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🌙モテた時の話し


高校生の頃異様にモテた時期があった。このモテ期と言うのは、人生における主観的なモテパラメーターで計測した場合のことだ。誰のモテ値とも比較していない。



高校二年生から三年にモテ値が突出していた。

そもそも、高校一年生まではなんと言うこともないウブな少女だった。熱い恋愛は未経験だった。

はっきり言って、別に可愛くなかった。
ぽちゃっとしていたし、おしゃれでもなかった。
ルーズソックス全盛期で、ルーズソックスが長ければ長いほど、クラスの一軍めいた光を放つ時代だったが、私はせいぜい1mちょっとの物しか自分のお小遣いで買えず、穴が開けば自分で縫っていた。
足も細くなかったから、ルーズソックスの可愛さを表現できていなかった。

そんな頃、下瞼を手術することになった。逆さまつげでまつ毛が眼球に触れやすく、目が腫れやすかったからだ。

大変な手術なのかと少し恐れはしたが、
「美容整形の切開二重手術と同じです。日帰りです」と言われ、
ほっとしたと同時に、なんだか胸の中がときめいた。

「もしかして目が大きくなる?」

そんな期待が胸に満ちた。
細い奥二重だった。

そして、手術を行なった。
確かに少しだけ目が大きくなった気がした。下まつ毛が瞳を遮らない分、瞳がはっきり見える。
顔にインパクトが出た。

上瞼も二重にしたら、もっと顔立ちがはっきりするかも!と考え、
私は当時大流行した"アイプチ"を使って
上瞼をぱっちり二重に変化させた。

ノリで貼り付けた不自然な瞼。
お世辞にも美しいとは言えないのだが、
目が大きく見えるだけで、顔が何倍も明るく見える気がした。
アイプチの不自然な大きな瞳と、奥二重の小さな目を天秤にかけると、
アイプチの顔に軍配が上がった。
プリクラの写真写りも、満足感が上がった。

そして、自分も、ちょっと外見に手入れをすれば、人並みに可愛くなれると知り、次は体型が気になった。

お世辞にも普通体型とは言えず、中肉中背だった。
さらに言えば、私は胸がデカかった。
胸がデカいだけで、なんだか何倍も太って見えるのだ。もちろん痴漢にも会いやすかった。なんとかしてこの肉感のある身体を落ち着かせたかった。

そこで、人生の一大決心、ダイエットを敢行した。

かなりの過酷ななダイエットだった。
まず間食は基本ゼロ。ジュースもダメ。
お腹が空いたらトマトか無糖のブルガリアヨーグルトか冷奴でしのぎ、
食事では、白ごはんはおかわり厳禁、繊維質の副菜で紛らわす、
みたいなことを本気で数ヶ月実行した。

何度か貧血やら糖欠で倒れたりした。
それでも、痩せたい思いは揺らがなかった。



当時、愛知県内の進学校に通っていた。
友達の家は皆裕福で洗練されていたし、帰国子女も多かった。

自宅に三越の行商が来るとか、
誕生日に自分専用の防音ドラム室を作ってもらったとか、
夏休みにアメリカに語学留学に行くとか、放課後は代ゼミに行くとか…

自分の家は違った。
ポケベルもPHSも携帯も高三まで持たせてもらえなくて、お小遣いも少なく、
プリクラもあまり撮りにいけなかった。
ギャルっぽいかっこいい服が着たいが、お金もないし、
親はそんな流行の服は買ってくれないし、バイトは親に禁止された。
その前にポッチャリ体型の問題があった。

大層自由闊達な高校だったが、
その分各個人の家庭状況はストレートに見えてしまった。
お金持ちでもない、可愛くもない、
スタイルもイマイチ、成績も良くない、
そんなわたしは、知らぬ間に自信を失っていた。
コンプレックスを一つでも解消したくて、ダイエットに臨んだのだ。

結果、ダイエットは成功した。
私は人生で初めて、
157センチ46キロ、Eカップと言う、
いわゆる理想的な体型を手に入れた。



気づくと、いろんな人と目が合うようになった。
地下鉄ですれ違う男の子がジロジロ見てくる。
アイプチをして化粧をしたわたしは、
デビューしたての、深キョンそっくりだったようで、
"深キョン〜❤︎"と他校の男子に声をかけられ、
驚いたことが何度もあった。

カフェに入れば、可愛いからとお菓子をサービスされたり、
美容院に行けば、可愛い可愛いと、人が群がってきた。

校門で、下級生が自転車で待ち構え、私を駅まで送ろうとする。
「ずるいぞ!明日は俺が月子先輩を乗せる」と別の後輩がすねる。そして、後輩の自転車に乗せてもらって、隣で別の後輩が自転車を走らせ、3人で話しながら帰る。

友達が増えたことを体感的に感じた。
異性も同性も友達が増えた。
"同性も"である。
いわゆるコンパに声をかけられることが増えた。

しかも、高校の先生にまで。
離任式の前に体育倉庫に呼び出され、「俺にとっては、月子が一番かわいかった。」と言われ思い切り抱きしめられた。先生は逃げるようにその場を去り、体育倉庫で一人茫然と立ち尽くす私。

10キロ痩せたら、わたしの周りの環境は劇的に変化してしまった。

いや、変わったのは周りだけではない。
何より、自分で自分が可愛いと思えた。
何を着ても可愛い。
以前は何を着てもイマイチだったのに、
今は何を着てもオシャレに見えた。

あんなに貧乏くさいと思っていた母の古いミニスカートでさえ、
わたしが履けばツィッギーになった。
前は足が太過ぎて、パンツが見えそうで履けなかったのに。

ファッション雑誌が、本当に"参考に"なった。前はコーデを真似しても、服に着られている感があった。

スタイルが良いだけで、世界は劇的に明るく変わってしまった。
わたしは、生きていることが楽しいと一瞬浮かれた。

しかし、自分の性格の根本は何も変わらないし、家庭環境が変わるわけでも無い。次第に、『また元の体型に戻ったら、どうなるんだろう』と言う、
末恐ろしさにじわじわと支配されていった。

元の体型に戻ったら、
アイプチをやめたら、
どうなるのだろう。
多くの友達はそっけなくなるのだろう。
不細工な自分にも、自分自身が辟易とするだろう。
カフェに行っても、お店の人の笑顔を見ることが少なくなるのかもしれない。母だって、スタイルの良い可愛いわたしを気に入っているようだし…
鏡の自分は痩せて可愛く煌めいていたが、その分影が濃くなっていった。

モテパラメーターが最大値になり、
人にチヤホヤされた時、
同時に人間社会の冷たさを最大限に感じた気がした。
結局、人は表面しか見ないと言う冷酷さを。

続く
🌙

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