小さな宿の一着に応えるために|在庫が道標になった話
京都を拠点にアパレルメーカ再掲営んでいる民布合同会社の代表 岩崎です。現在は、文化実践のための仕事着を製造販売する「SAGYO」と、ホテルの滞在着を提案する「Némaki」という2つのブランドを中心に、4つの事業を運営しています。
2025年末に会社の住所を岡山から京都へ移し、新たな可能性を探りながら、国内の機屋(はたや)や縫製工場と直接手を取り合ったものづくりを続けています。
ものづくりを続けていると、数字の波に飲み込まれそうになる瞬間があります。
皆さんご存じの通り、今どこのものづくり業界でも、材料費や工賃は見積もりを作るたびに変動しています。かつて当たり前だと思っていた固定の価格表を維持することすら今は現実的ではないと感じるほど、状況は刻一刻と動いています。
日々数字と向き合い頭を悩ませる状況のなか、Némakiをローンチして一番熱心に反応をくださったのは、実は意外な方々でした。
それは、数室もしくは一室だけの小さなお宿を営まれている皆様だったのです。
彼らには、自分たちが選んだ本当によいものをお客さまに届けたいという、純粋な願いがありました。
理想の仕組みより、目の前にある切実な声を
小さなお宿にとって、ステイウェアを用意すること自体簡単ではありません。 リネン業者による大量の洗濯と配送を効率よく回す仕組みの中では、どうしても極小規模のお宿はこぼれ落ちてしまうのです。
一方でNémakiのステイウェアは、ご自身で洗濯し、乾燥機までかけられる運用を前提につくっています。大きな業者に頼らなくても、自分たちの手で日々清潔に管理し続けることができます。
しかし、工場の負担やコストを考慮して設定したセミオーダーのミニマム30組という数字は、数室規模のお宿にとってはどうしても高く遠い壁になってしまいます。
かといって、この基準を安易に下げることは、ものづくりの現場に無理を強いることにもなりかねません。
本音を言えば、在庫を売るだけではお宿の細かな期待に応えきれないと考え、セミオーダーを主軸に据えたブランドを作ったつもりでした。けれど、実際に現場から求められたのは、何よりも「すぐに数着から手に入る在庫」だったのです。
このままでは、本当に期待してくださっている方々へ届かなくなってしまう…。
だからこそ、私たちはリスク覚悟で在庫を作ることにしました。
在庫を持つことで、ミニマムや納期の制約に縛られず、一軒一軒のお宿へ安定した形でお渡しできます。
この在庫販売こそが、リネン業者の仕組みからは漏れてしまう小さな宿と私たちを繋ぐ、今できる唯一の橋渡しになると思い至ったのです。
腹を括って、在庫を持つ
3月下旬、ホルムズ海峡の封鎖継続が無期限になるとのニュースを目にしました。
事態の長期化が決定的になり、ひとつの意思決定をしました。
当面は在庫販売をメインに据え、その奥行き(数)や生地のバリエーションを増やす方向に舵を切ったのです。
すでに反物や部材、工場の枠の手配は済ませました。
これまでの計画を書き直し、広め方やカタログなどの制作物の内容もまた構築し直すことになります。手間も時間もかかり(何回こんなことやっとんねん…)と自分に呆れますが不思議と迷いはありません。
小さなお宿の皆様が寄せてくれた期待があったからこそ、私たちは在庫を持つという選択に踏み切れました。少数からでも手渡せるようにと用意したこの在庫たちが、この活動を無理なく続けていくための土台になりつつあります。
本来の想定とは少し違いましたが、目の前のお宿の声に応えるため、在庫販売に軸足を置く。そう決めたことで、今やるべきことがようやくはっきりしてきた気がしています。

もちろん、これまでご案内してきたセミオーダーをやめるわけではありません。30組以上をまとめて用意されるのであれば、一着あたりのコストを抑えられるセミオーダーの方が、お宿にとってもメリットが大きくなります。
その窓口は、これまで通り開けておきます。
ただ、その「30組」という壁に阻まれて導入を諦めていたお宿の方々にも、まずは一着からでも手渡せるように。そのために、私たちは自ら在庫を持つという選択に踏み切れた次第です。
見通せない時代の満足を共につくる
今後が見通せない時代だからこそ、私たちは顧客満足度をどこまで高めていけるかという商売の原点に集中したいと考えています。
それは、お宿を営む方々にとっても同じではないでしょうか。
オーバーツーリズムの喧騒や不安定な時勢に振り回されず、長く愛される場所であり続けること。
そのためにもまずは宿泊客に手渡す一着から、宿のしつらえを整えていくお手伝いができればと思っています。
これまで、まとまった数が必要ないことでオリジナルのステイウェアを諦めていたお宿の方々とも、この在庫があるからこそ歩みを共にできるはずです。
お客さまが袖を通した時にその宿を選んだ喜びがふわりと増すような…そんなささやかで、けれど確かな満足を、一軒一軒のお宿と一緒に積み重ねていければ嬉しいです。
在庫販売は、変わらずクローズド(お問い合わせ形式)でおこないます。
導入を迷われている方もお気軽に hello@minfu.me までご連絡ください。

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