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⚽️無気力試合予想を極上のエンタメに変えた、44年前の因縁と48か国出場の弊害


グループリーグ最終戦には、独特の雰囲気と怖さがある。


勝てば突破、負ければ敗退。
そういう分かりやすい試合なら、まだいい。

でも、ときどき起きてしまう。

「引き分けでもいい」
「大差で負けなければいい」
「このままなら、両チームとも次に進める」

そんな条件が重なった試合だ。

そうなると、サッカーは急に別の競技になる。
ゴールを奪うスポーツではなく、
失点しないための計算ゲームになる。

実際、日本代表も2018年のロシア大会で当事者になった。

もちろん、それもサッカーだ。
大会を勝ち抜くためには、理想論だけでは戦えない。
無理に攻めてカウンターを食らい、
すべてを失うくらいなら、
試合を落ち着かせる判断も必要になる。

でも、見る側としては少し身構えてしまう。

この試合、ちゃんと動くのか。
最後まで本気でゴールを目指すのか。
それとも、両チームにとって都合のいいスコアのまま、
ただただ静かに時間が流れていくのか。


FIFAワールドカップ2026北中米大会。
グループJの第3戦、
アルジェリア対オーストリア。

このカードには、無気力試合になりそうな空気もあった。
ただ、一筋縄ではいかない「理由」もあった。

それは、44年前にさかのぼる。

1982年スペイン大会。
西ドイツ対オーストリア。
いわゆる「ヒホンの恥」。

当時、アルジェリアは初出場ながら
西ドイツを破る大金星を挙げていた。
(アフリカの出場国がヨーロッパの出場国を
史上初めて破った歴史的快挙)

しかし、グループ最終戦でそれは起きた。
西ドイツがオーストリアに2点差以内で勝てば、
両国がそろって突破し、アルジェリアは敗退。
(当時のレギュレーションでアルジェリアは
前日に最終戦を終えていた)

アルジェリアの「他力本願」がかかった
予定調和の試合ができる状況で始まった
運命の一戦。

前半10分に西ドイツが先制したあと、
試合はまったく動かなかった。
両チームがリスクを冒さず、
互いに都合のいい結果を守るように見えた。

追加点を奪いにいかない、西ドイツ。
負けているのに反撃にでない、オーストリア。

時計の針を進めるためのボール回しに
終止した残りの80分。

ピッチの上にいないアルジェリアが、
ピッチ上の二者によって敗退へ追いやられた。

それが「ヒホンの恥」と呼ばれる理由だ。

その歴史があるからこそ、
今回のオーストリア対アルジェリアには、
ただの無気力試合にはならないような
なんともいえない雰囲気がつきまとった。


44年前、24チームだった出場国は
今大会から倍の48チームになった。

決勝トーナメントに進めるのは、
前大会まではグループリーグ上位2チームだった。
ただ、出場国が増えた関係で
各グループの上位2チームに加えて、
3位のうち成績上位の8チームも
決勝トーナメントへ進むことができる。

これが、状況をさらにややこしいものにした。

つまり、勝ち点だけでなく、
得失点差、総得点、他グループの3位との
比較まで絡んでくる。


ただ、この試合の両チームにとっての
最適解は「引き分け」だ。

互いに勝ち点3で迎えた試合。
引き分ければ勝ち点は4になり、3位でも
通過することは確定なのだ。

だからこそ、この試合は無気力試合になるのではないか。
そう予想した人がいても、不思議ではなかった。


ただ…

オーストリアとアルジェリア。
44年前の因縁。
歴史や背景を見れば、
どうも危険な香り。


試合は、前半から動いた。

オーストリア対アルジェリアは、
終わってみれば3-3の壮絶な撃ちあい。

スコアだけ見ても分かる。
静かに時間だけを進める試合ではなかった。

点が入り、追いつき、
突き放しても、また追いつく。
打算で固まりそうな試合が、
勝利への情熱で動き続けた。

無気力試合になるかもしれない。
ワールドカップでの歴史的な背景を知らない者たちの
そんな予想は、良い意味で裏切られた。

44年前、アルジェリアはピッチの外から
苦い結末を見せられた。


しかし、


今大会、アルジェリアはピッチの中で、
自分たちの運命を動かした。
2度のリードにその都度追いつき、
引き分けのまま試合を終わらせるかにも見えた。

残り時間はわずか。
オーストリアも予定調和のようにボールを奪わない。

その一瞬の隙を、見逃さなかった。
縦パスに反応したマフレズの見事な裏抜けから
サイドネットへのシュートで勝ち越し。

2-2で試合を終わらせれば、3位通過にはなるが
決勝トーナメントの相手はスイス。
勝てばその相手が優勝経験国のスペインになることを
分かっていてもなお、差し違える覚悟で
オーストリアを蹴散らしにいった。

この違いは大きい。

1982年のアルジェリアは、
他人の試合に人生を預けるしかなかった。
でも今回は違う。
自分たちで走り、自分たちで奪い、
自分たちで取り返した。
因縁の相手に、条件など度外視で勝ちにいった。


オーストリアも同じだ。
44年前の記憶を背負う国として、
ただ都合よく試合を終わらせるわけには
いかなかったのかもしれない。

先制点は、「引き分けなど狙わない」
そんな意思表示にも見えた。

もちろん、選手たちが本当にそんな歴史を
意識していたかは分からない。

でも、見る側はどうしても意識してしまう。


44年前に置き去りにされたアルジェリアが、
自分たちの力で主役になった。
メッシが途中出場からFKを直接決めた裏で、
今回のグループリーグでベストバウトと
いってもいい試合をした。


サッカーは、ときどき過去を連れてくる。

ただの1試合に見えても、
そこには歴史がある。
因縁がある。
忘れられない記憶がある。

だから面白い。


オーストリア対アルジェリアは、
単なる今大会のグループリーグ最終戦ではなかった。

無気力試合になるかもしれないと疑われた試合が、
結果的には極上のエンターテイメントになった。

それは、44年前の因縁があったからこそ、
より強くそう感じられたのだと思う。


ルールは変わった。
大会方式も変わった。
参加国も増えた。
テクノロジーの進化も著しい。


それでも、サッカーは人間がやるものだ。


計算もある。
駆け引きもある。
守りたい結果もある。

でも、その計算を超えて試合が動く瞬間がある。

そんなドラマも含めて、
僕たちはワールドカップを見ているのかもしれない。


ヒホンの恥の当事者である両チームが、
その歴史を背景に、誰にも予想できない(させない)
試合を演じた。

それだけで、
この試合は終わった直後の今だけではなく、
いつまでも語られる価値があるのだと思う。









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