短編エッセイ|男女の友情は、恋愛を始めない二人の共同作業だ
男女の友情は、
異性として見えないから続くわけじゃない。
顔は、わりと好みだったりする。
二人で飲めば、
気づけば終電がなくなっている。
肩が触れても嫌じゃない。
たぶん、
付き合おうと思えば付き合える。
それでも、
付き合わない。
その線を、
二人とも越えない。
片方に恋人がいたり。
仕事仲間だから、
壊したくなかったり。
好きだけど、
一緒に暮らすのは違うと思ったり。
今の関係を失うほど、
惚れてはいなかったり。
男女の間には、
好きか、嫌いか。
友達か、恋人か。
そんなふうには分けられない温度が、
たぶん、ある。
私はむしろ、
少しも惹かれない相手より、
少し惹かれている相手との方が、
男女の友情は成立する気がしている。
火がないから、
何も起きないんじゃない。
小さな火があることを、
二人とも知っている。
そのうえで、
触らない。
たぶん、
それが男女の友情なんだと思う。
でも、この関係は少し甘い。
恋人ほど、
責任を負わなくていい。
普通の友達より、
少しだけ特別でいられる。
選ばないまま、
選択肢には残れる。
恋人未満の、
特等席。
安くて、
甘い。
これが、
地味に気持ちいい。
恋愛相談をしながら、
相手の好みを探ったこともある。
新しい恋人ができたと聞いて、
ほんの少しだけ、
面白くなかったこともある。
それでも翌日には、
何もなかったように
友達に戻る。
一度だけ、
その線を踏み越えかけたことがある。
夜景の見えるところで、
帰り道。
「これって、
友達としてだよね」
そう言われた。
私だけが、
恋愛の入口に立っていた。
帰って、
しばらく、
何もしなかった。
私だけが、
まだ何かを
待っていた。
たぶん危うくなるのは、
その人を好きになったときではない。
選ばないくせに、
誰かに選ばれるのは嫌だと思ったときだ。
告白はしない。
付き合う気もない。
でも、
恋人ができたら寂しい。
自分の知らないところで、
幸せになってほしくない。
責任は負わず、
好意だけ受け取る。
美味しいとこ取り。
そこまでいくと、
友情という名前を借りて、
相手の隣の席を予約しているだけなのかもしれない。
男女の友情があるかどうかなんて、
たぶん、どうでもいい。
気になる異性の友達がいるなら、
一度だけ想像してみればいい。
その人に、
恋人ができた夜のことを。
「よかったね」
と笑えるだろうか。
それとも、
自分の席を
誰かに取られたような気がするだろうか。
笑えるなら、
きっと友達なんだと思う。
苦しいなら。
たぶんもう、
友情の中にはいない。

▶︎もう少し、名前のつかない関係を。
『関係になりたくないけど好き』
『純文学|帰るふり』
