Scum Sweets episode00 『mentors' reminiscences』
「おいっ。――俺が喋ったって、絶対、絶っ対、あいつらに言うなよ」
1933年 6月
リーハイ川の水面を、柔らかな西風がきらきらと波立たせていた。
時刻はもう夕刻の5時になろうとしていたが、初夏の日差しはまだ明るく、温かく。川面を滑ってきた風は、心地よい湿り気と抱き合いながら川を下り、大きな水門を乗り越えて運河へ流れ込む。
去年までは、引き込まれる水も、運ばれる貨物も、艀も無く。
コンクリートで護岸された枯れ谷のようになっていた運河。水底のヘドロも乾ききってひび割れ、舞い散る鉱毒混じりの砂がそれを埋めていた……無機質に、乾ききった運河にも、今は。
「――水量は十分です。リーハイ川からの水門を再整備したかいがありましたよ」
「とんでもねえカネがかかったが。へへへ、これでフィラデルフィアまで道が通ったようなもんだ」
「それ以上のカネを、リーハイ石炭運行会社に暴利れましたが。まあ、必要経費ですか」
「地元の利権握っている堅気の会社は、下手なやくざより厄介な相手でござんすねえ。――ふん、地球の裏側でも同じか、笑える」
その日は、その時刻に、偶然――
普段は、別々の業務で動くことになったせいで、四人が揃うことが珍しくなった――その彼らが、偶然、空いた時間をその場で過ごし、そして。
男たちが、キラキラした水面、そして鋼鉄製の箱舟、艀を――ずらり、数十隻を連ねてゆうゆうと浮かべている運河の水量を見ながら、思い思いに言い、そして。
「ラインフェルデン社長。本日の――19時からの会合、忘れないでくださいよ。時計は大丈夫ですか」
「マックスさん、会合のレストランまで独りで平気っすか? 俺っちが車、転がしましょうか」
「ふふふ、そうですよ旦那。これだけの企業の社長が、自分で車を運転というのも。変な目で見られかねませんからね」
「それにしても、マックス・ニシパ。あなたはなんというか、背広、似合いますねえ。いえ、深い意味はござんせんよ本当」
四人の男たち――
背丈、服装もバラバラの男たち。一人は事務員のような簡素な仕立ての服を着。一人は黒い上着を肩に引っ掛け、やはり黒い帽子をきざに被った男。一人は、鉱山で使う頑丈な革靴とズボン、そこに胸のボタンがはち切れそうなシャツを着た男。もう一人は、もう汗ばむ季節というのにカラスのように黒い、煤色のコートを着た眼鏡の男、だった。
その四人に、背後から囲まれるようにして立つ、もうひとりの男――
五人目の男。直立した雄牛のような、いかつい体格の男は、
「どあああっ! シャイセ! うるせえ、てめえら! いっぺんに喋んじゃねえ!!」
頭髪を剃り上げた頭を、サングラスをした顔と頭を赤く染めた男が。
マクシミリアン・ラインフェルデン――
ここロックウェルのギャング、GD団の幹部にして。大不況のあおりをモロに受け、半ば市の全域が廃墟と化していたロックウェルで、新進気鋭の大企業、ロックウェルの砂利を流通させる会社の社長でもある、通称、マックス。
その彼が……その大柄な、年相応に脂がついて腹も出てきたその体格を包んだ小粋なスーツ、最近流行の「ジャズ・スーツ」と呼ばれるスーツの上着、その袖をまくって時計を見る。
「わかってら、ヴァルター。まだ5時じゃねえか。時計も……あってるよな」
「もう一度、ネジを巻いておいてください。いまは、16時55分です」
「細けえなあ! わかったよ。 ……えーっと。ランドルフォ、タクシー使うから大丈夫だ。へへへ、このロックウェルの通りでタクシー見たのなんざ、何年ぶりだよ」
「了解っす。あ、会合で飲み過ぎちまったら、電話くださいよ。そしたら俺っち迎えに行きますから。あっ、タクシー乗るときは領収書、面倒でもちゃんととらねえと、あとが」
「わかってるよ! あああ、面倒くせえ税務署死ねっ。……あー、リッカルド、この艀な。一応使えるかどうか、水漏れとか、船体の登記ナンバーとか、確認頼むな」
「任せてください、マックスの旦那。こいつに積み込む砂利と、船員どもは私の仕切りですからね。……艀のほぼ半分を、フィラデルフィアから、フェデリ一家から借りる羽目にはなりましたが」
「ハハハ、仕方ねえが――ジャンの野郎も言ってただろ。カネ借りるよりはまだ、安い借りだ、ってな。フェデリ組も、これでうちに恩義、貸せたわけだ。ちっとは晩酌もうまくなったろうさ」
「マックス・ニシパ。あなたにカタギのふりさせて――フロント企業のシャッチョ=サンさせてしまっているせいで。厄介事が、ニシパに、あなたに集中しそうな臭いもしております。お気をつけて」
「ハハハ、わかってるっつーの。俺様を誰だと思ってんだテッシー。GDの一番の古株……」
「この業界で年寄り、古株ってやつは、百戦錬磨の生き残りって意味の刺青ですが――パイセン、貴方は私たちとは違う。こんなところで野垂れ死ぬのが末路の私たちとは違って……カタギに戻って、故郷で親孝行しないといけないお人ですよ、お忘れなく」
「がーーー!! いままででいちばん、うっせえ!いらん世話だ!! 俺がカタギに戻るぅ? バカ抜かしてんじゃねえぞ! 俺抜きで、この組が、GDが回るわけねえだろ!?」
マックスーの吠える一語一句に、居並ぶ四人の男たち――
デイバンの戦争で、あの港町の路地に無数のマフィア、ギャングども血を染み込ませた狂犬たち。
DGの男たちが、マックスの顔と言葉に、無言で。いい顔の笑みで、答える。
「だいたい、おまえら! 俺が居なかったら、腹すかせてべそかいて、ロックウェルにも戻れなかったくせしやがってよ! いっつも、こうやって……ひよこみたいにぴいぴい、騒いでるやつらがよう! 俺がカタギに? 笑えねえ冗談はハロウィンまでとっとけ!」
頭の天辺まで赤くし、汗をてらてらさせながら、ひとしきり怒ったマックスは――
ふう、と息をつき。腕時計のゼンマイを巻いて。
「通りに、タクシーがうろつくにはちと早い時間か」
「ですねえ。まだ運ちゃんども、愚痴こぼしながらビール舐めてる頃合いですぜ」
「社長も、何か少し食べてから向かいますか? どうせ会合の場では――」
「天気が良くて何よりです。……ふう、地獄みたいだったあの冬が、嘘のようですよ」
「まったく。今日は気持ちの良い日でござんすねえ。運河の水も、こころなしか……冬の頃より、きれいになった気がしますよ」
マックスは、自分の会社が運用する艀の列を見ながら、にやり、
「気のせいじゃねえよ。あの会社の守銭奴どもに目玉の飛び出るようなかね取られただろうが。――リーハイ川の本流から、水を引いてるからな。しかも、鉱毒や石炭船のごみで腐った水じゃねえ、夏になったら泳げるぜ」
「それは楽しみ。うふふ、冬の頃。川まで、皆で行って。売るほどニシンを採ってきたのが懐かしいでございますな。パイセンの魚さばき、小樽の熟練職人みたいでやんした」
「うるせえ! まあ、あれもリーハイ石炭運行会社に見られたら面倒だったかもな。ま、毎年あるこっちゃねえがな。あんな、海の魚の群れがここまで来るとかよ」
「……。あっ、マックスさん! 運河の、そこ、艀の影に……魚が」
「へえ。こんなとこまでカマスが来るのか。これも、ちょっと前じゃありえなかったぜ」
「――今年に入って。流れが変わった、ということですね。川と運河も、この街も」
事務員姿のヴァルターの言葉に、
――ま、そうだな。
スーツの腕で、腕組みしたマックスは……爽やかな川面の風を吸い込んで。
「景気、良くなった。つーか。あれかな」
この場に居ない「ある男」のことを思い出しながら。
「ジャンの野郎がこの街に来やがって。ドタバタドンパチあって、デイバンに行って、また戻ってよ――そしたら、なんか。このロックウェル、風通し良くなった気がするぜ」
「ジャンカルロ・ニシパはそういうお方ですから――」
「……ジャンさんの前じゃ、ちょっと言えねえけど。聞いたハナシだけど」
この場に居ない、彼らの直属の上司、そして憧れや尊敬、崇拝、それらの感情をまとめて磨き上げたような輝き、それを人名に、言葉にしたランドルフォが声を潜める。
「ジャンさん、昔は……もう10年くらい、昔のデイバンじゃ。チンピラの頃から、ちっとは名前が売れてたんだぜ。とんでもねえツキをもってる男、握手してもらっただけでその後のバクチに勝てる男、デイバンのもぐりの賭場ぜんぶで出禁食らってた男。『ラーッキードッグ』ってなあ」
「――いまでも。あのお方には、そういう力がある。幸運、などという言葉では語れないものをお持ちだ」
「同感ですな。それはそれとして……」
テシカガが、ジャン、の名前に腕組みし。後方から、その男を見守り誇らしげにしているような顔のマックスに、言った。
「幸運、といえば。マックス・ニシパもかなりのものをお持ちかと――ジャンカルロ・ニシパのような、輝く龍脈のようなそれとは違いますが……パイセン、あなたにもなにか。不思議な守護のようなものを感じますよ」
時おり、自分のことを「先輩」「パイセン」と……あの男、同じくGD幹部のバクシー・クリステンセンの軽口、からかいを真似して呼んでくるテシカガに、マックスはムッとしつつも。
「守護ぉ? ああ、こいつか。ハハハ、こいつはなあ――本物だぜ」
マックスは、スーツの下、シャツの首元から金のチェーンで下げられていたお守りを取り出し、男たちに見せて……笑う。
「俺は、こいつのおかげであのデイバンから無傷で戻ってこれたんだ。こいつが無かったらと考えるだけで……うへえ、鳥肌立つぜえ」
マックスの見せたそれは――
小さなガラスの管に、何かの砂が入れられ、封がされた。何の変哲もない、砂の入ったガラス、にしかみえない……お守りだった。
「何かのおまじない、魔術の類ですか? そういうの、あまり他人には……」
「馬鹿野郎、ちゃんとした教会が売ってたお守りだぜ。高かったんだぞ、これえ」
「へへへ、そいつのおかげで……俺っちたちも、ご加護のおこぼれ。この街に生きて戻ってこられて、そして……」
「ジャンさん、バクシーの旦那たちにもまた会えた。のかもしれませんね」
「宗教は悪い文明ですが。まあ、世の中。人知の外、不思議なことも多いですからねえ」
男たちは、駄弁りながら――そして。
「こいつ、買ったの、いつくらいだったかなあ。10年、いや、もうちっと前だったか」
「十数年前ですか。ははは、この街の様子も、ずいぶん違ったのでしょうね」
「おうともよ。その頃はなあ、まだ不況の前でよ。ロックウェルのどこに行っても、人間とカネが、シノギがうなるほどあってよ。そのぶん、荒事も多くてなあ。ま、そこで、俺みたいな腕っぷしの男はのし上がったわけよ」
「……10年、ですか。僕は、何をしていたっけなあ。まだ学生で――」
「……私は、戦争、パリから戻った頃ですかね。懐かしい。なにもかも」
「……10年。かあ。俺っち、車欲しくって学校も行かずにアルバイトしてましたよ」
「……10年一昔でござんすね。自分は―― くそ、思い出したくもねえ ――でも、パイセンって。10年前から、その雄姿、まったく変わってなさそうですよね。その頃からふくよかで、頭も」
「はぁあああ!? シャイセ、バカにすんな! 10年前とか! 俺はまだ痩せてて! それに! なんべん言ったらわかるんだ! この頭は剃ってんだ!禿げてんじゃねえ!!」
――おやじと違う、言いかけて……ギクッと、マックスは言葉を飲んでから。
「あっ。信じてねえなこの野郎馬鹿野郎! おうおう、じゃあ……これ見ろ!」
マックスは、激昂しながらも――上着の隠しから取り出した質実剛健な財布、その紙入れの奥から……昔の写真を、何枚か取り出してシャッフル、その一枚を男たちに見せる。
「……これは。10年前の社長ですか、本当だ、まだ若い」
「おっ。今ちらっと見えたの、マックスさんのコレですかい? ちょ、そっち見せてくださいよぉ」
「ふふふ、本当だ。この頃から強そうで――いい男ですよ、マックスの旦那」
「この頃は髪があったんですねえ。頭の両側剃り上げたりして、やくざみたいじゃあありませんか」
「だから! ヤクザだよ!! もうGDの幹部だったんだよこの野郎!!」
古い、薬剤が黄ばんだ白黒写真。
そこに写っている、今より若干細く、腹も出ていない……だが、凶暴なギャング感は今よりも強い、そんな20代のマックスの写真に、男たちは。
「ああ、書いてあるじゃないですか。1919年。……後ろのはコレ、もしかして「カサブランカ」ですか?」
「おう。どういう流れだったかな。写真撮るってことになってよ。懐かしいぜ」
「まだ「カサブランカ」、窓も破れていませんし、看板も、外の電飾もありますね」
「ええと、14年前のロックウェルと「カサブランカ」。んで、マックスさん。ひゃあ、ほんと、景気良かったんですねえ、このころ。後ろに、トラックがズラーッと見えますわ」
「ふふふ。14年前。パイセンは、まあこのお姿として――」
テシカガが、今はこの場に居ない彼らの上司。
ジャンカルロ、そしてバクシーのいる方向を見るようにして……遠い目で、言った。
「……その頃は、ニシパたちもまだ子供ですよね。どんなお姿だったのやら。ふ、ふ、ふ」
「それな。マックスさん、子供の頃のバクシーさんの写真とか、無いんですかい」
「ねえ。たしか、写真の流れになったときに逃げ出したはずだ」
「ということは。子供の頃から、バクシーの旦那はこのロックウェルに?」
「ジャンさんは、デイバンですよね。バクシーさんは――」
DGの男たちに、マックスは少しだけ、首をひねって昔を思い出しながら。
「その写真、撮った年だったかな。バクシーの野郎が、このロックウェルに流れてきやがってよ。ほんッッッとうに、もう! 手のつけられないクソガキでさあ、シャイセ! あああ、思い出したら今でも腹が立つ」
「ふふふ、あの偉丈夫にも子供時代が。当然ちゃあったりまえですが、なんか可笑しいですねえ」
「おう。あの野郎、いきなりでっかくなりゃがってよう。あのババァ、リリーたちが甘やかしすぎたんだ、くそ。こーんなだったガキが、気づいたら俺よりデカくなってやがって」
マックスは、自分の腰くらいの高さを手のひらで撫でて。
それから、自分の頭の少し上を手で叩くようにして、シャイセ。
「……あれっ。ということは。バクシーさん、別の街の出身なんすか?」
「おう。マサチューセッツのな、海のほう。セイレムだったかな。いっぺんだけ、行ったなあ」
「へえ。子供時代に、そっから流れてきたんすか。だいぶ、距離が離れてねえですか」
「あいつ悪童どもにまぎれて、ロックウェルまでやってきてよ。GDの倉庫荒らしやって捕まって。んで、ぶち殺される代わりに、なんでか、おやじが気に入ってよ。……で、ああなったわけだ」
「実に、興味深いお話です」
「……その頃、ジャンさんもどうしていたんでしょうねえ」
「リリー刀自も、今よりはお若かったでしょうから。子どものバクシー・ニシパが可愛かったのですかね」
「いや。ババァにめしは食わせてもらっていたけど、しょっちゅう悪さしてぶん殴られてたぜ、あいつ」
「へえ、へー、へー。すっげえ、聞きたいっす! その頃のハナシ!」
「……たしかに。気になりますが、社長。もうお時間が」
「私も、できたらビールを傾けながら聞きたいお話しですね」
「あの刀自が若い頃とか。めちゃくちゃ、いい女だったのでは――」
「いや。あのころからババァだった。いまほど萎んで、白髪にはなってなかったがな。あのころは……口の減らねえ、因業な婆だったなあ。まだあの亭主がいたからなあ」
「そうでしたか。その頃だと、ボス・イーサンも……」
「ああ。あの頃と比べると、おやじ、だいぶ枯れたっつーか落ち着いたな。いまじゃ、あんまり自分から荒事に出ていかねえし。いきなり手が出ねえし。……あの頃はなあ、大変でなあ。俺も毎日、おやじに殺されねえようヒヤヒヤだったぜ」
「そんなに」
「へへへ、でもあのころからおやじ。もう……額はちょっと、コレでよ」
マックスは、周囲を気にするように笑いながら、手で額を撫で、笑い。
DGの男たちを引き連れ、運河の突堤から離れ、幹線道路へと……向かう。
「バクシーの野郎、今じゃあの「なり」だがな。ま、あいつにヤクザのイロハ教えてやったのは俺だしな。いやあ、できの悪い弟分持つと、苦労するぜえ」
「あいつ、最初はなーんも知らない浮浪者のガキでよ。それがまあ、飢え死にも、荒事でくたばりもせずにあそこまでなったんだ。運がいいのは、ジャンだけじゃねえさ。バクシーも……」
歩きながら、昔語りをし。
そこに自慢話も混ぜ、上機嫌だったマックスは、ふと――
アッ。と。
自分を囲むように歩く、男たち。
昔話に、「疾犬ジャンカルロ」と「ショットガン・バクシー」の知られざる過去に、興味津々の顔の男たち――。
ヴァルター、ランドルフォ、リッカルド、テシカガ。
その男たちの目の奥の笑みに、ハッと気づいて。
「しまった……! シャイセ、くそ、おまえらあああ!」
「はい」「ハイッ」「はっ」「なんざんしょ」
「しまった、口が滑った、しゃべりすぎた! 今のハナシ……昔のこと! バクシーのガキ時分の頃の話、あのババァのハナシ! あれ……」
「はい。メモをしておくべきでした」
「めっちゃおもろいじゃないですか。ビール買っておきますわ」
「大変に興味深いお話でした――」
「つづきはやく、やくめでしょ」
「だあああッ! てめえら! さっきのハナシ……! 俺が喋ったって、絶対、絶ッ対!! バクシーの野郎に、あのババァに言うんじゃねえぞ!?」
「えっ」「アッハイッ」「それは、また……」「あーなーる」
「とくにバクシーの野郎!! あいつ、子供時分のハナシ、めちゃくちゃ嫌がるんだよ! そんなの、俺の口からお前らに漏れた、って知られたら……シャイセ、くそ!」
「それに!! リリー、あのババァも! 昔の、死んだ亭主のこと出されると、包丁どころか見たこともない刃物出してくるからな。いいな、言うなよ!? 俺が喋ったって、ぜったい言うなよ!?」
「「「「 わかりました 」」」」
「だあああっ!! 目どころか、つらが笑ってんじゃねか、てめえらああ!」
「とくにヴァルター! おまえは危ねえ! バクシーと打ち合わせしていて、急に「そういえばセイレム出身だそうですね」とか言いかねないだろこの坊や」
「あはは。そんなあ」
「ランドルフォてめえ! おまえは黙ってるつもりでも! バクシーにおちょくられたときに! 『バクシーさんも、昔はこんな小さかったそうっすね、おっとこれじゃ精子ですね』とかやりかねねえ!」
「フハッ。言わねえっすよお」
「リッカルド! おまえも! スカした面して! ジャンに『あなたの子供時分は、どこで過ごしていたんですか? バクシーさんのことは、マックスさんから聞きました――』とか、ジャンをだしに言いかねねえ!」
「ははは、気をつけます」
「テッシー! おまえ! 本当、気をつけろよ!? あのババァと故郷が同じ日本かもしれねえが――あのババァの尻尾、知らずに踏んづけたらお前でも殺されるからな!? だから言うなよ! 絶対に言うなよ!? あの婆、ああ見えて、悪魔みてえにめちゃくちゃ強ええかんな!?」
「存じております。まあ、あの刀自に斬られるのなら観念いたしますよ」
「とにかく! あいつらには喋るんじゃねえぞ!? いいなっ!」
「……まあ。あの頃のことは。また、話してやるよ」
五人の男たちは――
姿形、服装もバラバラの男たち。仲間たちは――
夕刻が迫り、次第に車の姿が行き交うようになった幹線道路へと駄弁りながら、歩いてゆく。
その車の流れに、タクシーのランプがちらほらと混ざり始めていた。
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