言葉の“距離感”を感じる日本語
最近、学生の作文やスピーチの原稿を添削していて感じることがあります。
それは、日本語には「距離感」を大切にする言葉が多いということです。
同じ内容を話していても、どんな言葉を選ぶかによって、相手との心の距離が変わってくるのです。
「この・その・あの」が教えてくれる心の位置
たとえば、学生がよく迷う「この・その・あの」。
教科書では「近いもの」「少し離れたもの」「遠いもの」と説明されますが、実際には“心の近さ”も表しています。
たとえば、スピーチで
「今日は、このチョコレートについて話したいと思います」
と言うとき、話し手は「これから話す大切なテーマ」に気持ちを向けています。一方で、
「私は子どものころ、あのチョコレートをよく食べました」
というときは、すでに過去の記憶として、少し離れた位置から懐かしく語っている感じがします。同じチョコレートでも、言葉ひとつで心の距離が変わるのです。
日本語のやさしさは、距離の取り方にある
日本語は、相手にどう感じてほしいかをとても繊細に表す言葉です。
たとえば「あなた」よりも「〇〇さん」と名前で呼ぶほうがやわらかい。
「ちょっとお願いしたいんですが」と言えば、ぐっと距離が近づく。
言葉を通して、相手との関係をそっと調整しているように思います。
私が学生の作文を読むとき、「この・その・あの」の使い方から、
その学生がどんな気持ちで書いているかが伝わってくることがあります。
文法だけでなく、心の位置まで見えてくるのです。
言葉の距離を感じながら書く
作文やスピーチは、ただ情報を伝えるだけでなく、
「どんな気持ちで伝えたいか」を表す行為でもあります。
だからこそ、「この」「その」「あの」をはじめとする日本語の指示語には、話し手の“心の温度”がこもるのだと思います。
私自身も、学生の言葉を直すたびに、
「言葉って、ただの道具ではなく、心のかたちなんだな」と感じます。
これからも、そんな日本語の奥深さを学生と一緒に味わっていきたいです。
