お母さんの隠し事 愛してると言われたい第二章 深夜のソファーと、言えない理由
夜十一時半。
子供たちも、仕事で疲れた和也も、それぞれの部屋で眠りについた。
リビングの照明を落とし、小さな間接照明だけを点ける。
私は冷えた麦茶のグラスを両手で包み込みながら、ソファーに一人で腰掛けた。
静まり返った部屋の中に、壁掛け時計の針が刻む音だけが規則正しく響いている。
(ねえ、和也さん。私のこと、まだ女性として愛してる?)
心の中で、何度目になるか分からない問いかけを呟いてみる。
自分から訊けばいいのだ。
「最近、愛してるって言ってくれないね」「私のこと、どう思ってる?」と、甘えるように、あるいは冗談めかして言えばいい。
なのに、どうしてもその言葉が喉まで上がってきては、乾いた音を立てて引っ込んでしまう。
理由は分かっている。
怖ろしいのだ。
もしも尋ねてしまって、和也が困ったような苦笑いを浮かべたら?
「今更そんなこと聞くなよ」と呆れられたら?
あるいは一番恐ろしい――「家族としては愛してるけど、女性としてはもう見られないかな」という無慈悲な事実を突きつけられたら?
言葉にしてしまえば、今のこの平和で穏やかな「凪」が、一瞬で崩れ去ってしまうかもしれない。
だから私は、訊きたい気持ちを必死に抑え込み、「気づかないフリ」という安全な鎧を着込んで自分を守っているのだ。
「私だって、十分ズルいよね……」
暗がりの中でぽつりと漏らした声は、誰にも届かずに消えていった。

