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【短編】波の音を買う

『波の音、売って〼』
かき氷の小さな旗みたいに、そんな吊り下げ旗がひらひらしていた。場所は蝉の鳴き声が大波みたいな公園の片隅だ。
かき氷の屋台かと思って近寄った私はがっかりした。
とても喉が渇いていたのだ。
もう苺のかき氷に練乳をたっぷり掛けてもらう決心までしていた。
「いやあ、波の音でもまあまあ喉の渇きに効くから」
私のがっかりを察した店のおにいさんが言った。
「そうですかあ~?」
私は嫌味っぽい声を出し、上目遣いで彼を見た。
なかなかシュッとしてカッコいいおにいさんだ。
藍色の前掛けに頭は手ぬぐい。
どう見てもかき氷売ってそうなのに!

「まあまあ。怒らずに試しに聞いてみてくださいよ」
おにいさんは並べた小さな真四角の紙箱を手にとり、私の耳元に近づける。
それは小さな手回しオルガンだった。
おにいさんが小さなハンドルを指先でつまんで回す。
「・・・・・・」
波の音がした。
そして少し喉の渇きがおさまった。
「どこの波なの?」
私はまだ少し不服そうにたずねる。
「これは…」

彼の話は意外と長かったのでここには書ききれない。
短くいうと彼の故郷にある、秘密の入り江に打ち寄せる波の音、ということだった。
でも彼はまるで絵本の読み聞かせをする人みたいに、ページの先の絵が見えてくるようにその海の思い出を語った。
砂浜の踏み心地。落ちている貝殻。小さな蟹。打ち寄せられた海藻のぷくぷく。流されていく麦わら帽子。乗って漕ぎ出したいのを我慢した小舟。そして絶え間なく寄せては返す波の音…ザザン、ザザン。ああ、見えた。聞こえた。
あの麦わら帽子は私のじゃないかしら…赤いリボンがお気に入りだった…

私は静かに、名残惜しく目を開いた。

「はい、どうぞ」
彼は公園の蝉の洪水に戻ってきた私に、練乳の掛かった苺かき氷を差し出した。
「ありがとう」
私はその魔法のように現れたかき氷を当然のように受け取り、桜の下の日陰の木のベンチに座った。
彼も隣に座り、自分のメロンかき氷を食べ始めた。
「さっきの波の音、後で買いますね」
私は苺で冷えてしゃべりにくい口でそう言った。
「波の音には思い出も乗ってるのね。
無かった思い出が、まるで本当にあった思い出みたいに」
「いや、あったでしょ」
彼はメロンでへんな色になった舌で言った。
「あの入江で会ったことあると思うなああああ!」
そう言って笑った。
「これ、あそこの喫茶店で買ってきてくれたんでしょ?」
私は公園の横にあるレトロな喫茶店を指差した。
「お代を払うわ」
「いや、それより後で店じまいしたらあそこでコーヒーフロートおごってよ」
どうしようかなあ~と言いながら、私はかき氷の最後の溶けた苺ミルク味の冷たい水を飲みほした。

(了)

*小牧幸助さんの企画に参加します


公園では、いろんなものを売ってますね。
洗濯機とか(笑)
公園ってそういう不思議な場所だと思っています。
そしてレポートも試験も終わりました✨
夏休みです🍉🎐🌊(仕事あるけど💦)


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