Tonight, so bright ― Marc Jacobs のワンピースとスマパンの夜
2025年9月、武道館、私はついに生でスマパンを見た。
スマパンは、本当に存在したのだ。
90年代、オルタナ真っ只中の時代に私はニューヨークで大学に通っていた。ソニック・ユースやニルヴァーナがマンハッタンのノイズに溶け込んで、グランジなグラフィックが溢れていた時代。
私は、スマパンばかり聴いていた。
ビリーの壊れそうなほど繊細なウィスパーヴォイスから一瞬で全てを爆発させるシャウトが好きだった。
しかし、だ。
なぜか私は何度もスマパンのライブを逃し、そして、そのままバンドは解散してしまった。
2018年、イハが復帰したマディソンスクエアガーデンの時には仕事で行けなかっただけでなく、もう、ニューヨークが私から遥か遠い街になっていることを実感させられた。
そして、2025年のあの夜の武道館には、センシティブな青春を過ごしていたであろう同志たちが、vampire な world を生き延びて、かなり逞しくなって集まっていた。
私にとって、スマパンといえば、Marc Jacobsだ。
マークはオルタナの武器であったグランジをハイエンドなファッションへとブラッシュアップした張本人である。
今は輩が着るようなラインになってしまっているが、甘さの中に孤独でガラクタ的なものを裏打ちした、ミニマルでないデザインは秀逸だった。
良い意味で新しさの中に既視感があり(実際、マークはよく他人のデザインをパクっていたがそれはそれとして)、ノスタルジーを喚起する。
漂う「儚さ」に、ビリーの声と同じニュアンスを感じ、私はマークの服に夢中になった。
そして、その日、私は友人の結婚式に出席しなくてはいけなかった。
しかもスピーチまで頼まれていた。
でも、まだセンシティブさを引きずっていた私は、
どうしても行きたくなかった。
どうしてもどうしても、行きたくなかったのだ。
そこに重なってきたのが、Marc Jacobsの受注会だった。
人としてどうかしているとは思うが、私は迷わず、Marc Jacobsを選んだ。
青山の白い小部屋に通されて、なんかシュワシュワした飲み物を出され、うふふと笑いながらソファーに座る。
あれ?この曲・・・
モニターから流れてきたのは
名盤 Mellon Collie and the Infinite Sadness のインストゥルメンタル。
やがて、「Tonight, Tonight」のイントロに合わせて
モデルたちが歩き出す。
泣きそうになった。
押し潰されそうなくらい多感だった
ニューヨーク時代が一気に甦る。
The impossible is possible tonight.
そうだ、Tonight, so bright なんだ!
迷わず、ワンピースを試着した。
くっそ、似合った。
身体中に電気が走るこの感じ。
ミディアム丈の黒いワンピース。
ボートネックの襟元にはラズベリー色のロールカラー。
ローウエストにはダークな虹のような切り替えがあり、
細いベルトがアクセントとなり、クラシカルな品格を漂わせている。
フレアなスカートにはグレーのゴアがバックギャモンのように入り、
メロウなモノクロームを繰り返す。
そして背中では引き裂かれたように配置された
ラズベリー色のクラッシュベルベットがシャウトし、
規則正しく配置されたマルチボタンが繊細なリズムを生み出している。
なんだこれは?
スマパンの音楽そのままじゃないの!
「これ、日本に一着しか入ってこないんですよ」
そう説明するスタッフの言葉に食い気味で答えた。
買うわ!
私、これ買う!
猛烈に働くの。
だって、これは私のための服だもの。
でも結局、
the world is a vampire だよね。
くっそ、高かったよ、マーク・・・
あれから20年経つ。
あのワンピースは、今も私のクローゼットにいる。
そして、 一緒に出かけるのを待っている。
少し緩かったサイズが、
ちょっときつくなってきたけど、
それでも、ワンピースを着ると
スマパンの音楽がスカートの裾にまとわりついて、浮遊感に包まれる。
センシティブで孤独だったけど、自由だった夜に戻してくれる。
tonight, so bright
そして再び2025年、武道館。
Billy Corganは、あの頃のハイトーンヴォイスは出せなくて、
どちらかというと、アダムズファミリーの一員みたいになっていたけど、
隣には相変わらずクールなイハがいて、
ジミーのドラムが疾走する。
ダーシーはいない。
それでもスマパンだった。
あの夜の私たちは
We're not the same.
We're different tonight.
確かに ” piece of youth” ー若さのかけらー を抱えたまま、
大人になっていたのだ。
あの頃、スマパンに夢中だった同志たちは
今、どうやって自分に折り合いをつけて生きているんだろう。
見たこともないあの湖畔にある街を自分の故郷のように感じ、
すり減る毎日をどう生き延びて
今、ここに辿り着いているんだろう。
同じようにはいられないけれど、それでもまだ tonight, so bright?
