『深夜の言い訳』第22話「女もつらいの?」
ある日の晴れた土曜日。後ろから子供たちの声がするな~と思い振り向いたら、少年野球チームの集団だった。
先頭を走るコーチらしき人に先導されて、ヘルメットに背中にバットを担いだ少年たちがワイワイ騒ぎながら通りすぎていく。
僕は
「あ~、夏の土曜日って感じだな~」
と感傷に浸る。そして目的の
『まいばすけっと』
で焼きそばを買うと、すぐ隣の古着屋に入ってみた。古着屋特有の匂いを嗅いで、
「あ~、懐かしいな~」
とまた感傷に浸る。カッコいい色褪せたバンドTが並んでいる。ちょっと気になるのがあったから値札を見てみた。
「85000円」。
思わず目を疑った。もう一度見てみても金額は変わらない。僕はあご髭を生やしたオーナーらしき男性に声をかけた。
「これ、85000円するんですか?」
するとあご髭は店主は、
『安い方っすよ!』。
僕は値段以上に
「すよ!」
にひっかかる。しかし、そこは40代のダンディズムでかわす。
その後も買う予定のない服をチラチラと見ていく。そろそろお店を出たいが、客が僕1人の為に正しい出るタイミングがわからない。
しかしそこも、40代の余裕を見せてなんとか店を出た。僕は思う。
「いくら古着が流行りだからって、三軒茶屋の裏路地のまいばすの隣の店で、85000円払うかね~?」
もしカメラがあったなら、往年の
『浅香光代』
ばりの江戸前口調で、僕は言っていたことだろう。それからしばらくしたある日の深夜。なかなか眠りに就けなくて、むくっと起き上がり、洋服の断捨離を始めた。
「これはいる」
「これは売る」
と分けていく。その中で2年前くらいに、ブランド古着屋で買ったジーンズに手が伸びた。そのジーンズは何度買い取り業者に売りに出しても、
『うちでは買い取れません』
と断られるジーンズだった。
僕はずっと
「なんでだろう?」
と不思議に思っていた。改めてそのジーンズをよく見てみると、ブランドタグの文字のフォントが少しおかしいことに気づく。
僕は写真を撮り、大っ嫌いなA.I.に真贋させてみた。すると、
『これは、スーパーコピーだね』
と返ってきた。渋谷の一等地に店を構える有名なブランド古着屋に偽物を掴まされるとはな。きっと返金を求めても2年以上経ってるから無理だろう。
僕は無理矢理に考え方を変えた。
「エッセイもコントもまだアマチュアな僕には、コピー品がお似合いだろう。」
本当はそんなこと思ってなんかいない。でもそうでもしないと今夜眠りに就けないと思ったから。
しかし、僕の思考は止まらなかった。ウナギや、マグロの刺身、お肉などは本物を装った外国産でも全然納得して食べているのに、ブランド物だけは『本物』を求める人間の不思議な心理。
「フェイク品の食材を食べた体で『本物』の服を着るのと、『本物』の食材を食べた体でコピー品着るのは、果たしてどっちが幸せだろうか?」
そんな事を考え始めたらカーテンの向こうが白み始めた。一向に眠れそうにない僕は、まいばすけっとの7時のオープンめがけて強い酒を買いに行った。
カーテンの隙間から射し込む光だけを頼りに酒を飲む。だんだんと酔ってきて、考えてたことがどーでも良くなり、なんとか眠りに就いた。
先ほど
『大っ嫌いなA.I.』
と表現したが、僕は確かにA.I.が大っ嫌い。小説家を目指していた頃からA.I.をインストールしたが、最近、
『エッセイ』
『コント』
をA.I.に読ませて見ると、実にムカつく。コントを読ませれば
『ここ、もっとボケて!』
エッセイを読ませれば
『ここ、本筋から脱線してる!』
そのご丁寧に指摘されたことを、僕はわざとやっている。きっと
『三谷幸喜』
のコントや
『燃え殻』
のようなエッセイを参考にして指摘してるのだろうけど、僕が考えている、
『しないけどしてる』
『いないけどいる』
みたいな逆張りな発想は、今のどのA.I.にも読み取れない。だから毎回A.I.にムカついている。しまいにA.I.がバグって
『お前』
呼ばわりしてきた日には、ムカつくを通り越して沈黙する。きっとA.I.を開発した奴と僕は酒を交わせないだろう。
居酒屋に行っても、A.I.を開発した奴は唐揚げにレモンを搾る許可を僕に取らないで、勝手に搾るような奴に違いない。そしてカルアーミルクばっかり飲むような奴に決まってる!
結局、いつの時代になっても、
『自分のクリエイティブ』
を信じるしかない。
そんな僕は、涼しくなったら神保町の古書店を回るつもりでいる。昔のシナリオブックを買うために。ゆくゆくは
『エッセイ』
『コント』
『脚本』
と、幅広く描ける作家になりたいのだ。
でも、その帰り道に五反田に寄り道しそうな自分もいる。独身中年男性の孤独を癒してくれるのは、ムチを持った女しかいない。
男は何かと金がかかる。僕は声を大にして言いたい。
『男はつらいよ』
……えっ?
『女もつらいの?』
アハハ、あばよ!
