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黒猫は、なぜ盗むのか。|エッセイ|note


黒猫泥棒は、盗んだあと必ず一度立ち止まる。
逃げ切った路地の角。
追手もいない。
警報も鳴っていない。
それでも、振り返る。
私はずっとそれが気になっていた。

盗むことに、理由はいらない。
そういうキャラクターとして描いていた。
でも描き続けるうちに、気づいた。
盗む行為には、必ず「相手」がいる。
奪う対象がある。
奪われる存在がある。
その非対称が成立して、初めて「盗む」という行為になる。

ここで思う。
人間はなぜ、何かを奪いたくなるのか。
モノが欲しいからじゃない。
たぶん、それだけじゃない。
「お前のものを、俺が持てる」
その事実が欲しいんじゃないか。

序列の話をする。
人間は無意識に序列を作る。
上か下か。強いか弱いか。持っているか、持っていないか。
盗むという行為は、その序列を一瞬だけ塗り替える。
持っていなかった側が、持つ側になる。
弱かった側が、強い側の懐に手を入れる。
それは犯罪かもしれない。
でも、その瞬間だけ——序列がひっくり返る。

この街では、盗めるものの種類が違う。
モノだけじゃない。
データ、記憶、証明、存在の痕跡。
物理の世界では盗んだ瞬間に「証拠」が残る。
でも電脳の世界では、盗んだという事実さえ書き換えられる。
完全犯罪が技術的に可能な世界で、
それでも黒猫は振り返る。
消せるのに、消さない。
「俺がやった」という痕跡を、
どこかに残したいのかもしれない。

黒猫が振り返るのは、
たぶん確認のためだ。
「俺はやった」という事実を、
誰もいない夜に向かって、確認している。
承認してくれる相手はいない。
拍手もない。
それでも振り返る。
自分だけが知っている逆転を、
自分だけで完結させるために。

これはたぶん、弱さじゃない。
でも強さとも言い切れない。
承認を必要としない強さと、
承認を自分で完結させるしかない孤独は、
外からは同じ顔をしている。
見分ける方法が、私にはまだわからない。

あなたはどちらだろう。
誰かに見せたくて動いているのか。
それとも、誰も見ていなくても同じように動けるのか。
この街の夜は長い。
黒猫はまた走り出す。
次に盗むものを、もう決めている。
振り返った理由を、
今夜も誰にも話さないまま。



◇🐈‍⬛ギャラリー(電脳裏路地と猫)


黒猫泥棒を作ってたらできたイラストたちです。

 

                                




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