変わりゆく人生で、変わらないもの ─ the HIATUS 『Back Into the Noise Tour 2026』
地元の梅雨明けが報じられ、夏が本格的に幕を開けた日。the HIATUS(ハイエイタス)のライブに行ってきた。私にとっては、2010年『ANOMALY TOUR』以来、なんと16年ぶり。決まったときから、ずっと楽しみにしていた。
ライブに行けるって、奇跡だ。その日その場へ出向けることが(ほぼ)確定的で、チケットの高倍率抽選をくぐり抜け、当日は自分や家族が健康でなければならない。公共交通機関の遅延やキャンセルもあるし、様々な事情によりライブ自体が中止になるのだって起こりうる(実際に経験)。
それらをすべて乗り越えて、ようやく到達できる頂のような場所。
海外に住んでいて、かつ子どもがいる私は、まず「その日その場へ行けること」がとても難しい。どれだけ望んでも抽選の土俵にすら立てず、涙を流したこと山の如し。
だから、すでに日本帰省が決まっている期間にライブ開催が発表されたときは、行ける!と震えた。
“Back Into the Noise Tour 2026”開催決定‼︎‼︎
— the HIATUS_official (@theHIATUS_offic) April 1, 2026
「轟音への回帰」と題した、約5年ぶりとなるロックバンド編成でのライブハウスツアー。全国5都市7公演を回ります。
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the HIATUS
“Back Into the Noise Tour 2026“
6/17 (水) Zepp Haneda (TOKYO)
6/18 (木) Zepp Haneda (TOKYO)
6/23 (火)… pic.twitter.com/dNs0INjtWD
夏だ。日本の夏。帰省の夏。
「運命すぎる!!!」と舞い上がったが、圧が強すぎたのか抽選の神様に弾かれ、1次先行、2次先行とあっけなく落選。絶望的なところに、まさかの一般発売で滑り込むという、これまた奇跡のような出来事が起こった。
それにしても、16年ぶりである。ハイエイタスのライブも、Zeppも。前回20代だった私は、40代になった。もはやZeppのお作法がわからない。記憶は薄れているし、きっと運営も変わっている。
そんなわけで、16年前には概念も姿もなかったChatGPTに「みんなライブTシャツはいつ買ってどこで着替えているの?」「ワンドリンク制の飲み物ってフロアに持ち込んでもいい?」と尋ねてご指南いただく。アップデート。便利な時代だ。
事前に伝えていた実家の両親に「しばしの間、子どもたちをよろしくお願いします」と頭を下げて、スキップしながら出かけた。ライブへ行けることが決まってからも、そもそも無事に日本へ帰れるのか?といった心配を皮切りに一つひとつが大きなハードルだったけど、ありがたいことに何事もなく、その日を迎えられたのだった。

当日、ドリンクは「お酒は気持ち悪くなったら困る」「炭酸はおなかが痛くなるかも」と小心者っぷりを発揮し、お茶を選んだ。指定席に行くと、両隣は私と同じ一人参加の女性で、どちらもビールをプシュッとしていた。私にはロックさが足りないと反省しつつ、心の中でそっと乾杯した。
毎回そうなのだが、ライブの開演前は「ワクワク!楽しみ!」一辺倒ではない気持ちが混在している。緊張や寂しさ、哀しみ。この日を機に、自分の中で何かが終わってしまうんじゃないかという恐れ。
だけど、ほぼ定刻通りに会場が暗転し、照明とともに爆音が鳴り響いたとき、雑念は吹っ飛んでいった。最初の感想は、
「音がおっきーーーーーーーい!!!」
である。ピュアかよ。なんてったって、今回のツアー名は『Back Into the Noise Tour 2026』であり、テーマは「轟音への回帰」なのだ。ザ・ライブハウス。
16年前『ANOMALY TOUR』のときも、同じZeppの会場だった。ハイエイタスが目の前にいる……長い年月をかけてこの場所に帰ってこれたんだ………と思うと、がんばって生きてきてよかった〜と自分を褒めたくなった。
ハイエイタスを聴き始めたのは、大好きだったELLEGARDENが活動休止になり、細美さん個人のソロプロジェクトとして始まったからだった。
エルレの活動休止について語られたインタビューの端々からは、大きな傷や後悔、戸惑いが感じられたし、初期のハイエイタスには、どうしたってそれが色濃く反映された楽曲もあったと思う。
だから私の中で、ハイエイタスには「悔い」や「闇(夜)」、それを乗り越えていく葛藤のイメージがある。以前プレイリストのnoteを書いた際にも、それらをテーマとして置いた。
当時、実際にライブを見ていても、細美さんはどこかずっと苦しそうだった。特に初期の代表曲の一つ「Insomnia」を目の前で聴いたとき、あまりの切実さに胸を抉られた。
I'm not the one you want
I'm not the one you know
I hope you are fine
Insomnia
Save me
Save me
壊れそうな曲だと思った。これほどまで助けを求めているのに、「I hope you are fine」なんて。20代の私には到底それを飲み込めるだけの器はなく、呆然と立ち尽くした記憶がある。
だけど。
今回、ライブの終盤で聴いた「Insomnia」は、全然違う印象を受けた。切実さは変わりないが、かつての後悔や戸惑い、傷そのものをすべてひっくるめて受け入れ、いま同じように眠れない夜を過ごしている人に手を差し伸べる力強さや包容力があった。
「よかったなぁ………」
としみじみ思った。ひどくぼんやりした感想だが、言語化できない。時を経て聴いた、生の歌声と音色。相変わらず感情を揺さぶるような楽曲にもかかわらず、全身の細胞が安堵しているような不思議な感覚があった。
と、これだけでも感無量だったのに、さらに個人的なハイライトはアンコールにあった。
ハイエイタスの5thアルバム『Hands Of Gravity』に「Radio」という曲がある。
「音楽に救われた」人生経験は多くの人が通ってきたと思うけど、私自身は底辺まで落ち込んでいるとき、まったく音楽が聴けなくなる。どんなに好きなアーティストでも楽曲でも。
数年前その状況に陥ったとき、唯一聴けたのが「Radio」だった。繰り返し繰り返し。理由はわからない。痛みを抱えながら雨の中を歩く描写に自分を重ねていたのだろうか。
I've been walking in the rain
Standing in the pain
Acting like I'm sane because I give it all away
そんな背景があったので、アンコールの最初にこの曲を紹介した細美さんが「ハイエイタスで一番やさしい曲」と言葉を添えたとき、涙が決壊寸前まで一気にこみ上げた。轟音ツアーゆえ候補に入らない曲だと思っていたのに。
遠い願い事だった。"Radioを、いつかライブで聴けますように"。はうれしくて、夢みたいだった。叶えてもらった世界に、私も貢献しようと誓った。
と、その余韻がまだ抜けないままに突入したのが「Ghost In The Rain」だったので情緒も見事に壊滅した。1stアルバム『Trash We'd Love』の1曲目。始まりの曲。
今でもこの曲を初めて聴いたときの衝撃を覚えている。音色の美しさ。「こんなに美しいんだから、きっと大丈夫なんだ」って根拠もなく、ハイエイタスとそれを取り巻く人の未来を信じた。その未来が、今ここにあった。ライブの終わりに、始まりの音色を響かせる粋。
I'm a ghost in the rain
The rainbow
You can't discern
I'm standing there
始まれば、終わってしまう。それがライブだ。なんと当たり前のことを、と思うのだが、ライブ前に感じる複雑な感情は、この喪失感を知っているからなのかな。楽しかったのに…いや違う、楽しかったから、とても寂しい。そっか。楽しかったんだ、私。ようやく行けてよかったね。
16年って長い。20代から40代にかけて月日を過ごす中で、私も環境もずいぶんと変わった。ひょんなことから海外に住むようになり、結婚し、出産し、拠点は三度も変わった。生まれてくる小さな命も失われてしまった尊い命も、たくさん目の当たりにしたし、切れた縁だって数えきれない。
人生は変わりゆく。それでいいと思っていた。むしろ変えようとしていた。後ろは振り返らない。コンプレックスだらけの自分を脱するための、ひとつの道筋だったから。でもそれは、常に心細さもセットだ。大事なことを取りこぼしているんじゃないか?いつも不安定で、確固たるものがなくて。
だけど、あの頃からずっと、ハイエイタスの音楽が好きなことは変わらない。変化だらけの人生で、変わらないものがあるって、なんと心強いのだろう。
この気持ちをお守りにして生きていく。特別な時間が名残惜しくて、帰りに一人でラーメンを食べた。つかれた身体にスープが染み渡る。そういえば、昔もライブ後には余韻とともにラーメンを食べていた。変わらない。昔の私も、ちゃんと自分の中にいるんだ。

どういう偶然か、2023年に行ったELLEGARDENのライブも「16年ぶり」だった。天体が何年、何十年とかけてひとつの軌道を描くように、その数字にも意味があるのかもしれない。
敬愛するアーティストの音楽に触れ、かけがえのない自分と出会い直す。次は16年後?本音を言えば、もう少し短い周期でお願いしたい。
2026年7月9日 ・Zepp Fukuoka
「Back Into the Noise Tour 2026」
セットリスト
1. The Ivy
2. 墮天
3. The Flare
4. My Own Worst Enemy
5. Thirst
6. Unhurt
7. Storm Racers
8. Centipede
9. Deerhounds
10. Horse Riding
11. Silver Birch
12. Monkeys
13. Talking Reptiles
14. Something Ever After
15. Burn To Shine
16. Twisted Maple Trees
17. Insomnia
18. 紺碧の夜に
En.1
19. Radio
20. Ghost In The Rain
En.2
21. Lone Train Running
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最後まで読んでいただいてありがとうございます。これからも仲良くしてもらえると嬉しいです。