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AI導入って、結局「AIで作ったツール」を配ることじゃなかった

先週、あるレポートを読んでいて、手が止まった瞬間があった。

「え、9割?」って二度見した数字がそこにあったから。

MITのNANDAイニシアチブによる2025年の報告では、調査対象となった企業の約95%が、生成AI活用による測定可能な損益(P/L)への効果をまだ得られていないという。

最初は「導入のやり方が悪いんだろうな」くらいに思ってたんだけど、読み進めるうちに、もっと手前の疑問に気づいた。そもそも、会社は何のためにAIを導入するんだろう。ツールを配ることが目的になっていて、その先にある「何のために」がすっぽり抜け落ちてるケースが、意外と多いんじゃないか。

AI導入の目的は、便利なツールを配ることじゃなくて、社員自身がAIで課題を解決できるように育て、その挑戦を評価する仕組みを作ることなんじゃないか。

ちょっと想像してみてほしい。

ある情報システム部長の話

中堅メーカーの情報システム部長、田中さん(仮名)は、去年の春に問い合わせ対応チャットボットを社内リリースした。AIを使って過去の問い合わせ履歴を学習させて、よくある質問に自動で答えてくれる仕組みなんだそう。開発には半年かけたし、精度もそこそこ高かった。

リリース直後は好評だった。でも半年経った今、利用率は導入時の3割程度まで落ち込んでるんだよね。

田中さんは首をかしげた。せっかくAIを使って作ったのに。社内的には「AI導入プロジェクト、無事完了」ということになっていたはずなのに。

ある日、若手社員にふと聞いてみた。「あのチャットボット、使ってる?」

「たまに使いますけど、それより自分のスマホでChatGPTに直接聞いた方が早いんですよね」

田中さんは面食らった。会社が半年かけて作ったツールより、個人のスマホアプリの方が使われている。じゃあ、自分がやった「AI導入」って、一体何だったんだろう。

振り返ってみると、田中さんは最初から「何のために」を決めていなかった。目標は「AIチャットボットをリリースすること」であって、その先にどんな変化を社員に起こしたいのか、言葉にしないまま走り出していたんだよね。

現場は、もう勝手に動いてるらしい

これって、本当にありそうな話なんだろうか。気になって調べてみたら、似たようなことを裏付けるデータが見つかった。

MIT NANDAが2025年に発表した調査によると、90%以上の企業で、社員が個人のチャットボットアカウントを使って日常業務をこなしている一方で、公式にAIツールを契約している企業は40%程度にとどまるという。

つまり「会社が作って配った専用ツール」より、「社員が自分で選んで使っているAIそのもの」の方が、実態としては主役になっているらしい。

会社が「何のために導入するか」を決めないまま形だけ揃えても、現場は自分の目的でAIを使い始めてしまう。田中さんの会社で起きていたのは、たぶんそういうことだったんじゃないか。
ただし、個人アカウントでの業務利用には、機密情報や個人情報の扱いといったリスクもある。現場の工夫を止めるのではなく、安全に試せる環境を会社側が整えることも必要になる。

「9割失敗」の数字ともう一つの共通点

さて、冒頭の「9割失敗」のレポートに戻ってみたい。

この報告では、多くの企業が生成AIを試したり、業務に特化したツールを評価したりしている一方、実運用まで進めて明確な成果を出せている例は限られる、とされている。問題は「試していないこと」ではなく、試行を業務の変化や事業成果につなげられていないことらしい。

このレポート、失敗の理由を「モデルの性能」じゃなくて「導入のやり方」に求めている。田中さんのケースと重なる気がするんだよね。彼が作ったチャットボットの精度は悪くなかった。足りなかったのは精度じゃなくて、最初に「何のために作るのか」を言葉にする作業だったのかもしれない。

では、AI導入の目的は何であるべきか

だとすると、AI導入の目的って、そもそも何だと考えるべきなんだろう。

一つの候補は、業務効率化やコスト削減。実際、チャットボットや議事録要約ツールでそういう成果を出している企業も多い。それ自体は間違っていないと思う。

ただ、効率化やコスト削減だけを目的に置くと、人間の作業をAIに置き換えるだけの自動化で終わってしまうこともある。会社によっては効率化そのものが正当な目的になる。でも、その先にどんな仕事を増やしたいのか、どんな価値を生みたいのかまで考えられると、AI導入の意味はもっと変わってくるんじゃないか。

実際に、経営トップ自らこの方向性を打ち出した例もある。ソフトバンクの宮川潤一社長は2025年6月の朝礼で、社員一人につきAIエージェントを100本作ることを指示したという。6週間で2万人の社員が90万本を達成したそうだ。

さらに同年7月のSoftBank World 2025で、孫正義会長は「100本では甘かった」と述べ、人間の仕事の複雑さを考えると1000本必要だと、目標をさらに上方修正したという。

これは、「ツールを配る」だけで終わらせず、社員自身が作って試す文化を経営トップが後押しした例として読める。本数だけで成果のすべては測れないけれど、「使える人」ではなく「自分で業務の課題を形にできる人」を増やそうとする意図は、はっきりしているように見える。

もう一つ、規模は違うけど似た方向性の例も見つけた。キヤノンのイメージング事業本部が2025年に実施した生成AIハッカソンでは、約20名のエンジニアが6か月かけて社内課題を解決するプロトタイプを開発したという。狙いの一つが「AIを『使う側』から『作る側』に回る」ことだったらしい。

結果、参加者全員が実際にAIツールを使いこなすようになり、プロンプトエンジニアリングやRAGといった実践的なスキルの習得につながったという。ソフトバンクもキヤノンも、目的が「ツールを配ること」じゃなくて「作れる人を増やすこと」に置かれていた点は共通している気がする。

ぼくの中の仮説はこうだ。AI導入の目的は、社員一人ひとりがAIを使って自分の業務の困りごとを解決できるようになること。そして、そのために必要なインフラを用意し、生まれた業務改善や業務発明をちゃんと評価する仕組みまで作ること。ここまでやって、初めて「AI導入した」と言えるんじゃないか。

ただ、ここで一つ、反対側の見方も置いておきたい。全社員が自分でツールを作れるようになる必要が、本当にあるんだろうか。専門チームがAIを使って良いツールを作り、他の社員はそれを便利に使う、という役割分担自体は、目的として十分ありえる気もする。会社によっては、効率化そのものが最優先の目的になることだってあるはずだ。

「AI成功をROIだけで測るのは間違っているかもしれない」と指摘する識者もいて、AI導入の効果を短期的な数字だけで判断すること自体に疑問を投げかけている。目的をどこに置くかで、何をもって成功とするかも変わってくる、ということなのかもしれない。

まとめ:さて、あなたの会社の目的は?

AIを使って作った完成品ツールを配って、それを「AI導入」と呼ぶことに、ちょっとした違和感がある。それって結局、目的を決めないまま、手段だけが先に走ってしまっている状態なんじゃないか。

正直、これが唯一の正解、という一本道の結論には、今のところ辿り着けていない。効率化を目的にするのも、人を育てることを目的にするのも、それぞれの会社の状況次第で正解になり得る気がする。田中さんもまだ悩んでいるし、ぼくも同じくらい悩んでいる。

あなたの会社は、AI導入の「目的」を、誰かがちゃんと言葉にしているだろうか。それとも、ツールを配ることそのものが、いつのまにか目的になっていないだろうか。

コメントで、あなたの考えをぜひ聞かせてほしい。

製作ノート

今回、書きながら一番驚いたのは、自分自身も最初「配る」か「作れるようにする」かという手段の話ばかりしていて、肝心の「何のために」という目的の話を後回しにしていたことだった。手段の話は具体的で書きやすいけど、目的の話は抽象的で難しい。でも、たぶん一番大事なのはそっちだったんだよね。


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