益子で暮らす私の、衣食住と生活の変化
三ヶ月前、私は思い切って会社を辞め、車に荷物を積み込み、7月8日に、のどかな里山風景が美しい益子町にやってきました。益子町を知ったのは、仕事のために東北を出て関東にやって来て間もない頃です。なにやら大規模な陶器市が開催されているのが『益子』という町らしい、最初はそんな印象でした。当時の私は益子焼よりも、栃木の古道具・古家具店に惹かれて2023年の12月に初めて益子町を訪れたのです。
その後何度か足を運ぶうちに、栃木県民の人柄や地元の方同士の関わりや営み、民藝運動を通じて『用の美』の精神を柳宗悦と共に広めた濱田庄司にも興味が湧き、次第に私の中で益子は特別な存在になっていきました。

「濱田庄司記念益子参考館」の上ん台
平日の落ち着いた益子も陶器市でにぎわう益子も知る中で、ふと、なんでもない益子での生活を思い描いた時に、その土地での暮らしを楽しみながら生活を営む自分の姿があるがままに想像できました。いきなり移住する勇気はないけれど、『観光よりも深く、益子という土地・地域に関わりたい』という想いが根源にあったからこそ、今回のような大きな決断ができたような気がします。
現在、益子に来て1ヶ月半が過ぎました。3ヶ月は長いようで短く、毎日が新鮮な記憶のまま、あっという間に時間が過ぎてゆきます。

陶磁器専門店の前を自転車で通ったり、草木の青々とした匂いや土の匂いを身近に感じる度に、益子で生活していることを実感できて嬉しくなりますし、益子での衣食住についても考えをめぐらせる機会が増えました。
まず、衣服について。着る服はだいぶ変わりました。平日に私服で仕事ができる環境というのは気分も上がり、いいものだなと思いました。休日は仕立ての良い服を着るというより、気候に合わせた機能性重視の服選びが基準となり、アクセサリーや香水も最近はあまり使わなくなりました。普段電動自転車で移動しているからというのもありますが、気を張らずに、動きやすい格好で外に出ることが多くなりました。自転車に乗っていると風を感じることができますし、ゆっくり流れる景色の中、心が解けていくような感覚にもなります。益子に来る前は千葉に住んでいましたが、休日に東京へ出ると身なりに気を遣っている方々が多く、私もそれなりの身なりで外出することが多かったように感じます。メイクや服装でかっこよくスタイリングするのも好きですが、こちらにいるとそんなものはどうでもよくて、その土地や地域のことに詳しくていろんな人に必要とされて忙しく動き回っているような、ぎゅっと中身が詰まっている人ほど魅力的に見え、私もこの人たちのようになりたいと初めて思うことができました。
次に、食事について。生活圏内にコンビニやチェーン店がなく、無駄な出費がほぼありません。生活圏内にあるから利用してしまいますが、なければ利用するという選択肢すらありません。朝、お茶を水筒に入れておにぎりを握って詰めたら、昼食は十分で、これだけで満足できる身体に不思議と変化していました。また、野菜の摂取量が大幅に増えたと感じています。道の駅で発見した珍しい西洋野菜を買って調理してみたり、紫蘇の葉を買って紫蘇ジュースを作ってみたり。あとは、事業所先の方からいただいたナスやきゅうり、ピーマン、ゴーヤなどの夏野菜を使って夏野菜カレーを作ったり、益子のビルマ汁をみんなで作って食べてみたり。別のシェアメイトの一人は事業所先でブルーベリーをいただき、それをジャムにしてパンに塗って食べたり。自らの手で作って食べることをここまで継続できるのは、気持ちにゆとりがないとなかなか実践できません。そう考えると、ここでの暮らしは肌に合っているんだと思います。

しかし、食べ物やこれだけ簡素な生活なのに全くストレスがないことに、自分自身が驚いています。同郷である宮沢賢治の「雨ニモマケズ」を思い出し、私は、あの詩に込められた思いに通ずる人になりたいのだと、本当の意味で理解できたような気がしました。
それから、住まいについて。シェアハウスでの憧れていた古民家暮らし。玄関脇の渋いグラデーションの壁タイルや光がたくさん入る台所の窓、午後になると廊下の先にある窓から裏庭の植物の色を含んだ光が床を染めます。そして、階段を上がった右手の私の部屋は、畳の匂いや障子のやわらかい光、比較的新しい砂壁があります。幼少期によく泊まっていた祖父母の家を彷彿とさせ、今はもうない振り子時計の懐かしい音を思い出しました。掃除は、自前の柄長箒である「棕櫚箒」と厚紙を貼り合わせたものに柿渋が塗られた紙製ちりとりの「はりみ」を用い、畳や廊下を掃くのが好きです。ものに対する考え方も少し変わりました。益子に来る前、私はたくさんのものに囲まれて暮らしていました。しかし必要最低限のもので生活している今、使うために作られたものが、使われることで健全な美しさへ昇華されていく感覚がより身近なものになっています。「ものを所有する」のではなく、「使いながら共に時間を重ねる」ことで、手に馴染み、暮らしにも馴染んでいくのだという『用の美』の精神を益子の地で感じられていることがとても嬉しいのです。また、8月に入ってからは家の中でも外でもよく虫に出会います。ムカデやコオロギ、カマキリ、ウマオイ(通称すいっちょん)など、自然豊かなところも地元にそっくりで、虫たちもまた、この土地で共に生きているのだと思うと、愛おしい気持ちになることもありました。
そして何より変化したのが、時間の使い方と人との関わり方です。以前はSNSを見ては他人の生活を羨んだり、自分の生き方に納得して人生を歩んでいる人を見て、結果ばかり求められる仕事と疲弊する人間関係に耐える代わりに得る安定の繰り返しで、自分の人生を終えて良いのだろうかと悩み、その頃は現状を変える勇気もなく、気を紛らわせるために映画を見たり音楽やポットキャストを聞いたり、その繰り返しでした。
しかし、覚悟を決めて益子町に移り住み、ここでの活動を始めると、自分でも信じられないほどSNSを見る時間は減り、目の前の生活にしっかり向き合い取り組めている感覚があること、そして毎日必ず笑っている自分に気づきました。朝の自転車通勤が気持ち良く、事業所のましコイン事務局の先輩方の仕事のやり取りは思いやりに満ち、退勤時の夏の夕空が当たり前だけど毎日違う、数分ごとに移り変わる空を眺めながら自転車で帰路につくことは、この上なく贅沢な時間だと毎回思います。

帰宅後はシェアメイトと一緒に夕飯を作り、食卓を囲みながらその日の出来事や感じたことを共有する。環境が変わって収入も減ったのにも関わらず、こんなにもストレスフリーで満たされるものだなんて、地域に飛び込んでみないと、この実感はなかなか持てないと思います。

記録用の写真を公開します…!
シェアメイトみんなで囲む食卓

仕事で出会う町役場の方、加盟店まわりで出会う地域の方、日々新しく出会う方全員が、ましコインを普及していこう、益子を良くしていこうと前向きな姿勢で、お祭り運営やイベント出展、地域の活動など、仕事以外にも必ず何かに取り組んでいます。地域のために精力的に活動する皆さんは毎日がとても充実していて、かなり大変そうだけどとても楽しそうです。その人数が多ければ多いほど、町は一丸となって活性化していくのだと益子町に滞在したことで身をもって実感しました。人々の活気や想いがめぐる益子の中で、『人生を豊かにしていくのは、自分が納得する生き方』であることに気づき、その循環の中に身を置けていることがこの上なく幸せだと感じています。ここでは一人の人間として個性が認められ、人と人との繋がりの輪が広がっていくような感覚があります。生活していてとても気持ちが良く、地方で生きる選択肢がより身近で鮮明なものになりました。



益子での衣食住は、私の暮らしを変えただけではなく、「これからどのように生きていきたいのか」を考える時間を与えてくれました。
着るものを選び、旬の野菜を食べ、手に馴染む道具を使う。そんな一見なんでもない日々の営みの中に、自分の人生を豊かにするものがたくさんあることに気づきました。
また、濱田庄司が大切にした『用の美』は、ものが使われることで、その本来の美しさを増していくという考え方でもあります。益子で暮らす人々を見ていると、人もまた同じなのではないかと思うのです。誰かのために動き、地域のために働き、人と関わりながら時間を重ねていく。その中で、その人らしい豊かさを身につけていくのかもしれません。
『衣をまとい、食をつくり、住まいを整える。』そんな日々の営みをこれからも大切にしながら、地域の方々と自分から関わりを持つことを意識して、残りの生活を楽しみたいと思います。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
今回の記事を執筆した、大人の地域留学【益子町編】7月期地域留学生の高橋です。
私は、益子で生活をする中で、感じたことや考えたことを読み物で伝えてみたいと考え、ましコイン事務局に所属しながら自主企画「めぐる、益子。」というイベントに向けてZINEを制作しました。
今回は、そのZINEの中から「私の益子衣食住」を紹介させていただきました。
最後にイベントのお知らせです!

「めぐる、益子。」
日程:2026年9月7日(月)〜9月13日(日)
※各店舗の営業日が開催期間となります
会場:Mingel Farmhouse Beer & Bread、Midnight Breakfast、ましこのごはん(道の駅ましこ内)、Moegi BASE、もえぎ本店(salt coffee serviseさんが週末12、13日に出店されます)
※道の駅にある「ましこのごはん」は、毎月第2火曜は定休日となっております。その他の詳しい営業時間は、各店舗の営業日をご確認ください。
益子に住んでいる方、地域留学に興味がある方、益子に興味がある方、ZINEが欲しい方、ぜひ遊びにきてください!
イベント当日まで、ましコインの公式Instagramで情報発信していきますので、こちらもぜひフォローしてお待ちください。
