【第3話】不老不死の地球は『150年の住宅ローン』が当たり前の『社畜ディストピア』!? | 神(=宇宙人)が『仏眼』で民の愚痴を受信しながら人類救済に挑む!
夢にまで見た豚カツ……我々の食事は、満腹感も味わえる完璧に計算された栄養補給用カプセルだ。
何故、恐ろしく文明の遅れた地球の観測員がこんなにも競争率が高いのかといえば、我々にも味覚はある、その味覚を満足させたい願望からだ。
母星へ帰還した潜入観測員の食に関する話は私のブラックホール級の欲望を無性に掻き立てた。
そう、私の真の目的――それは、母星の観測員たちが身ぶり手ぶりを交えて熱狂的に語っていた『地球食』を、この舌で心ゆくまで堪能することなのだ。
「ここの豚カツ、米油で揚げてるんです。脂が全く重くなくて外はサックサクッ、中は柔らかいピンクのお肉がジュワ〜って口一杯に広がって……まぁ、とにかく食べてみてください」
箸を持つ手が小刻みに震える。私は豚カツ一切れを箸の先に そぉっと挟み、恐る恐る口へと運んだ。
サクッ……ジュワ〜ッ……。
「あっ熱っ! ハフッハフッ! う、美味い……美味すぎる……! なんだこの鼻腔を埋め尽くす衣の香ばしさは!? 豚の命とツヤツヤモチモチの米の恵みが口の中で重厚なシンフォニーを奏でている!!脂が甘いっ」
「でしょー? だから言ったじゃないですか。地球の食事は最高だって。熱いからフーフーして食べてください、慌てないで誰も取りませんから」
最初の一口食べた瞬間、私の脳内データバンクが弾け飛んだ。無味無臭のカプセルで栄養だけを摂取してきた私にとって、この「豚カツ」という食べ物はあまりに衝撃的で、罪深い味わいだった。
「全銀河地球観測検定、細胞が死滅するほど頑張って良かった〜!! 豚カツに乾杯〜」
「光一さん、なに叫んじゃってるんですか、大袈裟。ほらほら泣いてないで、キャベツとご飯お代わりできますから、どんどん食べちゃって下さいね」
「んぐ、んぐ……!! くっ、なんだこれは……液体でもない豚カツが、なぜこれほどまでにダイレクトに胃袋へ染み渡るのだ……っ!?」
「ちょ、ちょっと……光一さん……」
どんどん食べちゃって下さいね! などと、珍しく笑顔を振りまいておきながら、ご飯3杯、キャベツ4回お代わりした所で美夜は、箸を持つ私の手を掴み、ゆっくり首を横に振った。
美夜の目の奥がひどく冷たい……夢にまで見た初の地球食はこうして強制終了した。
会計を済ませると、奥から店の大将がニコニコしながら声をかけてきた。
「美夜ちゃん、いつも来てくれてありがとうね!! 美味かったかい? お兄ちゃん、いい食べっぷりで嬉しくなっちゃったよ」
「おじさん! 今日もとびっきり美味しかった。たくさんお代わりしちゃってごめんなさい」
「いいの いいの! これサービス、良かったら持っていって」
そう言って大将は、豚カツのように分厚く柔らかそうな手で、持ち帰り用のかつサンドを紙でクルクルと手早く包み、輪ゴムを『パチン!』とはめて、美夜に手渡した。
「わぁ 嬉しい! これ大好きなの。ありがとう!」
「そうかい?そりゃあ良かった。また来てね!お兄ちゃんもね!」
「おじさん、ありがとう!」
美夜が背伸びをしながら腕を私の後頭部に伸ばし、前に押し出す形で我々は同時にお辞儀をした。
「ご馳走さまでした〜」
美夜に遅れること3秒。
「……ごちそうさま…でした…」
かつサンドにつられたせいか、なんとなく口をついて出た。
美夜は何度も振り返っては店主に手を振り、名残り惜しげに店を出た。
帰りの車の中で美夜は一切れだけ自分が取り、残りは全て私によこした。
クールな私だが、かつサンドを前に目尻が下がり口元が緩む。
待ち切れず一切れを親指と人差し指でつまみ、口に放り込んだ。
「サクッとした衣とジューシーなお肉、そこに甘辛ソースの旨みがふわふわのパンに染み込んでいる『至高の三位一体』だな!」
「子供の頃から通う、両親との思い出のお店なんです。また行きましょうね」
「あぁ、次は『ソースかつ煮丼』と『玉子とじかつ丼』を食べ比べるぞ!」
「いや、どんだけ?あれだけ食べたのにもう次の話、光一さんの胃袋『底なし沼』なんですか?……あ、そうか、自称『ブラックホール級』でしたっけ」
相変わらず車の乗り心地は悪かったが、地球食の話で盛り上がり、不思議と苦痛な時間ではなかった。ため息0回でアジトにたどり着いたのだった。
我々が地球観測をはじめて早1年が経つ。全国の地球食をこれでもかと堪能しながら、神社で民の声を聞き、観光もした。
文明の遅れた地球にも、だんだん慣れてきた。もう後悔することはない……
「母星から持って来た人間ボディースプレーは、これが最後の一本だな。間に合って良かった」
在庫が切れる前に昨夜、母星からスプレーを取り寄せた。
「おはようございます! あ!人間ボディースプレーが山積み!」
「あぁ、『銀河ヤマト』で置き配してもらったんだ」
「どうりで……今朝、ニュースでやってましたよ。漆黒の猫型UFO目撃!!宇宙人の侵略か!?ってね」
「毎回ニュースで大々的に取り上げられているようだが、我々の目的は侵略ではない。母星から必要な物をUFOで宅配しているだけだと言うのに、いちいちありもしない侵略に怯えるとは……」
「UFOの型違いだって、当たり前。宅配業者が違うんですから。そりゃあ色んな形がありますよ。必死に宇宙人の都市伝説や陰謀論を組み立てめちゃくちゃなこと言ってる……UFO目撃情報、よくそこまで想像を膨らませるなって感心しますよ」
「富士山の火口が宇宙人の基地になってるっていう説だな。あれにはあきれ返ったよ。宅配業者だって、わざわざ地球に来たからには観光したい。
富士山は我々にとっても人気No.1の観光スポットだからな、立ち寄りたくなるのも道理、その時に目撃されたんだろう」
「母船から何機ものUFOが出てくる映像も目撃されてますよね!! 私たち地球観測員の任務入れ替え時期で、母船で地球まで連れてこられ任務地に散ったところを目撃されたんですね」
「目の前にいる民の記憶なら簡単に消せるが、そこまでの規模になると、やみくもに民たちの記憶を消すリスクが高いからな、ある程度の目撃は仕方がない」
「ところで人間ボディースプレー、どんなの使ってるんですか?」
「あぁ、この不細工仕様ボディーの形成は勿論だが、皮ふ汗腺のない我々は人間のような汗や臭いを出すことが出来ない。より人間臭さを出すために、汗を装う『汗の臭い青年用(light)』をブレンドしている」
「人間は汗の『消臭スプレー』をしているのに、私たちは真逆のことをしているんですから、それ自体がカオスですけどね。そういえば父は『加齢臭男性用(Standard)』を使っていました」
「昔はボディースーツだったそうだ。そこに臭いのクリームを塗り込んでいたらしい。このワンプッシュスプレーの開発が、生温い呼吸を装い潜入をする我々の助けとなっている。UFO目撃で民を惑わすのは申し訳ないが、我慢してもらうとしよう」
「なんだ? ニヤニヤして! 私の顔に何かついているのか?」
「いや〜光一さん変わったなぁ、と思って。つい1年前なら、『愚かな民よ!』って見下していたのに、『惑わすのは申し訳ない』なんて、頭の堅い宇宙人だと思っていたけど、育てた甲斐がありましたよ」
「美夜くんに育てられた覚えは幸い1ミリもないが、民の声を聞くために全国を渡り歩き、観光する度に民の優しさに触れた」
「無駄にイケメンですからね~。行く先々のお店で、試食のお姉さん方に『イケメンさん、これ食べて!』って次から次に差し出されて餌付けされてるの、私バッチリ横で見てましたからね。そりゃあチヤホヤ優しくされたでしょうよ」
「全く……この不細工仕様に色めき立つとは……民の審美眼は到底理解ができん。
しかし……何だかんだ言っても美味い食事を作ってくれるのは民だからな、民の作る食事が美味すぎて、完全に胃袋をつかまれてしまったようだ」
そうは言ったものの、やはり美夜の存在は大きかった。民の言葉の背景にある苦悩や葛藤の解説なしには問題の根本にあるものには気づけなかったはずだ。
観光スポット、美味い食事にすんなり出会えたのも全て地球育ちの美夜がいたからだ。
そんな美夜の抱える、宇宙人にも地球人にもなりきれない自分が何者なのか?という『孤独』が解消される日は来るのだろうか?
ふと、その日を見届けたい……という感情がわいた。
『ドクン、ドクン』
まただ……また私の心臓がバグっているようだ。一体これは何故起こるのだろう?
「さぁ、本部への報告をまとめるとしよう。」
「はい。……この1年の間、民の声は切実でした。高価な薬に手がでなかった貧困層が寿命を全うすること『死』を羨ましがる民も多く見受けられました」
「確かにその声は日に日に多く聞こえたな」
「ほとんどの民は社畜と化した終わりのない人生に精神的な疲れを感じています。不老不死の薬を飲んだことを後悔する声も決して少なくはなかったです」
「酒やタバコと同様で20歳を過ぎないと不老不死の薬を飲むことはできないが、最近の若者は20歳を過ぎても薬を飲まない選択をするものが増えているようだ」
「薬が高価で手が出ないといった理由も確かにありますが、それだけではないようです」
「不老不死と引き換えに民に与えられた十字架は思いのほか大きく重い、根が深く厄介だ。かと言って、不老不死となった民は逃げることも死ぬことも出来ない」
「しかし薬を飲んだにも関わらず突然亡くなるケースも一部見られます。薬の副作用と見られて来ましたが、実際のところどうなのでしょうか?」
「それについて、私も密かに調べていた。それがようやく解明し本部から報告書が届いた所だ。驚くべきものだったよ」
「えっ!? 原因がわかったんですか?」
「新薬を開発した、あの日本人を美夜くんも知っているだろう? 彼はもちろん薬を飲んだ。不老不死を得たはずだった。にも関わらず87歳を迎えた時に、突然亡くなったんだ」
「そうでしたね。夢の新薬を開発した本人が突然亡くなって、地球がひっくり返るほどの大騒ぎでしたよ」
「それが解明のヒントになった。人間は、生まれてくる前にある使命を自分に課して生まれてくる。その使命を全うしたものだけが本来の寿命が来た時に死を迎えるというものだったんだ」
「では、彼が自分に課した使命というのが不老不死の新薬の開発だったと言う事なんですか?」
「あぁ、宇宙図書館(アカシックレコード)には、彼が生まれる前に刻んだ『魂の計画』がハッキリと記録されていたんだ」
「宇宙図書館……全宇宙のあらゆる記憶や、未来の可能性が保管されているという、あの高次元のデータバンクですか?」
「そうだ、そこにアクセスして分かったんだが、あの開発者の使命は『人類に不老不死をもたらすこと』だった。そして彼はその使命を果たした。薬の副作用なんかじゃない、本来の寿命を全うして静かに息を引き取ったということだったんだ」
「つまり……どれほど強力な不老不死の薬であろうと、人間が自らに課した『使命の完了』には抗えなかった? 本来の寿命を超えることはできなかったと……」
「そういうことだな。高度な分子構造による『肉体の不老』すら、魂が刻んだ『使命の完了と寿命のプログラム』という全宇宙の絶対法則には上書きできなかった……ということか……」
美夜は目を見開き、息をのんだ。
「じゃあ……薬を飲んで永遠の時間を手に入れた民たちも、自分の『使命』を果たせば、この終わりのない社畜生活から解放される……死を迎えることができるってことですか!?」
「あぁ。そこでだ! 我々が次にすべきことは何だと思う?」
「……民にそのことを知らせる? でもどうやって?」
「これだよ!これ!!」
私は『イイネ』ポーズを美夜の目の前に突き出して見せた。
「あ〜『仏眼』!!!」
我々は両手で、ガッツポーズならぬ『イイネ』ポーズを天高く何度も掲げた。
美夜の弾けるような笑顔と明るい笑い声が昭和レトロの古びた部屋に光りと温もりをもたらした。
『ドクンドクン』……またバグか!?
我々の報告を受けた本部の決定に従い、民の夢に『第二の種』を蒔くことにした。過去の実験結果で仏眼の持ち主だけが我々が見せた夢をキャッチしたことは明白だった。
そして両手に仏眼を持つ者が新薬を開発した。そこで第二の種は、より強く我々の血を引く『両手仏眼』の持ち主たちに夢を見せた。
「光一さん!これ見てください。さすが両手仏眼の持ち主たち、私たちが蒔いた種が『#人生のクリア条件』って、SNSでまたたく間に広まってますよ」
「よし!行こう」
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