知的労働の「見えない無駄」を利益に変える。ワークプロフィットデザインという新しい経営の設計図
組織が大きくなると、メンバーがどんな仕事をしているのか、だんだん見えなくなってきます。
組織が小さいうちは、誰が何をしているのかを経営者自身が把握できます。現場の状況もわかるので、何か問題が起きたときにも、比較的すぐに判断できます。
ところが、社員が30人、100人、300人と増えていくと、状況は変わります。
誰が、何のために、どんな仕事をして、その仕事が、会社の利益にどうつながっているのか。こうしたことが、急速に見えなくなっていきます。
私自身、経営の現場で、まさにこの壁にぶつかりました。
現場からは、毎日のように「人が足りない」「この機能を追加したい」といった、要望が上がってきます。
各部署から次々に上がってくる要望に対して、何を優先するのか、どこに人やお金を投じるのかといった判断を、経営者は行っていかなければなりません。
このときに、感覚ではなく、明確な根拠を持って答えられる経営者は、どれほどいるでしょうか。
改善の前提は計測可能であること
工場では、どこで何がどれだけ作れて、コストはいくらなのかといった、改善のためのデータが当たり前に揃っています。
だからこそ、ボトルネックを見つけて改善し、生産性を上げていくことができます。
ところが、ナレッジワーク、知的労働になると、そう簡単にはいきません。
製造業の現場ではあたりまえのデータが、ごっそり欠けてしまっています。
その状態で、「もっと生産性を上げよう」「業務を改善しよう」と言っても、簡単ではありません。
そもそも、どの仕事に時間がかかっていて、どの仕事が利益につながっているのか、どこに無駄があるのかが、見えていないからです。

これでは、改善しようにも、何を変えればいいのかわかりません。
知的労働というと、IT企業やコンサルタント、専門職の仕事を思い浮かべる人もいるかもしれません。
でも、決して特定の業種だけの話ではありません。
製造業であっても、経理、総務、人事、営業、企画といった仕事は、人が考え、判断し、価値を生み出すナレッジワークです。どんな会社にも、ナレッジワークは存在しています。
そして、ナレッジワークには、組織が大きくなるほど起こりやすくなる問題があります。
それは、いつの間にか「報われない仕事」が増えていくことです。
「報われない仕事」がどのくらいあるか、把握できているか
組織が大きくなれば、調整や確認、情報共有といった仕事は必ず増えていきます。
複数の人が関わる以上、進捗を確認し、認識をそろえ、意思決定に必要な情報を集めることは欠かせません。
こうした仕事も、組織を運営するうえで必要なものです。
しかし、必要だったはずの仕事が、いつの間にか、頑張っても成果や価値につながりにくい「報われない仕事」へと変わっていることがあります。
毎週続いているものの、何を決める場なのか曖昧な定例会議
何度も同じことを聞かれる稟議書
お客様の役に立たない不要な機能の保守
誰も使わないツールやシステムの維持
知的労働の現場には、このような「報われない仕事」が、想像以上に存在しています。
こういった仕事はやっている本人も意義を感じていない、マネージャーからしてもどういった価値を生んでいるのかよくわからない、経営者からしてもそういった仕事はやってもらう必要はないはずです。
つまり一生懸命やっているのに誰のためにもなっていない、そういった仕事を「報われない仕事」とよんでいます。
この報われない仕事の問題は、誰もそれを「辞めよう」と言い出しにくいことにあります。
心のなかでは辞めても良いのではないかと思っているものの、「空気」でそれを言えない。なので報われないまま残り続けるということが起こります。
まさにギデンズの構造化理論と同じことが起きています。
社会学者のアンソニー・ギデンズは以下のように言いました。
人の行動は構造によって決まり、その行動が繰り返されることで構造がさらに強固になっていく。
報われない仕事も同じです。最初は必要があって始まった仕事が、誰もやめようと言わないまま続けられ、やがて「そういうもの」として定着していく。
新しく入ってきた人は、最初からそれが仕事だと思って引き継ぎます。
悪意を持ってその仕事を生み出している人は、どこにも存在しないのです。
そして、最も大きな問題は、その仕事がどれだけあるのか、実際は誰にも見えていないことです。
人ではなく、仕事を適材適所に置くという考え方
「適材適所」という言葉は、古くから組織運営の理想とされてきました。
ただ、これまでの適材適所は、どちらかというと「人をどこに配置するか」という考え方だったと思います。
この考え方だけでは、「誰がどこにいるか」は見えても、「どんな仕事がどこで発生し、誰のところに滞留しているのか」までは見えてきません。
組織図を見れば、人の配置はわかります。
でも、その人が実際には何に時間を使っているのか。本来の役割とは違う仕事をどれだけ抱えているのか。別の部署に移したほうが効率のよい仕事がないか。
そこまでは、組織図からはわからないんです。
人手不足が続く今、足りなくなるたびに人を採用するという方法には限界があります。
そもそも、「報われない仕事」が増えたまま人を増やしても、非効率な構造そのものは変わりません。人を増やしたことで、かえって確認や調整が増えることさえあります。
そこで、視点を変えて考えたいのが「仕事の適材適所」です。
人を仕事に合わせるのではなく、仕事そのものを、最も適した人や部署へ配置し直す、もしくは仕事の質自体を変えたり、場合によっては辞めるということも行う。
つまり、人を変える前に、仕事を変えるという発想です。
この考え方を整理し、実際の経営に使えるフレームワークにしたものが、ワークプロフィットデザインです。
ワークプロフィットデザインでは、これまで見えていなかった仕事の構造を明らかにします。
視覚化できていなかった仕事の構造を明らかにすることで、特定の部署や個人に滞留していたタスクを、より生産性の高い部署へと再配置し、最適化を図っていきます。
たとえば、カスタマーサクセス部門で業務改善が進み、5人で回せる仕事に10人が割かれている一方で、営業部門が人手不足で案件を3割も断っているようなケースがあったとします。
この実態を可視化することができれば、余力のあるカスタマーサクセス部門の一部を営業支援へ回す、という判断ができます。
新しく人を採用しなくても、今あるリソースを配置し直すことで、受けられる案件が増え、利益につながる可能性があります。
大切なのは、今ある部署や役職を前提にしすぎないことです。
この仕事は営業部のもの。この業務は管理職がやるもの。この人がずっと担当してきたから、これからも任せる。
そうした固定観念をいったん外し、仕事を一つひとつ見直していくことで、仕事の構造そのものを設計し直す。
それが、ワークプロフィットデザインです。
仕事を「適切な場所」に置くことができれば、働く人は「自分にしかできない、価値のある仕事」に集中できるようになります。
それは企業にとっての利益向上であると同時に、働く人にとっては「自分の仕事が正当に評価され、やりがいを実感できる」という幸福に直結していくのです。
ワークプロフィットデザインで、人の働きから利益が生まれる仕組みを、意図的に設計する
これまで日本では「人的資本経営」「エンゲージメント経営」「デザイン思考」といったさまざまな経営の考え方が提唱されてきました。
でも、いざ「具体的に何をすればいいのか」と問われると、なかなか答えが出てきません。
「わかった」から「できる」の間には、大きな隔たりがありました。
ワークプロフィットデザインが目指しているのは、その橋をつくることです。
「考え方」だけでなく、何のデータを取り、どう改善を回し、最終的に何を目指すのかまで、具体的にセットで持っているのが特徴です。
人の働きから利益が生まれる仕組みを、感覚ではなく、意図的に設計していきます。
そのために、ワークプロフィットデザインは大きく二つの要素で構成されています。
一つが「ワークデータ」、もう一つが「4Dサイクル」です。
1)仕事そのものを中心に置く「ワークデータ」
ワークデータとは、仕事の実態を多面的に記録するための、独自のデータ体系です。
誰が、どんな仕事を、何の目的で行っているのか。
そこにどれだけの時間とコストを使い、どんな価値を生み出しているのか。
そして、本人はその仕事をどのように感じているのか。
従来の勤怠データや工数データでは捉えきれなかった、仕事の目的、価値、無駄、感情まで、あらゆるデータを仕事に紐づけ、一つの構造の中で見ていきます。
管理の起点を変える
これまで企業の中では、仕事に関するデータが、それぞれ別の場所で管理されてきました。
財務データは経営企画部が会社の結果を見るために使う。
勤怠データは労務管理のために使う。
エンゲージメントサーベイは人事部が社員の状態を把握するために使う。
工数データは、現場が作業時間を管理するために使う。

同じ会社の、同じ仕事について、これだけの情報が散らばって管理されているのに、それらを束ねたデータは、世の中に存在しませんでした。
ワークデータは、この発想を変え、データの中心を、「部門」ではなく「仕事そのもの」に置き直します。
仕事を真ん中に据えて、その仕事に関わるあらゆる情報を、放射状に紐付けていくのです。

大切なのは、単純にデータ項目を増やすことではありません。いくら管理するデータを増やしても、それが目的ごとにサイロ化されたものであれば、それらをまたいだ相関を見ることはできません。
大切なのは管理の起点を、「部門のデータ」から「仕事のデータ」に変えることです。
これが従来の稼働管理や工数管理との大きな違いです。
時間だけを見ていても、この違いはわかりません。
属性情報を仕事自体に付加することで仕事自体が複数の情報を持つようになり、様々なことの相関を見ていくことができるようになります。それによりこれまでは見えなかった課題を、複数の角度から分析できるようになります。
2)発見から始める「4Dサイクル」
ワークプロフィットデザインのもうひとつの要素が、4Dサイクルです。
これは、ワークデータを起点として、組織の改善を継続的に進めていくための意思決定サイクルです。
Discover(発見)→Decide(決定)→Do(実行)→Develop(発展)の四つの段階を、繰り返し回していきます。
一般的なPDCAとの大きな違いは、「そもそも何が課題なのかわからない」という状態から始められることです。
会議が多く、なんとなく忙しい。働いている割に利益が出ていない。
でも、どこに原因があるのかはわからない。
そこで、最初に行うのがDiscoverです。

Discover(発見)
Discover(発見)では、ワークデータを観察し、組織の中で何が課題になっているかを発見します。
ワークデータがあることで、「仕事のための仕事(メタワーク)比率がこの部署で異常に高い」「ある業務カテゴリのウェルビーイングスコアが慢性的に低い」といった事実が、浮かび上がってきます。
Decide(決定)
次に、Decide(決定)で、発見された課題のうち、何から手をつけるかを決めていきます。
すべての課題を一度に解決することはできないので、インパクトと実行可能性を見ながら、優先順位を立てて施策を計画します。
Do(実行)
Do(実行)で、決めた施策を実行に移します。
ここで重要なのは、実行した内容そのものをワークデータの上に記録していくことです。これによって、「何を、いつ、どう変えたか」がデータとして残ります。
Develop(発展)
Develop(発展)で、施策の前後でワークデータがどう変化したかを比較し、効果を測定します。
「効果があった気がする」ではなく、数字で結果を確かめます。そして、Developで得られた新しいデータが、次のDiscoverの起点になります。
このサイクルを繰り返すことで、組織の生産性と利益が、少しずつ改善されていきます。
ワークデータで仕事の実態を見えるようにし、4Dサイクルで改善を回し続ける。これが、4Dサイクルの基本的な動きです。
「時間」だけでなく、その仕事が生む価値まで見る
ワークプロフィット・デザインはよく工数管理ツールやBIツールと比較されたりしますが、ここには明確な違いがあります。
工数管理システムやBIツールは、誰が、何に、どれだけの時間を使ったのかを把握することに優れています。
残業時間が多い部署はどこか特定したり、工数の多いプロジェクトや、誰の稼働が高いのかといったことを明らかにします。
ただ、時間がかかっていることがわかっても、その仕事が必要なのか、価値を生んでいるのかまでは判断できません。
3時間かかっている仕事があったとしても、それだけでは改善すべきかどうかはわかりません。
ワークプロフィットデザインでは、時間やコストだけでなく、「何のために行われた仕事なのか」「誰にどんな価値を生んだのか」という情報も一緒に捉えます。
コストと価値を同じ仕事の上で見ることで、時間は使われているのに、顧客や事業の価値につながっていない仕事を特定できるようになります。
ワークプロフィットデザインが明らかにしたいのは、人の働きと利益の間にある因果関係です。
単に「誰が何時間働いたか」を記録するのではなく、その時間が、どのような価値を生み、最終的に会社の利益へどうつながったのかを見ていきます。
既存のツールを置き換えるものというより、ばらばらに存在していたデータをつなぎ、「何を変えるべきか」という意思決定に使える状態にするものです。
社員さんのウェルビーイングも図れる?!
またワークプロフィット・デザインは、人のウェルビーイングのデータも仕事に紐づける構造を持っています。これはかなり特殊な発想だと思っています。
通常、「生産性を上げたい」「社員の満足度を高めたい」と考えたとき、多くの企業はエンゲージメントサーベイやBIツール、工数管理システムを導入すると思います。
これらとの違いについては、「何を測り、何を変えようとするのか」と言う点において、根本的な違いがあります。
まずは、エンゲージメントサーベイとの違いについて説明します。
「感情」だけでなく、その感情を生む仕事の構造を見る
従来のエンゲージメントサーベイは、社員が会社や仕事に対して、今どのように感じているかを把握するものです。つまりそこから起きるアクションは「人を変える」ということです。
ただ、「エンゲージメントが低い」という結果が出ても、なぜ低いのか、具体的にどの仕事を変えればいいのかまでは、なかなか見えてきません。
そのため、改善策も福利厚生を充実させたり、1on1を増やしたり、マネージャーに声かけを求めたりと、人の気持ちに直接働きかけるものになりがちです。
私は、人の考え方や感情を、会社の都合で変えるのは、ほぼ不可能だと思っています。
エンゲージメントの数値が低かったからといって、「部下のやる気を上げてください」とマネージャーに求めるのは、かなり酷な話です。
そもそも、やりがいは一定化されるものではありません。
やる気のある日もあれば、そうでない日もあるし、やりがいを感じる仕事と、感じられない仕事もあります。
エンゲージメントサーベイでは、入力したその日の点の情報しか測ることができないため、その前後の状態や仕事の内容までを評価することができません。
それなのに、「この人はエンゲージメントが低い」と捉えてしまうと、問題の原因が人の側にあるように見えてしまいます。
本当に問題なのは、その感情を生み出している、仕事の構造なのではないでしょうか。
誰も読まない報告書を、毎週何時間もかけてつくっている。
意味を感じられない会議に、長時間拘束されている。
こうした仕事が続けば、どれだけ前向きな人でも、少しずつやる気や誇りを失っていきます。
だからワークプロフィットデザインでは、感情だけではなく、「その感情を生んでいる仕事の構造」まで一緒に見える化して、構造のほうに手を入れていきます。
人の気持ちに直接働きかけるのではなく、仕事を変えることで働く人のウェルビーイングを変えていく。
ここが、エンゲージメントサーベイとの大きな違いです。
ワークデータの可視化は監視ではない
ワークデータを可視化するというと、監視のように受け取られることもありますが、はっきり言って、ワークプロフィットデザインが目指しているのは、監視とはまったく逆のものです。
監視とは、個人を評価し、管理し、きちんと働いているかを確認するためのものです。
主語は管理する側で、見られる対象は働く人です。
そうなれば、見られる側は当然身構えます。失敗しないように振る舞い、評価を下げないために仕事をするようになる。データを取れば取るほど、組織に緊張感が生まれてしまいます。
ワークプロフィットデザインで見たいのは、個人のパフォーマンスではなく、そういう仕事をさせている構造です。
つまり可視化の矛先は、人ではなく仕組みに向いています。
ある業務に多くの時間とコストが使われているのに、価値につながっていないとします。
このとき、「担当者の生産性が低い」とは考えません。
そもそも、その仕事は必要なのか。進め方に無理がないか。複雑な承認や調整が発生していないか。別の人や部署が担ったほうがいいのではないか。
問題があるのは、その人ではなく、その仕事をさせている構造かもしれない。
ワークプロフィットデザインは、そう捉えます。
大切なのは、データを個人の評価ではなく、仕事の仕方を改善するために使うことです。それぞれが抱える仕事についてチームで考え、建設的な会話をするための材料にします。
可視化には、もう一つ大切な役割があります。
それは、これまで見えなかった人の貢献を、正しく捉え直すことです。
たとえば、会社の中で目立たないけど重要な仕事が一人だけに集中しているということがあったりします。こういったことは通常の業務報告や評価の中で見つかりにくかったりします。
それを見つけてリスク対策をしたり、やっている人を評価することができるようになります。
監視は、人の粗を探すものですが、ワークプロフィットデザインは、これまで見過ごされてきた価値を見つけていきます。
人を追い詰めるためにデータを使うのではなく、仕事を起点に組織を認知し、落ち着いて構造を見直せるようにするものです。
改善すべきなのは、人ではありません。
人が能力を発揮できなくなっている、仕事の構造を変えていくためにデータが必要になるのです。
ワークデータを可視化するツール自体はあくまで「道具」です。
ナイフという道具が、暮らしを便利にしてくれることもあれば、人を傷つけることもあるように、道具の価値は機能だけでは決まりません。
何のために、どのように使うのか。その意思と責任は、使う側に委ねられています。
私たちサードリーでは、ツールを「働く人たちの幸せ」のために使う意思のある企業と共に、人が自分の力を発揮し、その働きが企業の利益にもつながる仕事の構造をつくっていきたいと考えています。
