MCR 1stアルバム 『Bullets』全曲音声レポートフォレンジックが暴く Frank Iero のシャウト完全潜伏史
I Brought You My Bullets, You Brought Me Your Love
今回はこの彼らの記念すべきデビューアルバムについて語らせてほしい。私のマイケミ記事シリーズでも意図的に書くことを避けていた。このアルバムはどう語ろうかずっと悩んでいて、やっと語りたい糸口を見つけた。このアルバムにはバンドの歴史が詰まっている。それを踏まえてこの純粋なサウンドに注目した執念のバックコーラス聴き分けという需要があるか不明なマニアックな謎切り口の音響分析を記事を読んで欲しい。読了後にはさらにマイケミの歴史への理解が深まっているはずだ。
マイ・ケミカル・ロマンスの顔として最後までステージに立ち続けた、ジェラルド、マイキー、レイ、フランクの4人。ドラマーの変遷はあれど、彼らこそが結成初日からのオリジナルメンバーだと思い込んでいる人は意外と多い。
実際、マイケミからロマンス解散後の2014年にリリースされたベストアルバム『May Death Never Stop You』のブックレットをめくったとき、私はそのエモすぎる演出に思わず泣きそうになった。メンバーの在籍期間が刻まれた棺桶のグラフィックに、ジェラルドたちと並んで「⚰️Frank Iero(2001-2013)」と刻まれていたからだ。まるで結成初日から、この4人で同じタイムラインを全力で駆け抜けてきたかのように。
だが、少しでもマイケミの歴史を深掘りしたことのあるファンなら、これが公式による美しきレトリック(あるいは愛情)であることを知っているはずだ。
ドキュメンタリー映像などを紐解けば、彼が厳密には結成当初からのメンバーではないという事実にぶち当たる。実際、1stアルバムで彼が正式にギターを弾いているのは『Honey, This Mirror...』と『Early Sunsets...』のたった2曲だけなのだ。
この「フランクは録音の終盤に駆け込んだため、ギターを2曲しか弾いていない」という史実がコアなファンの中ではあまりにも有名なため、多くのファンはベスト盤の演出はあくまでバンドの優しさであり、1stアルバムのメイキング、録音におけるフランクの影は薄い(実質的にはまだ3人のバンドだった)と頭の中で処理していることだろう。
だが、何度もアルバムを聴き込んでいるうちに、私はある疑念を抱かずにはいられなくなった。
果たして本当にそうだろうか? 私たちは「ギターを2曲しか弾いていない」という公式記録に気を取られすぎて、もっと生々しい真実に耳を塞いでしまっているのではないか、と。
確かに公式クレジットには、「Backing Vocals」とも記されている。だが、果たして彼の声は「バッキング(後回し・背景)」なんていう大人しい言葉で片付けていいシロモノだろうか?
騙されたと思って、ヘッドホンのボリュームを上げ、血の滲むようなジェラルドの孤独な独白の裏側に耳を澄ませてみてほしい。ギターを弾く暇がなかったその男は、代わりにあの聴き慣れた、喉を物理的に引き裂くような狂犬のシャウトを、このアルバムの至る所に生々しく撒き散らしているのだ。
今回は、私がスタバの片隅に籠もり、執念と狂気で全トラックの叫びをヘッドホンで聴き分けたメモと共に、この1stアルバムに隠された”裏の歴史”を考察していきたい。
Bulletsアルバムの注意点
本題に入る前に、このファーストアルバムには注意が必要だ。語らせてほしい。
幸運なことに、私は現在では入手困難となった1stアルバムの現物CDを所有している。
※あらかじめ忠告しておくが、安易にCDを買おうとしないでほしい。
現在、この『Bullets』のCDは世界中で海賊版(偽物)が大量に出回っており、海外のファンコミュニティでも「フェイクに騙されるな」と頻繁に注意喚起がなされている厄介な代物だ。
幸いにも、私は縁あって日本盤・帯付きの正規品という奇跡的な実物を所有しているため、当時の公式がどういう顔をしてこのクレジットを記載していたのか、手元で正確に把握できている。だが、もしこの記事を読んで「マイケミの歴史を確認するために私もCDが欲しい!」と血迷ったとしても、フリマアプリ等で安易に手を出すのはやめておいたほうがいい。
ちなみに笑い話として聞いてほしいのだが、私自身、過去に某オークションで千円ちょいなら買うしかない!と軽い気持ちでMCRのライブ盤(Danger Days時代の英国フェスと神奈川公演)をいくつか落札したことがある。結果、送られてきたのは素人が自宅のPCで焼いたような、めちゃくちゃ出来の悪い怪しいブートレグ(海賊版)だった(笑)。
しかし、厄介なことに『Bullets』の偽物はそのレベルの笑い話では済まない。
現在市場に紛れ込んでいるのは、画面越しの写真だけでは本物と全く見分けがつかないほど巧妙に作られたスーパーコピーなのだ。フリマアプリの画像だけを頼りに本物を引き当てようとする行為は、もはや完全にロシアンルーレットである。
「じゃあ、お前が持っているソレが本物だと言い切れる証拠はあるのか?」
画面の向こうからそんな鋭いツッコミが飛んできそうだが、安心してほしい。私が所有しているのは、海賊版業者がわざわざコストと手間をかけてまで偽造しない日本盤だ。
そして何よりの決定打は、パッケージに刻み込まれたリアルな経年劣化である。
発売から20年以上の歳月が紙やプラスチックに与えた絶妙な色褪せ、匂い、そして年季の入った質感。こればかりは、現代のどれだけ優秀なスーパーコピー機を使っても、絶対にプリントすることはできない本物の証明なのだ。
もしこの記事を読んで「マイケミの歴史を確認するために私もCDが欲しい!」と血迷ったとしても、無謀なギャンブルに手を出すのは絶対にやめておいたほうがいい。
高額な偽物を掴まされて泣きを見るくらいなら、まずは落ち着いて、サブスクの音源を開き、私がこれから指定する「秒数」に神経を研ぎ澄ませてほしい。
楽曲クレジット
全曲の検証に入る前に、まずは公式に刻まれた歴史の前提を改めて確認しておこう。
この1stアルバムにおいて、Frank Iero がギターおよびソングライター(作曲者)として正式にクレジットされているのは、『Honey, This Mirror Isn't Big Enough for the Two of Us』と『Early Sunsets Over Monroeville』のたった2曲のみである。
ソングライターに名前がないということはつまり、歴史の記録上彼はその曲の誕生に一切関与していないということを意味する。権利の面から言えば、その他の曲がどれだけ世界中で再生されようと、彼には作曲者としての印税や名誉は発生しないという、非常にシビアで誠実な事実だ。
だが、だからこそ最高なのだ。
自分の曲でもない。公式な記録にも残らない。
それにもかかわらず、彼は録音ブースの隅っこに陣取り、狂ったように喉を潰しているのである。
それでは、準備はいいだろうか。公式記録という名のタテマエを破り捨てて、ここからは音だけを信じる執念の全曲鑑識録を見ていこう。
バックコーラス聞き分け手法
🎧 聴き分けの基準:なぜ「レイ」や「ジェラルド」ではないと言い切れるのか?
各トラックの解説に入る前に、まずフランクの声を見つけ出すための基準を共有しておきたい。彼は、声をメロディとしてではなく、打撃や摩擦として吐き出す。
ジェラルドのシャウトがどこか演劇的でメロディラインに乗っているのに対し、フランクの叫び声は、喉を物理的に潰してエッジを立たせたような強烈な震えを持っている。それは彼が以前組んでいたバンド(Pencey Prep)から引き継いできた、彼の喉を酷使した魂の叫び特有の歪みなのだ。
また、もう一人のギタリストであるレイ・トロは、寸分の狂いもない美しく整ったコーラスに徹している。レイの綺麗なハモリと、ジェラルドの悲痛な叫び。その背後で鳴り響く野良犬の断末魔のような声こそが、フランク・アイエロなのだ。
それでは、ヘッドホンを準備して、執念の全曲鑑識録を見ていこう。
🩸 マイケミ1stアルバム:Frank Iero シャウト潜伏リスト
※厳密な1曲目はバンド演奏していないイントロなので今回は割愛。曲数の数え方は2曲目からを1とカウントしています。
1. Honey, This Mirror Isn't Big Enough for the Two of Us
• 【Subliminal screams:あり】
• 「Care how much」の裏で「ぎゃーーーーっ」とシャウトしている。「When I'm working」のパートでも、間違いなくジェラルドと一緒に歌い、叫んでいるのが聴き取れる。

2. Vampires Will Never Hurt You
• 【Subliminal screams:なし】
• シャウトの中にフランクの気配は一切ない。純粋なジェラルドの叫びだけが響く。
3. Drowning Lessons
• 【Subliminal screams:なし】
• 聴こえてくるのは、レイの美しく整ったコーラスのみ(ちなみにここのサビのレイのハモリは本当に最高だ)。曲の3分の2あたり、一旦ブレイクした後の「C'mon!」という叫びは、明らかにジェラルド本人のものだ。
4. Our Lady of Sorrows
• 【Subliminal screams:なし(推測)】
• 明らかに激しいシャウトは入っているが、これはフランクの声ではなく、ジェラルドの声をエフェクトで加工したものだと思われる。
5. Headfirst for Halos
• 【Subliminal screams:なし】
• そもそも曲全体を通して、激しいシャウトがほぼゼロの楽曲。
ちなみに筆者のお気に入り曲だ。めちゃくちゃ明るい音階でいい感じのイントロから盛大に始まり、一見アップテンポで楽しい楽曲だが…また別の機会に語りたい。
6. Skylines and Turnstiles
• 【Subliminal screams:あり(※超重要トラック)】
• 序盤の合いの手は、CD版だと「ギャッギャッギャー!」という明らかにダミ声が混ざったものになっている。
• 曲の中盤「C'mon!」のシャウトは、口を横に開いて叫ぶジェラルドの声だが、その直後の「Inside the cave you…」の裏で、明らかに別の声が「ギャーギャー」と騒いでいる。
<検証結果>
不安になって初期のデモ音源も徹底的に聴き比べたが、デモ音源(原案)には、サビ前のカモーンも変なシャウトも一切存在しなかった。そもそも原案にシャウトはなく、前半のリズミカルな合いの手も、ジェラルド自身が別録りで重ねただけの普通の声だ。
『Skylines and Turnstiles』はジェラルドが9.11を機に書き上げた、MCRの原点とも言える歴史的な楽曲だ。そのため、公式のソングライター(作曲者)クレジットにフランク・アイエロの名前は存在しない。 歴史の記録上、彼はこの曲の誕生に一切関与していないからだ。
だが、CD版の音源を聴いてほしい。中盤「C'mon!」のシャウトの直後「Inside the cave you…」の裏で、特徴のあるフランクの声がギャーギャーと叫び散らしている。
そう、彼は作曲者としての権利(印税)も名誉も持っていないにもかかわらず、ブースに乱入し、ジェラルドの背後で一緒に喉を潰して叫んでいるのだ。1円の特にもならないのに、ただジェラルドの孤独な叫びを増幅させるためだけに。
<総括>
デモのフランク加入前後でのここまでの差異。完成版の裏側ではフランクのダミ声がこっそり混入し、この大切な原点の曲を強引に一緒にひっかき回していることになる。
7. Early Sunsets Over Monroeville
• 【ギター参加曲・シャウトなし】
• 公式クレジット通り、フランクがギターで参加している曲。ただしシャウト自体が存在しない。
8. This Is the Best Day Ever
• 【Subliminal screams:あり】
• 曲の中盤、急に犬が吠えるような「ギャー!」という声が一瞬だけ入り込む(これは絶対にフランクだ)。そして曲の最後、断末魔のような「ぎゃーっ」という叫びも明らかに彼の声である。
9. Cubicles
• 【Subliminal screams:あり】
• 合いの手のシャウトに、レイでもジェラルドでもない「ぎゃーっ」と潰した変な声が混じっている。これも絶対にフランクだ。
•just takeでの 「Just!」やMe downの「ME!」といった合いの手で、あんなダミ声のように震える変な声を出せるのは彼しかいない。前述の通り、レイはいつでも綺麗なコーラスしかしないからだ。
10. Demolition Lovers
• 【Subliminal screams:なし】
• フランクの気配はない。
🦇 結びにかえて
このリストを通して見えてくるのは、ジェラルド・ウェイという一人の青年の孤独が、いかにして破られていったかという生々しい記録だ。
フランクの影がない『Vampires Will Never Hurt You』や『Drowning Lessons』に漂っているのは、凍りつくような純粋な孤独だ。ジェラルドはここで、自らの絶望をひとつの閉じた世界として完成させようとしていたように思える。
しかし、アルバム全体を通して聴くと、録音ブースのすぐ外(あるいは隣)にいたFrank Ieroという存在が、彼を完全な孤独の中に置き去りにしなかったような……そんな錯覚すら覚えてしまう。彼の狂犬のシャウトは確かにジェラルドの背後で鳴り響き、作品の世界に強引な生命力を与えているからだ。
ここまで読んで、一つの疑問を持った人もいるかもしれない。
「アルバム制作の終盤に合流しただけの男が、なぜこれほどまでにジェラルドのパーソナルな絶望に寄り添い、完璧なタイミングで叫びを重ねることができたのか?」と。
その答えは、ドキュメンタリー映像『Life on the Murder Scene』の中で本人が語ったエピソードの中にある。
実はフランクは、自身が以前組んでいたバンド(Pencey Prep)時代から、MCRと同じリハーサルスタジオを利用していた。彼は壁の向こう側で、あるいは同じ部屋の隅で、名もなき初期のMCRが圧倒的な熱量で音を鳴らすのを、ずっと熱心に観察していたのだ。
つまり彼は、バンドの歴史というタイムライン上では厳密に言うとオリジナルメンバーではないかもしれない。だが、ジェラルドたちが抱えていた孤独と狂気を最も近い場所で感じ取っていた最初の目撃者であり、間違いなく最も初期からの共犯者だったのだ。
だからこそ彼は、いざ録音ブースに入ったとき、ただのサポートメンバーとして空気を読むような真似はしなかった。ずっと側で見つめてきたジェラルドの孤独を誰よりも理解していたからこそ、その殻を物理的にブチ破るように、遠慮のない「狂犬のシャウト」をぶつけることができたのではないだろうか。

この記事は純粋な音とクレジットのみで分析しました。ドキュメンタリーはまた後で見ます。まずは音から。
私たちが『Bullets』から感じるあのヒリヒリとした熱量の正体は、完全な孤独を求める声の背後に、どうしても抑えきれずに、呼応するかのように乱入して溢れ出してしまったもう一つの叫びが引き起こした、いびつで美しい衝突の記録なのかもしれない。
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