蝉時雨の外側で|お題「迎え火オペラ」
夏バテは外に出る人だけの病だと思っていた。
四十歳、独身、無職。
この家から一年も出ていないのに体が重い。
お盆休みで兄弟が子どもを連れて帰り、騒がしい。
誰も僕と目を合わせないだけで、少年時代に戻ったみたいだ。
台所にきゅうりとなすが一本ずつ。夕飯に使うのかな。
「今年も蝉がうるさいわね」
母がぽつりと言う。
僕には聞こえない。耳まで夏バテだろうか。
夕方、きゅうりとなすは消えていた。
送り火の向こうに黒紫の小さな牛が立っている。
僕を見つけてゆっくり歩き出す。
ついていかなきゃと思った。
裸足なのに土の感触がない。
振り返ると、仏間に艶の新しい位牌。
僕の名前と去年の夏の日付。
そうだった。引きこもりじゃない。
誰よりも一足早く里帰りしたんだ。
この家にひとりになった母が心配で、行きは急いだ。
どうりで体が重い。
もう、大丈夫そうだ。
帰りは、ゆっくりでいいよね。
聞こえなかった蝉が一斉に鳴いた。
迎え火で幕を開けた僕のオペラも、蝉時雨で終演らしい。
(410文字)

あとがき
こんにちは、芽芽斗 守(めめと・まもる)です。
今回は初の試みでショートショートを書いてみました。
いかがでしたでしょうか。
きっかけは急上昇タグです。
「迎え火オペラ」というインパクトのある言葉が目に飛び込んできました。
田原にかさんが主催されている「毎週ショートショートnote」という企画のお題だそうです。
お盆の話を書きたかったので、ありがたく便乗させてもらいました(笑)。
四百字ほどという縛りも、いつもの書き方が通用しなくて新鮮でした。
たまにはこういうテイストにも挑戦していきたいと思います。
