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【弁護士が解説(99)】会社から横領を疑われ、民事訴訟も起こされた…逮捕の可能性とタイミング

「経理の仕事をしていて、会社の使途不明金について横領の疑いをかけられている。私的に流用した覚えはなく、何らかの事務処理ミスかもしれない。会社からは懲戒解雇され、返還を求める民事訴訟まで起こされてしまった。会社は警察にも相談しているようだが、このまま逮捕されてしまうのだろうか」――。

横領・背任などの容疑をかけられ、民事訴訟まで提起された方の多くが、この段階で強い不安を抱えます。「刑事事件になるかもしれない」という恐怖と、「身に覚えがない」という思いの間で、何をどう準備すればよいか分からなくなってしまう方が少なくありません。

現役弁護士の立場から、①横領・背任・詐欺の違い、②逮捕の要件、③民事訴訟の経過と逮捕リスクの関係、④実際に取るべき対応、⑤やってはいけないこと、⑥弁護士に相談すべきタイミングまでを整理しました。読んでいただければ、今の状況で何を確認し、どう備えるべきかが分かる内容になっています。

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1 横領・背任・詐欺、それぞれの違い

まず、疑われている犯罪の内容を正確に理解しておきましょう。

  • 横領罪:自分が占有する他人の財物を私的に流用する罪です。会社の通帳等を管理する経理担当者が、会社のお金を流用した場合に成立し、業務上のものであれば「業務上横領罪」となります(刑法252条・253条)。法定刑は、単純横領が5年以下の拘禁刑、業務上横領が10年以下の拘禁刑です。

  • 背任罪:他人のためにその事務を処理する者が、自己または第三者の利益を図り、あるいは本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加える罪です(刑法247条)。法定刑は5年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。

  • 詐欺罪:他人を欺いて財物を交付させる行為です(刑法246条)。法定刑は10年以下の拘禁刑です。

なお、令和7年(2025年)6月施行の刑法改正により、従来の「懲役」は「拘禁刑」に呼称が統一されています。

単に事務処理のミスで帳簿の数字が合わないだけであれば、これらの犯罪は成立しません。 私的な流用の事実があるかどうかが、すべての出発点になります。

2 逮捕の要件

逮捕されるかどうかが心配、ということですが、逮捕の要件は刑事訴訟法199条に定められています。

  • 検察官・検察事務官・司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官に逮捕状の発令を請求できる(刑事訴訟法199条1項)

  • ただし、30万円以下の罰金に当たる罪については、被疑者が定まった住居を有しない場合、または正当な理由なく出頭要請に応じない場合に限り、逮捕状が発令される(同項ただし書)

横領罪・背任罪・詐欺罪は、いずれも30万円以下の罰金に当たる罪ではありませんので、結局、「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由(嫌疑)」がどの程度あるかが問題になります。

判例は、この「相当な嫌疑」について、「捜査機関の単なる主観的嫌疑では足りず、証拠資料に裏付けられた客観的・合理的な嫌疑でなければならない」としています(大阪高裁昭和50年12月2日判決)。もっとも、この嫌疑のレベルは、有罪判決に必要な証明の程度、起訴に必要な嫌疑の程度、勾留に必要な嫌疑の程度と比べると、最も軽減されたものとされています。また、逮捕の必要性についても、逃亡や罪証隠滅のおそれがあるかどうかが判断要素になります(刑事訴訟規則143条の3)。

3 民事訴訟の経過と逮捕リスクの関係

ここが今回のケースで特に重要なポイントです。会社から民事訴訟を提起されているということは、会社側の主張とその根拠となる証拠が、すでに明らかになっているということです。

会社が弁護士に依頼して民事訴訟を起こしている場合、通常、客観的な証拠を準備しているはずです。会社は、民事裁判に提出しているのと同じ証拠資料を、警察にも提出していると考えられます。したがって、その証拠資料をもとに、警察が刑事事件として立件できると判断すれば、逮捕・勾留に至る可能性は法律上あり得る、と想定しておくべきでしょう。

もっとも、実務上の傾向として、警察は、流用した金銭の返還請求の民事訴訟が提起されている場合、あまり刑事事件として積極的に取り扱わないことが多いとされています。刑事事件として立件しても、民事訴訟で和解が成立してしまうと、被害者側も処罰を望まなくなることが多いためです。したがって、絶対に逮捕されないとは言い切れませんが、弁償に向けた和解交渉が進んでいる状況では、逮捕される可能性は比較的低いと考えられます。

ただし、次のような場合は、特に注意が必要です。

  • 流用額が高額(数千万円以上)に上る場合:和解が成立しても、逮捕される可能性は大きくなります

  • 民事訴訟の判決の中で、横領の事実が認定された場合:第一審判決後に、逮捕状が請求され執行されることもあります

  • 控訴審で流用の事実を認める形で和解が成立した場合:これも逮捕に直結しやすいとされています

4 実際に取るべき対応

(1)私的流用の事実がない(否認する)場合 民事訴訟において十分な反論・立証を尽くす必要があります。あわせて、警察にも事情を説明し、裁判の進行状況を伝えておくことも検討に値します。刑事事件の弁護士としては、①証拠資料に裏付けられた客観的・合理的な嫌疑がないこと、②逃亡のおそれがないこと、③罪証隠滅のおそれがないこと、を主張立証していくことになります。

(2)私的流用の事実が認められる、あるいは第一審での敗訴が濃厚な場合 判決の前に、和解協議を成立させる努力が重要になります。この場合の和解は、犯罪行為の故意までは認めず、過失行為によって損害を与えたことを認めるにとどめ、相手方の請求額より減額した和解金を分割で支払う、といった内容を目指すことが考えられます。

(3)民事・刑事を通じたタイミングの管理 和解交渉が進まないまま第一審判決に至り、判決理由中で横領の事実が認定されてしまうと、その後に逮捕状が請求されるリスクが高まります。このように、民事訴訟の進行状況と刑事事件のリスクは密接に連動するため、微妙なタイミングの判断が必要になります。

5 やってはいけないこと

  • 民事訴訟を放置し、何も反論しないこと。反論しなければ民事訴訟で敗訴するばかりか、それが刑事事件の証拠として不利に働くこともあります。

  • 和解交渉を先延ばしにすること。判決が確定してしまってからでは、逮捕を避けるための選択肢が狭まってしまいます。

  • 民事事件の弁護士と刑事事件の弁護士を別々に、連携もなく選任すること。タイミングの管理が重要な事案であるため、両方の事情を把握した弁護士が対応することが望ましいといえます。

6 弁護士に相談すべきタイミング

会社から使途不明金の疑いをかけられ、懲戒解雇や民事訴訟に至った時点で、なるべく早く弁護士に相談することをおすすめします。民事訴訟と刑事事件のリスクは連動しているため、両方を見据えた対応方針を、早期に立てることが重要です。

基本的な仕組みと考え方は、ここまでの内容でひと通りお伝えできたかと思います。もう一歩踏み込んだ、実務家としての見方を続きに少しだけ書きました。気になる方だけ、お読みください。

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(無料部分で、横領を疑われた場合の基本的な考え方と対応の進め方は完結しています。ここから先は、実務でつまずきやすいポイントの見分け方と、当職が相談を受けた場合の考え方を、応援・投げ銭に近い位置づけで書いています。)

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