シーグラス(#せりふ三題噺)
ざん、と波が押し寄せる。美夏は砂を蹴り上げながら口をとがらせた。
「海、入りたかったな」
今日は天気もいい。碧く光る海が、キラキラと陽の光を反射させながら、こっちへおいでと手招きしているように見えた。
「せっかくの修学旅行なのに」
泳ぎが得意な美夏は、マリンスポーツの希望に関する事前アンケートでシュノーケル体験を選んだ。しかし、応募人数が多かったため抽選となり、結果落選となってしまったのだ。
「なによシーグラスって。よく分かんないし」
抽選に外れた美夏は、シーグラス工作を体験する班に入ることになった。浜辺に落ちているキラキラしたガラスを拾って、アクセサリーなどを作る体験だ。
しかし不貞腐れている美夏は、真剣にシーグラスを拾うことはせず、浜辺を一人でぶらついていた。
「これ、キレイじゃない?」
背後から突然声をかけられた美夏は、驚いて振り向く。そこには、同じクラスの朔也が立っていた。
差し出された手の平の上には、きれいなガラスが一つ。ターコイズブルーのような色で、少し歪だが角が丸く、平べったい形の大きなものだ。
「本当だね、きれい」
美夏は鼓動が波打つのを感じながら、それを隠して笑ってみせる。すると朔也は、ポケットから合皮でできた茶色い紐を取り出し、シーグラスに器用に巻きつけた。
「ほら。こうすれば、ペンダントになるだろ」
紐の間からのぞくシーグラスが淡くきらめく。あげるよ、と言われた美夏は「ありがとう」と微笑んでそれを受け取った。
「結局、シーグラスって何なんだっけ?」
想像よりもはるかにきれいな見た目だったことに驚いた美夏は、スマホを取り出す。
「調べないほうがいいよ」
そんなにキレイなんだから、それでいいじゃん、と朔也は言った。
「それもそうだね。シーグラス、よく見たらいっぱいあるね」
「うん。探すぞって意識しながら下を見てると、けっこういいのが見つかる」
シーグラスって、一つとして同じ形のものはないんだって、と言う朔也に、美夏は「へえー」と目を瞬いた。
「じゃあ⋯⋯」
目を凝らして下を見つめた美夏は、しばらくして笑みを浮かべ、乳白色のシーグラスを一つ拾う。
「これ、あげる。この形、世界に一つしかないんでしょ」
いい形だね、と笑う美夏。朔也もふわりと微笑んでシーグラスを受け取った。
「たしかに。将棋の駒みたいだ」
将棋部主将の彼は、シーグラスを大切そうにハンカチに包み、そっとポケットに入れた。
こちらのお題で書かせていただきました。
画像は、みんなのフォトギャラリーよりお借りしました。
