025 笑うな。
15年ぐらい前の事。
夏休みに小学生の娘を連れて、ふいに広島まで行ってみた事がある。
別に知人が居るワケでも無く、目的も無いので、まず平和記念公園に行った。
資料館に寄ると、昔見た事のある遺物や写真が展示されていて、大勢の人が訪れていた。
印象的だったのはヒジャブを巻いたムスリムの若い女性で、東南アジア系の人なのかな?陳列された死と破壊の残骸を見て、人目も憚らずに涙を流していた。
綺麗事を言うつもりは無いけど、本来は彼女のように国や信仰が違っても悲しい事は悲しいと共感出来るハズなのだ。
さて、資料館を後にして慰霊碑で黙祷をした後、天気が良いので原爆ドームの方まで歩いて行く。
観光客や散歩する地元の人たち、ストリートミュージシャンなどを横目で見ながら川沿いを進み、ドームの前で立ち止まってその姿をじっと目に焼き付ける。
すると外国語で大声を上げながらはしゃぐ3人組の男たちがやって来た。
見るとインド系の大学生といった感じで、歌いながらじゃれ合っている。
さっきの資料館のムスリム女性とは違って、場所をわきまえない奴らだ。
だいたい何だ、その日本人なら絶対に選ばなさそうな変な柄のシャツは?

インドのしまむら的な店にはそんなのしか売ってないんかよ…
なんて思って向こうへ行こうとしたらその内の1人が声を掛けて来た。
「Excuse me .Take a picture, please.」
えっ、オレ?オレに写真撮ってって言ってんの?
ちょっと面食らった様子が面白かったのか、3人は僕を見てケラケラ笑い、その頃はまだ珍しかったiPadを手渡して来た。
あ、これで撮れと?…まぁいいけど、オレより金持ってやがんな、変なシャツ着てるクセに。
しかし、人なら他にも居るのに、なぜさほど善人そうでもないオレなんだろう?
これ持って逃げるとは思わんのだろうか?
…いや、今この近辺で子供連れは自分だけ。子供の前で親父がカッパライなんてするハズ無いし、したとしても子連れで逃げるのはリスクがデカ過ぎる。
iPad欲しさに我が子を見捨てて逃げる父親なんて、世界中のどこを探しても居るワケない!
…という読みだろうか?
そう考えての事なら意外と賢いかも。
ま、どっちでもいい。サッサと済ませよう。
けどコイツらが原爆ドームをバックにおちゃらけた写真を撮るのに一役買うのは、ちょっとモヤモヤする。
かと言って英語で上手く説明する自信が自分には無い。
「Hey, Don't Laugh Mother Fuckers!」
…英語に詳しい方、これで合ってますか?
いえ、もちろん言ってません何も。
まぁ解らんからとにかく撮る。
なんせ笑うなよ!
あと歌うな!
そして踊るな!
心の中ではそう思いつつ、英語版「はいチーズ!」が解らないのでカウントダウンする。
「スリー、ツー、ワン…パシャ!」
すると、ツーまでフザケてた3人が、まるで打ち合わせていたかのように直立不動で悲しい顔をした。

「ククク…ちょお前ら、何それ、うひゃひゃひゃ」
はっ、オレが笑ってもうた…
3人は丁寧に礼を言って、また騒ぎながら向こうに消えて行った。
今日は広島に原爆が落とされた日。
