プロ根性(#せりふ三題噺)
「もうすぐ本番だよ!」
「気合い入れてこ!」
現場はやる気に満ち溢れていた。
「チーフ、ちょっとお耳に入れたいことが」
部下が眉を下げながらやって来る。
「ご依頼人の中田様がですね、お相手にゼラニウムの花を贈りたいと仰って、持って来られているのですが」
お相手様のお好きな花だそうで、と言う言葉に、私の眉は思わず上がる。
「なんで今? そういう希望は前もって言ってほしいと伝えてあったでしょうに」
物の配置から本番の段取りまで、全て計算し尽くしたものになっているのだ。そういうサプライズは準備段階で言ってほしいものである。
私は「仕方がないわね」とため息をついた。
「依頼人に全力で寄り添うのが私たちの仕事だもの。その花、持ってきてちょうだい」
部下は「わかりました!」と元気よく返事すると、花を取りに依頼人のもとへ向かう。
「チーフ! 頼んでおいた団子に問題が発生しました!」
「今度はなに!?」
こういう問題は、なぜか本番直前に発覚しがちである。
「三色団子を頼んだはずが、焼き餅になっています」
「お二人が出会ったお花見の場面を再現するのに、焼き餅はまずいわね⋯⋯」
腕組みをして対策を考えているところに、「ゼラニウム、持ってきました!」と先ほどの部下がやって来た。しかしその花の色に、私は目を剥く。
「白⋯⋯白ぉ!?」
あの方、お相手様と仲直りする気はあるのかしら、と私は天を仰いだ。
「白はまずいんですか?」
おろおろとする部下に、私は額に手を当てて答える。
「白いゼラニウムの花言葉は『偽り』とか、『あなたの愛を信じない』なのよ。お相手様はゼラニウムが好きだと公言されているわけだから、そのこともご存知である可能性が高いわ」
「それは⋯⋯まずいですね」
しばらく思考を巡らせた私は、部下にあるものを用意するよう耳打ちした。
「ご依頼人とお相手様が到着されました!」
「さあ、いよいよ本番よ! 準備はいい?」
気合い入れていくわよ、と私達は円陣を組んだ。
「ご依頼人の、記念日に仲直り大作戦、頑張るぞー!」
「おー!!」
鬨の声を上げ、私達は位置についた。
「君と初めて会った、あの花見会場を再現したんだ」
依頼人とその相手が会場に入ってくる。私は物陰に隠れながらごくりと唾を飲み込んだ。
(どうか、成功しますように⋯⋯!)
「ゼラニウム」
花に気づいた相手が、嬉しそうに微笑む。
「赤いゼラニウムの花言葉は、『君ありて幸福』」
二人は見つめ合い、甘い雰囲気になった。
(よかったー! 本当は白色なのバレてない!)
私は赤い光をゼラニウムに当てながら、こっそり安堵のため息をついた。
(ライトとカラーセロハン、用意できてよかったわ)
しかし、油断するのはまだ早い。ここからが本当の勝負である。
「あのときの三色団子も⋯⋯団子、すごく大きいけど」
団子というより餅かな、という言葉に、冷や汗がにじむ。
(やっぱり、これで誤魔化すのは厳しいか)
カラーセロハンを巧みに操り、ライトで三色団子の色を演出したつもりだったのだが⋯⋯。
「どうだい、気に入ってくれたかな。僕と仲直りしてくれる?」
そう尋ねた依頼人に向かって、相手はにっこりと微笑んだ。そして唐突に、ゼラニウムを持ち上げる。
「あ!」
私は思わず小さく叫んだ。ライトの照射が外れ、ゼラニウムの魔法が解けてしまったのだ。
「これが相応しいのは、そっちだよね」
そう言ってお相手は依頼人に白いゼラニウムを見せつけたかと思うと、今度は大股に私の方へと歩いてくる。
(どうしよう、責められる!)
ここは潔く、罵詈雑言でも何でも受け入れよう。実際、こんなお粗末な結果になってしまったのだし。
私が腹を括っていると、お相手は私の手からそっとカラーセロハンを取り上げ、ライトでゼラニウムを照らし出した。
「あなたのプロ根性に、感動しました。あなたには、ぜひこれを」
差し出されたゼラニウムは、黄色く染まっていた。
黄色いゼラニウムの花言葉は、「予期せぬ出会い」。
それにしても、さすがにライトの光で誤魔化すのは、ちょっと無理がありましたねー。
こちらのお題で書かせていただきました。
画像は、みんなのフォトギャラリーよりお借りしました。
