人間としての基礎力の構築について〜もっと叱り、もっと叱られるべき〜
当店を懇意にしてくださっている師弟関係のあるお二人のお客様がいます。
そのお二人がたまたま当店に鉢合わせになった時に、師である男性が弟子である20代の女性に「お前にはここでゆっくりしてる時間はないだろう!もっと勉強しろ!」と叱られている場面を見ました。
二人の関係が素敵な関係性であることを僕は少し知っているので、ヒリヒリしたものは感じません。「まぁ叱られることもあるよね」と僕も苦笑いしながらそんなお二人を見ていたんですが、でも、同時に師から弟子への愛情を感じたのです。
いまの世の中、ハラスメントを考慮するが故に、"叱ることができない時代"になっています。結構、危険な状態にある時代です。上の人間が叱ることができない、というのことは、当然ながら下の人間は"叱ってもらえない"のです。
僕自身は、20代の頃から厳しい人の下についてたくさんの指導を受けてきました。好んで厳しい上司を選んでいたわけではなく(当たり前)、いつもなぜかガミガミとうるさい人の下に配属されることが多かったのです。そこで、ビジネスマナーのいろはだけでなく、人間関係における作法に至るまで、本当に細かいところまで指導してもらいました。電話対応中に敬語の使い方を間違った時には、隣のデスクに座っていた上司から僕が座っていた椅子を蹴り上げられたこともあります。女性の上司ですよ(笑)
もちろん当時はそんな状況がすごくいやでしたし、彼ら、彼女らのことは大っ嫌いでした。でも、あの方達に出会っていなかったら、あのガミガミ言われる日々がなかったら、と考えるとゾッとする自分がいます。間違いなく今の僕はいないと思うからです。
20代とか30代の前半の社会人としての人格形成を行う時期に、あの方たちとの出会いがありたくさんの指導を受けることができたのは僕の財産だと、40代になった僕は思います。
僕の周りには、そういう経験ができず、40代、50代を迎えてしまった人たちが実際にいます。言葉を選ばずに書けば"悲惨"そのものです。上から押さえ込まれた経験がないから、間違った自尊心ばかりが肥大化してしまっている。無駄なプライドが構築され、他人の話に耳を傾けることができない。
実社会で上から押さえ込まれる場面からは、逃げようと思えば逃げることができます。辞めればいいし、離れたらいいだけのこと。もちろん「逃げる」ことが大事な場面もあります。世の中、愛情もなくただ泥を浴びせかけるだけの"見せかけの指導"をする輩もいるからです。そこには注意が必要です。
でも、自分の中の片隅に非常ボタンのごとく「逃げる」という選択肢を持ったら、あとは全力でそこに向かっていくべきです。中途半端に立ち向かって良いことなんて何もないんです。中途半端にやると、辛い時間が長引いちゃうだけ。やるときはやる、やらんときはやらん、と割り切って、立ち向かうときは立ち向かうのが良い。
実は、僕は、一年以上ある問題を抱えていました。先方には誠実に対応してほしい、と事あるごとに伝えていましたが、一年以上に渡りいい加減な対応され続けていました。先方の担当者は、僕の部下ではないし、僕が責任を持つべき人間でもありません。だから、彼のそんないい加減な対応を叱るということはしませんし、する必要がありません。ただ、世の中にこんなにもいい加減な人間がいるんだなと呆れ憤っていただけです。最終的に、この問題にキリをつけたいと思った僕は、彼に怒りました。叱っていません。ただ、怒りました。彼がこの先どんな人間性を携えて生きていくかになんて興味はありません。信頼を構築するにはとても時間がかかります。一方で、信頼を失うのは一瞬。でも、僕は一年以上、彼を信用し続けていました。信じたい気持ちがあったからですが、それが仇になることもあります。それから僕がしたいことは、僕たちのお店を守る事のただ一点になりました。
「叱る」と「怒る」には、その違いがあると僕は思っています。
この件に関して、最後には彼の上司が謝罪をしに出てきましたが、「だから何だ?」という謝罪内容で、総じてその謝罪内容を斟酌すると彼らの「自己保身のみ」でした。口では偉そうなことを並べ立て、まったく内実の伴わない薄っぺらさが垣間見えました。彼らと関わる時間がもったいない。僕の怒りの感情も潮が引くように一気に引きました。
問題は解決したか?するわけがありません。僕は泣き寝入りするという選択をすることで、人生という時間を前に進めようと決めました。
生きているとそういう場面にいやでも立ち向かわなくてはいけないときがあります。世の中、いろんな人間がいて、その中で共存しているわけですからある程度仕方がありません。
だからね、20代のみなさん、組織の中で若手でいるうちは、もっと叱られるのがいいですよ。歳を重ねると叱ってもらえないどころか、呆れられて相手にもされなくなっちゃいますからね。そんなみっともない大人になりたくないでしょ?
僕のお店にも、若い時分から「自分は組織に向いていないから、独立してカフェをやりたい」と僕の話を聞きに来る人がいます。率直に「無理だよ」って思います。偉そうなことをいうようだけど、カフェに限らず全ての職業は人間力というか人間としての「総合力」の勝負になります。心技体のどれか一つ足りなくても経営なんてできません。
特に「心」については、その向上に真摯に取り組まなくてはなりません。「組織がいやだから」「うるさく言われるのがいやだから」、そんなふうに思っている時点で何をやっても「無理」です。そんな理由で独立を目指すなら、経営どころか人生そのものが、どこかの時点で間違いなく立ち行かなくなるでしょう。
若いうちに独立なんてしないで、いろんな経験をする中で人間としての基礎力を若いうちにつけておくほうがいいです。ほんとに。昔の人はほんとにいいことをいいますよね。「若いうちの苦労は買ってでもしろ」と。
でも、40代の僕は、人生毎日が結構たのしいですよ。
もちろん、上に書いたようなうざったい出来事ってあるんだけど、それでも、それを含めて「人生だよね」と思う自分もいます。
それはきっと、20代、30代にしんどい思いをしたことによって、ある程度、柔軟性と強さを持てたからじゃないかな、と思うんです。もちろん、まだまだ僕だって発展途上なのだけれど。
だからね、真正面から生きていこうよ、って思うんです。
ノウハウ、テクニックじゃないんですよ。生きるってことは。
