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深夜0時の観覧車

 その観覧車は、深夜0時になるとそっと静かに動き出す。

 昼間は、ただの古びた遊園地だ。

 色褪せた看板。止まったメリーゴーランド。錆びついた柵。誰も近づかない場所。


 けれど夜になると、観覧車の窓にひとつずつ灯りがともる。


 青白い月明かりの中、ゆっくり、ゆっくり回り始めるのだ。


 街の人たちはそれを、「深夜0時の観覧車」と呼んでいた。


 そのゴンドラの中には、それぞれ違う“夢の世界”が広がっているという。


 空を泳ぐクジラの海。
 真夜中だけ開く喫茶店。
 星を育てる温室。
 終わらない夏祭り。


 乗った人は、自分に一番近い夢へ導かれる。


 だから疲れた人ほど、  その観覧車を探してしまうのだと、誰かが言っていた。


 そして時々、降りてこない人がいる。


 夢の世界が優しすぎて、帰ることを忘れてしまうからだ、と。


 その後どうなったのかは、誰も知らない。



 ……私は、そんな噂を信じていなかった。

 あの夜までは。


 仕事帰りだった。

 終電を逃し、静かな川沿いを歩いていた時。

 遠くで、かすかに鐘の音がした。


 顔を上げる。

 閉園したはずの遊園地の奥で、観覧車が光っていた。

 まるで夜空に浮かぶ、巨大な宝石みたいに。

 気づけば私は、遊園地の門をくぐっていた。


 観覧車の前には、誰もいない。

 なのに、ひとつだけ扉の開いたゴンドラが、私を待つみたいに揺れていた。


 恐る恐る乗り込む。

 扉が閉まる。

 その瞬間。

 世界が、反転した。

 ふわりと身体が浮く。


 次に目を開けた時、私は知らない場所に立っていた。


 夜空の下。

 無数の星が咲く庭園。

 花の代わりに、 小さな星が揺れている。

 風が吹くたび、しゃらしゃらと綺麗な音が鳴った。


「……きれい」

 思わず声が漏れる。


 ここには、嫌なことが何もなかった。

 仕事の締切も、不安も、誰かの言葉も。

 全部、遠い。

 ただ静かで、やさしい。

 ずっとここにいたい。

 そう思った瞬間だった。


 遠くで、鐘の音が鳴る。


 庭園の星が、一斉に揺れた。

 帰る時間ですよ。

 そんなふうに聞こえた。


 でも私は、動けなかった。

 帰りたくない。

 ここにいたい。


 その時、背後で誰かが囁いた。

「降りられなくなるよ」

 振り返る。

 暗闇の中、古びた観覧車の案内人が立っていた。

 帽子で顔は見えない。


「夢は優しいからね」

 案内人は、少し口元が笑った気がした。


「だからみんな、  現実を忘れてしまう」

 鐘の音が、もう一度鳴る。

 星の庭園が、ゆっくり崩れ始めていた。

 私は逃げるように走った。


 気づけば、ゴンドラの中に戻っていた。

 観覧車が、静かに地上へ降りていく。

 扉が開く。

 冷たい夜風。

 見上げると、東の空が少し白んでいた。


 振り返る。

 そこにはもう、止まった古びた観覧車しかない。

 まるで最初から、夢だったみたいに。


 だけど今でも時々、夜中に鐘の音が聞こえることがある。

 そのたび私は思い出す。

 あの観覧車には、今も降りてこなかった誰かが、いるのかもしれない、と。


今回少し書き方を変えてみました!


みなさんはいつもの書き方か、

今回の書き方かどっちが読みやすかったですか?

良かったらコメントで教えてください🥹✨️

片桐みかんさんのこちらのお題に参加させていただきました👇️✨️


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