見出し画像

みんなのこと、蒸してあげるからね…

僕は学生で、1人暮らしをしている。
先日、大学の長期休みに帰省したら、母親から蒸し器を貰った。
曰く、「蒸すだけでなんでも美味しいから便利だよ」とのことだ。
キッチンに蒸し器がある1人暮らし大学生なんて聞いたことない。理由は使わないからである。

もらった蒸し器

しかし、貰ったからには使ってみるのが大事だ。僕は蒸さねばなるまい。蒸し器をくれた母親の、蒸す子なのだから。

こうして僕は目についたものを狂瀾怒濤の勢いでなんでも蒸し器に放り込む狂戦士と化した。三日三晩、が蒸しゃらに焚かれた蒸し器の湯気は学生街を包み込み、街中のアスファルトが蒸され蕩けてしまったほどだ。


Day.1    茶碗蒸しと蒸し鶏

僕は茶碗蒸しが大好きである。口に入れた時のふわっふわの食感は、ときどき蒸しょうに食べたくなる。

まずは卵をふたつ溶いて、調味料とか入れて、小さい陶器に注いだら、蒸し始める。さぁ、蒸し器の初陣だ。

もう美味しそう

もちろん茶碗蒸しだけじゃ腹は膨れない。
蒸しろ、お腹が空くくらいだ。
ちょうど冷蔵庫に鶏もも肉があったので、親子まとめて蒸してやろうと言う悪魔的発想に至る。

金属の蒸し器にそのまま鶏肉を置くのはなんだか憚られたので、キャベツをちぎって、その上に鶏肉を並べる。

それから、なんとなくキャベツの外皮を鶏肉に被せてみる。肉が露出していないほうがより良いような気がしたからだ。

なんか面白い

数分経って、茶碗蒸しの状態を箸で突いて確認しても、まだ液体だった。このまま蓋をして放置してみる。蒸し器の本領は待つことなのではないかと思う。

 5分後…

!?

!?!?!?!?!?!?!?
なんか爆発してるんですけど!?

え? なにこれ? 
大丈夫? 警察呼ぶ

落ち着いて聞いてほしい。茶碗蒸しの中身が、ドーム状に膨れ上がった。

僕は鍋の蓋を開けて蒸気が晴れたら、プルプルでフワフワに火が通った、綺麗な卵色の茶碗蒸しがそこにあると期待していた。しかしそこにあったのは、ムクムクと膨らんだ姿であった。ちなみに下ネタでは無い。

期待していた茶碗蒸しは、青々と水を湛えた湖のような、美しい表面をしているが、僕の茶碗蒸しはブクブクと下品に泡立ち、冷えて固まった粘性の溶岩を彷彿とさせる。


気持ち悪い。


鍋の蓋を開けた瞬間、僕はギョッとしてしまった。想定した姿とは違う、異形のものが突然姿を現す時、人はギョッとしてしまう。

結果、出来上がったものがこちらである。
卵料理はよく「ふわとろ」と形容されるが、これに相応しい擬態語は「ガチガチ」である。

人はこれを卵焼きと呼ぶ。

 蒸し鶏は良く仕上がった。すごく美味しかった。甘酢とオイスターソースを絡めて、みかん胡椒をつけて食べた。

ぷるぷる

 そして僕が最も感心したのは、蒸したキャベツの美味しさである。本当に溶けるほど柔らかくて、めちゃくちゃ甘い。次にくるスイーツはコイツである。

 こうして僕は、蒸し野菜に味を占め、冷蔵庫にある野菜を全て蒸さんと物色を始めた。



Day.2    野菜を片っ端から蒸してみる

でっかいナス

パプリカ

レタスの芯

蒸しちゃうよ〜〜!!!

反省を踏まえて弱火

味噌だれをかけて食べる。
まずはナスからいってみようかな…

熱ッッッッ!!!!

え!?熱ッ!?

沸騰した水分を、これでもかと吸い込んだナス。
一口噛んだ瞬間、ただの熱湯がナスの繊維からじゅあっと滲み出した。

僕は完全に口を火傷し、勢いよくナスを放り出した。
勘弁してくれ。ナスまで俺を傷つけるのか。

食感も最悪である。熱湯に浸した激オチくんを食べているような感覚。
歯を、掃除してるのかと思った。

パプリカは美味かった。しかし、パプリカが元々美味かっただけで、蒸すことの意味は何も感じなかった。蒸す前のパプリカと、同じ味がした。

レタスの芯に関しては、食いもんではなかった。
堅くて食えたもんじゃなかった。
馬鹿にしてんのか。

こうして僕は、「野菜のチョイスをあまりにミスる」というそれだけで、蒸し野菜に失敗した。



Day.3    蒸スタードーナツ

ある日の夕方。ミスタードーナツを買ってきた。
さあ、温めていざ食べようという時に、蒸し器の存在を思い出した。
まぁ、軽率な思いつきだったよ。反省している。

僕が好きな2種類を選んだ。
蒸しちゃうよ〜〜!(決め台詞)

見た目は良いが、蒸さなくても同じである

美味しくない。
油っぽさが残りながらサクサク食感だけが消えている。気味良いクリスピーさで僕の歯に向かって来たドーナツの表面が、遠い昔のことのように思える。今や噛む前に息がかかるだけで、退屈な住宅街の路傍に咲いていた、たんぽぽの綿毛のように崩れ落ちる。

小さな南の島に、家が一軒だけあって、妻に先立たれた老人が1人で暮らしている。やがてその老人も目を瞑り、あとには古びたコロニアル様式の一軒家が残る。老夫婦の思い出の詰まった、その小さな家も、南の島の暖かい波風に晒され、長い時間をかけて朽ち果てていく。人の住まなくなった家はもはや家ではない。いくら過去が素晴らしかろうと。

このチョコファッションがまさにこの小さな家である。この崩れ落ちたドーナツはもはや、ドーナツではない。不出来な離乳食である。

ちなみにチョコの味が一切しない。なぜだろうか。

ポンデリングも食べてみる。
まぁ、フォークで持った時点で、スリンキー・ドッグみたいな伸び方をしたので、全く期待できない。

この形を見てほしい。大阪関西万博を思い出す。

美味しくない。
廃油をまぶした餅の味がする。
お前のそのモチモチさはなんだったのか。蒸気を浴びるだけでドーナツから餅に転身するような裏切り者だったのかと。僕はこいつに向かって小一時間説教した。しかしこいつに空いている穴は耳の穴ではないので本当に意味がない。

僕は本当に悔しい。
正直、そのままトーストしたほうが美味しくなるとは思っていたが、ここまで美味しくないとは思わなかった。頑張って食べ切ったが、もう二度と食べたくない。




茶碗蒸し、茄子、パプリカ、レタス、ドーナツ。
ほとんど蒸し器で成功していない。
しかし、どう考えても食材選びをミスっているのが原因である。
だから僕は進むんだ。この世の全てを蒸すために!

🎵ウマイモンたち呼んでるぜ
蒸せば蒸すほどあふれるpower!

ー完ー

蒸し器先生の次回作にご期待ください

いいなと思ったら応援しよう!