「林道は春の無料市場」フキの炒め煮でビールを飲んでみた
猟犬の訓練で林道を走っていたら、道ばたにフキの群落が広がっていた。
特徴的な大きな葉っぱが山の斜面を埋め、遠くからだと緑のカーペットを敷き詰めたように見える。
そういえば、このあたりには早春、かわいらしいフキノトウが顔を出していた。しばらく見ないうちに、大きく生長したのだ。フキといえば春の味覚の代表格だ。炒め煮にしたら、さぞかしおいしいだろう。
幸いなことに、今日は酒飲みのノブコさんが同行している。いそいそと車を止め、酒の肴の収穫にとりかかった。


ここは高知県津野町の山奥で、林道は坂本龍馬が脱藩時に越えた朽木峠につながっている。峠近くで行き止まりになっているから、車はめったに通らない。「脱藩の道」をたどるウオーキング大会が時々開かれるものの、普段はイノシシくらいしか歩かない。
フキの群落の手前では、倒れた竹が道をふさいでいた。ジムニーですり抜け、突破する。愛犬マイヤーが、車から飛び降りて走り回る。山から吹き下ろす風が気持ちいい。耳元で小さな虫が羽音を立てている。
「フキの炒め煮」と聞くやいなや、食いしん坊のノブコさんはナイフを取り出した。茎の太いものを選び、根元近くを切っていく。これだけたくさん生えていると、収穫が楽だ。あっという間に、料理に必要な分が集まった。



フキはキク科フキ属の多年草である。山野に自生する山菜として知られ、全国各地で食用にされている。岐阜県郡上市に住んでいた頃は、雪解けの山でフキノトウを探すのが楽しみだった。
冷たい雪の中で、健気に背を伸ばすフキノトウは春の使者である。雪にはいつくばって写真を撮り、季節を告げる新聞記事に添えた。いくつか手に入れば持ち帰り、フキ味噌にして味わったものだ。
ノブコさんは林道に座り、フキの皮をむき始めた。本当は熱湯に入れてから処理した方がいいのだが、山でむいておかないと面倒になるのだ。フキはあくが強い。指先が茶色に染まっていく。



家に持ち帰ったフキを適当な長さに切りそろえる。料理のレシピでは、この段階で塩もみをするとしているが、私はそのまま鍋に放り込み、さっと茹でることにしている。
火にかける時間が長すぎると、フキのシャキシャキ感が損なわれる、2、3分で火を止め、今度は冷水にさらす。少し茶色がかっていたフキが、きれいな緑色に変わる。
私はほろ苦い味が好きだから、あく抜きにはあまりこだわらない。ワラビやゼンマイと比べれば、フキの苦みはたかがしれている。もともと、せっかちな性格でもあり、すぐに食べてしまいたいのだ。


茹でたフキはよく水気を切り、ゴマ油を入れたフライパンで手早く炒める。続いて鍋に移し、だし汁を投入。細かく切った油揚げを追加し、しょうゆ、みりん、砂糖で適当に味付けする。
あとは鍋にふたをかけ、弱火で10分も煮込めばいい。皮むきさえしておけば、実に手のかからない料理である。
煮込み過ぎると、フキがくたっとしてしまう。山の動物たちは、何でも生で食べているのだ。自然に育った山菜だからこそ、できるだけシンプルなレシピで味わいたい。


グツグツと煮立った鍋の中で、林道のフキたちが「食べて、食べて」と騒いでいる。収穫してから1時間足らず。春の山の贈り物が、いよいよ皿の上に並んだ。
フキは適度にやわらかく、醤油を吸って深い色合いになった。油揚げがからみ、懐かしい香りが食欲をそそる。出来立てを食べるより、少しさました方がおいしい。
「では、では」と、冷たいビールを用意する。フキの炒め煮を一口食べ、すぐにビールを流し込む。
ホップ、ステップ、ジャンプ!
ビールのホップと、フキの炒め煮が苦みを競っている。繊維質が豊富な炒め煮は、なんだか体にいい気がする。
なにしろ、山奥で育った山菜だから、肥料も農薬も使っていない。しかも、無料で手に入る食材だ。これで、マズイはずがない。
今夜は高知名物のカツオのたたきが食卓に並んだ。フキとカツオの相性は抜群にいい。ノブコさんも参戦し、料理をすぐに食べつくした。


フキの群落には、ゼンマイとイタドリも生えていた。ゼンマイは煮物やサラダにできる。高知県人が愛してやまないイタドリは、魅惑的な煮物になる。どちらも、酒のつまみとしては最高なのだ。
林道には現在、ピンク色の山ツツジの花が咲いている。私はこの花が、山菜の季節を教えてくれているのだと思う。
林道は今や、無料の山菜市場となった。フキは数が多すぎで食べきれない。ゼンマイとイタドリは、すぐ食べごろが過ぎる。こうなったら、毎日収穫に行こうかしらん。
高知の酒飲みは今日も、緑の山々を見上げて喉を鳴らしている。



