉でしょ。そのまま受け取った方がいいと思うよ」
「それってわたしがひねくれてるって言いたいの?」
「違うよ。綺麗と可愛いは褒め言葉だけどニュアンスの違いっていうか」
「じゃあ、教えて。桜はなぜ綺麗だと思うの?」
「え?そりゃこの時期にしか咲かないからでしょ。儚い命だけが持つ独特の美しさっていうか」
「あ、薄命なら綺麗なのね?美人薄命って言うし」
「そうだね。でも人間の薄命は良くないよ。やっぱり命があってこその輝きだと思うよ」
「わたしは健康体だからやっぱり綺麗とは無縁な存在ね」
「だから、健康な方がいいじゃない。幸せでしょ」
「健二くん、わたしは綺麗だって言われたいの。まだ分からない?どこまで話してもわたしは綺麗じゃないってことなのね」
「だから、香織は可愛いよって言ってるじゃない。どうしても綺麗だって言って欲しいの?」
「いや、別に……」
「やっぱり、香織はどこまでも可愛いよ。綺麗という感じじゃなく」
「あ、そう……。じゃあさ、わたしを春の花に例えるとしたら何?」
「うーん、たんぽぽ、かなあ」
「今度一緒に散歩してたんぽぽを探そうよ」
「なんで?」
「たんぽぽとわたし、どっちが可愛いかって聞いたら今後こそ勝てるかもしれないじゃん」
僕は呆れたと同時になんだかとても嬉しくなった。
「やっぱり香織は綺麗じゃないけど、可愛いよ。きっとたんぽぽに勝てると思うよ」
それを聞いて香織はスポットライトを浴びてより怪しげな美しさを醸し出す桜の木に近づいて行った。そして桜の花に負けないくらいに頬をピンク色に染めて、顔をくしゃくしゃにしながら僕に微笑んだ。
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