岩田さんのマネジメント(面談編)
岩田聡さんは、天才プログラマーでありながら、その後、HAL研究所と任天堂の社長を歴任します。
理系のプログラマーが経営者になるって、なかなか稀なことだと思います。
岩田さんは社長時代に社員に対してどんなマネジメントを行なっていたのか。本やインタビューでたくさん語られています。
その中から、今回は社長時代に行っていた「社員との面談」について書いていきます。
なぜ面談を?
ハル研究所の社長になった時に始めた社員との面談。岩田さん曰く「これはメリットしかない」と実感されていたとか。
ハル研究所で社長になった時期は、ハル研究所が経営難で倒産しかけていた時です。
なぜこんな大変な時に面談を?と感じてしまうのですが、和議申請を出した後、会社を再生する道を選んだ岩田さんは、「一度倒産してしまった後の方が、まとまった時間が取れるから全社員と面談ができた」と語っておられます。
面談で行われていたこと
『岩田さん』を読むと、面談で岩田さんが行なった事は大まかに以下です。
①とにかく相手の話を聞く
②会社の決断の背景を可能な範囲で伝える
③社員と共通の目標をもつ
①とにかく相手の話を聞く
面談は短い人で20分くらい、長い人だと3時間〜5時間にも及び、これを当時のハル研社員100人近い人たちに行った。
一対一で面談するとはじめて語ってくれることがある。変な言い方になりますが、「人は逆さにして振らないと、こんなにもものを言えないのか」とあらためて思いました。
(ほぼ日ブックス)
社長自ら、「あなたの話を聞かせてください」と言われたら、大抵の人は嬉しいと感じるはずです。社長への信頼も増すし、話した本人は心が軽くなります。
面談を終了するタイミングは「相手がスッキリするまで」。
わたしが面談でどのくらい時間をかけているかというのは、つまり「相手がすっきりしたらやめている」ということなんです。その意味では、「できるまでやる」。それも決めたんです。
(ほぼ日ブックス)
岩田さんは、相手の話をしっかり聞いた上でじゃないと、話す事をしなかったそうです。まずはすべて「受け止める」。
私心(自分の利益や感情)をなくして話を聞けるかどうか、それが大事だということです。
まず相手の話を受け入れないと、こちらのいう事も当然聞いてもらえない、ということも理解していた。
②社員と共通の目的をもつ
岩田さんは、面談を進めていく中で社員と共通の目的を持った方が良い、ということを感じます。それは大それた企業理念ではなく「ゲーム作りを通して、つくり手である我々と、遊び手であるお客さんを、ともにハッピーにするのがHAL研究所の目的だ」ということです。
なので面談の時に必ず訊いていたのは「あなたはハッピーですか?」ということ。お客さんを幸せにしながら「君も幸せにならないと意味ないよ」ということを岩田さんは言いたかったのだと思います。
売り上げを前年比何%アップしよう、でもなく、チームの生産性を上げてプロジェクトの進捗効率をあげよう、でもなく「お客さんと一緒にハッピーになろう」が共通目的だ。と社長に言われたら…きっと反応は様々なんだと思います。(え、社長何言ってんの…って思う人がいてもおかしくない笑)
でも前述のとおり、私心を持たずに自分の話をきいてくれる社長にだったら、少なくとも私だったら本音を話してしまうかもしれないなあと感じます。
ちなみにこの岩田さんの「ハッピーですか?」発言は、後にMOTHER2の「ハッピーハッピー教団」の元ネタになるんだそうです。
③会社の決断の背景を可能な範囲で伝える
会社が決めることの細かい事情や経緯は、社員には知らされるものではありません。しかし岩田さんは面談を通して、言える範囲でなら伝えてきたそうです。
自分の発言が曲解されたり、この決断の背景が伝わってないからここが不満に感じてるんだなということが分かると、そこをひとつずつほぐして潰していく。そうすることで価値観が共有されて齟齬が生まれにくくなる。
岩田さんはなぜ続けられた?
並大抵の決断では、こんなに密度のある面談を行うことは無理です。
では岩田さんがこれを年2回、6年も7年も続けられたのはなぜなのか。
それはおそらく、
「社員の話を聞けば聞くほど会社の問題点がデータとして手に入ったから」だと思います。
同じ悩みが複数人から出ていないか、この問題は構造の問題か個人の相性か、どこに手をいれると効率よく問題を解決できそうか。
こういう事を、面談を通してずっと考え続け、会社再生への判断や行動に落とし込んだ。
結果が出ると、社員も「岩田さんに話すと物事が動く」という体験になる。
だからまた岩田さんに話したくなり、情報が集まりやすくなる。
そういう意味では、岩田さんはとても冷静です。
社員に寄り添いすぎて感情を背負うこともしない、でも突き放すことも決してしない。「好き」とか「嫌い」ではなく「分析のためのデータ収集」であるということ。私心を取り除けたから続けることができた。
にしても、おそらく辛辣だったり深刻な悩みを聞いたりもしたでしょう。
「自分も相手も傷つかない」距離感を作るのに、思考錯誤したんじゃないかなあ。傷つくだけの時間になっていたら絶対に続かなかったはず。
糸井重里さんが後にインタビューにて、「岩田さんの真似をして自分の会社で全社員と面談をしたが、泣きたいほどつらくて落ち込んだ」と語っておられました。岩田さんも「糸井さんのやり方では辛いでしょうね」と仰ったとか。
会社が極限状態だったからこそ岩田さんは冷静にやれるべき事をやれた。
元プログラマーとしての解決能力を遺憾無く発揮できた。
自分だったらなんて言うかな
私が岩田さんの元で働いていて、もし岩田さんと面談することができたらなんていうかなあと考えました。
間違いなく「岩田さんはハッピーですか?」って聞きます。
「社長のことも絶対ハッピーにしたい」
岩田さんは社員からもそう思われる社長だったと深く感じています。
岩田さんのことを色々と調べると、なかなかの奉仕型リーダーだったようなので、もしご自分のハッピーを後回しにしていたんだとしたら、「おいおい岩田さん、そりゃないぜ」って面談で言ってやりたいですね。
「あなたはハッピーですか?」
岩田さんが社員に問い続けたこの言葉は、
日常で人から聞かれることはほぼないし、なかなか刺さる言葉です。
岩田さんは面談というものを、技術でも経営でもなく、
ただの「人間」の話にしている。
目の前の人が幸せかどうかを気にかけられる人は強い。
結局マネジメントって目の前の相手と向き合う行為の連続です。
それがすなわち「誠実」ということなんだと思います。
