第2章 限界を超えるには 第2.1節
2.1 小さな光をつくろう[1]
1.1節の図1.1に示した光科学技術の限界を超えるために私が提案したのがドレスト光子です。「光子」は「こうし」と読みます。「みつこ」と読まれることが多いので、私は通称「どれすとみっこ」ちゃん、と呼んでいます。
ドレスト光子は光波長よりずっと小さいナノメートル寸法の物質(ナノ物質)中の光子と電子との間の相互作用により生成される量子場です。かつて私はドレスト光子を「近接場光」と命名したこともありました。なぜなら、当時はドレスト光子の概念があまりにも先端的だったので、むしろ多くの光研究者・技術者・学生諸氏が違和感なく受け入れるような名前の方がよかろうと考えたからです。
その結果、近接場光は「巨視的寸法の物質の平坦面に発生するエバネッセント光と同じようなもの」として受け入れられました。しかし実はエバネッセント光の発生の物理的機構は誰も研究していなかったためこれは空虚な名前なのです。一方、近接場光はナノ物質表面に発生しますが、それも発生機構の理解にはつながらない名前でした。
ドレスト光子は図2.1に示すようにナノ物質に光をあてたときその表面に発生します。ナノ物質に入射した光のうちの殆どはナノ物質に跳ね飛ばされて散らばり、遠くへ伝搬していきます(これは散乱という現象です。)。入射光および発生した伝搬光は昔からよく知られている普通の光で、宇宙に満ち満ちています。しかし同時に、このナノ物質の表面にはドレスト光子が発生するのです。
ドレスト光子は伝搬せず、そのエネルギーは物質の表面に局在しています。またドレスト光子が局在している範囲、いわばドレスト光子の寸法はナノ物質の寸法程度であり、入射する光の波長には依存しません。従ってドレスト光子はナノ物質を覆う薄い膜のような光です。それを発生するナノ物質と合わせて考えると、ドレスト光子は入射する光が皮長より小さく、従って「光の小さな粒」と言えます。
ドレスト光子はニュートンの粒子脱、アインシュタインの量子説が扱っている概念とは異なっていることに注意して下さい[A]。ドレスト光子はナノ物質と共にある光なのでニュートンの考えた「粒子」とは違っており、また光とはいってもナノ物質表面に局在しているのでアインシュタインの「光の量子」とも異なります。つまり1.1節に記した「光を古典論的に扱うか量子論的に扱うか」対比では扱えません。ニュートンとアインシュタインの二つの説が扱っているのは自由空間または巨視的物質中に存在し宇宙に満ち満ちた伝搬光なのです。
さて、伝搬光の波長λは図2.2に示すように光の波が空間を進むときの一周期の長さなので、それを測るのは難しくありません。普通はまず数周期分の長さLを測ります。その後Lの値を周期の数Nで割れば波長λの値が求められるのです。一方、ドレスト光子はナノ物質に局在し、その寸法は波長以下なので、そもそも光の波が進むときの一周期の長さとしての波長を考えることができません(図2.3)[B]。



脚注
1 本稿は私が著者となり自費出版した「光科学技術革命 ドレスト光子はやわかり」―異次元の光技術入門― (丸善プラネット、2014年3月)の第2.1節の一部の文章と図を適宜アップデートしたものです。
補足説明
A ドレスト光子は光波長以下の寸法を持つナノ物質がないと発生しません。つまり自由空間、真空中では発生しません。逆に言えばナノ物質があればそこにはドレスト光子が発生します。たとえば平坦な机に光をあてることを考えてみましょう。机の表面にもよく見ればナノ寸法の細かい突起があります。そのような細かい突起にドレスト光子が発生します。これまではドレスト光子は小さすぎて観測できず、従って使われていなかっただけなのです。なお、光学の教科書にはエバネッセント光と呼ばれる表面波が紹介されています。これは無限に広い平面という特異な形状を前提として考える波です。一方、ドレスト光子は無限に広い平面を必要とせず、小さなナノ物質にまとわりついているのです。
B ドレスト光子について「波長」を考えることができない理由は、量子力学においてよく知られている不確定性原理を使って説明できます。この原理によると光の波数k(波長に反比例)と位置xの不確定性Δk、Δxの間には不確定性関係Δk・Δx>1があります。伝搬光の場合、寸法が大きくΔx>>λ(光の波長)なのでΔk<<kとなります。従って光の波数、波長は精度よく確定します。それに対しドレスト光子ではΔx<<λなのでΔk>>kであり、波数、波長は確定しません。図2.4(左)に示すように、ドアの小さな鍵穴を通してその後ろにいる大きな動物を見ても、その正体を知るのが難しいのと同様です。

