【第43話 フェア振り返り】サファイアを追いかけろ~とある会社の採用ストーリー~
転職フェアから数日後。僕たちは会議室に集まっていた。
テーブルを囲んでいるのは、僕と白石さん、矢野くん、それから人材会社の水野さん、そして今回の転職フェアを担当した佐伯さん。当日の慌ただしさとは打って変わって、部屋の空気は落ち着いていた。今日は感触ではなく、数字と事実で振り返る場だ。
僕は手元の資料に目を落としながら口を開いた。
「まず、当日の実績を共有します。着座は全部で五十七名でした。関心職種として多かったのは営業、企画、マーケティングの順でした」
白石さんが横で資料をめくりながら続ける。
「その後、応募につながったのが十八名です。今の時点で選考に進んでいるのが十一名。営業が中心ですが、企画やマーケティングに関心を持っていた方も一定数残っています」
矢野くんが小さく息を吐いた。
「こうして数字で見ると、かなり入っていましたね」
「うん」
僕も資料から顔を上げる。
「当日の体感でも忙しかったけど、改めて見ると想像以上だった。特に営業の反応は強かったし、企画やマーケティングも、今すぐ大量採用する職種ではなくても、会っておきたいと思える人はいた」
「かなりいい数字だと思います」
そう言ったのは水野さんだった。
「外から見ていても、御社のブースはずっと人が動いていました。着座数もそうですけど、何より話している時間が短すぎなかったのがよかったです。ちゃんと会話になっていたので」
佐伯さんも、すぐにうなずく。
「そうですね。会場全体で見ても、御社のブースは足を止める方が多かったです。特に、会社もそうですし、商品を知っている方がそのまま入ってくる流れがつくれていました」
白石さんが少しほっとしたように笑った。
「それを聞くと安心します。当日は、ちゃんとできているのか正直よく分からないまま走っていたので」
「でも、よかったですよ」
佐伯さんが言う。
「一方的に会社説明をするのではなくて、求職者の方に質問してから返していましたよね。あれで会話の深さがかなり変わっていたと思います」
僕はその言葉を聞きながら、当日の様子を思い出していた。
矢野くんが足を止める。
白石さんが相手の緊張をほどく。
僕が相手の転職理由や次に求めることを聞いて、会社の話を返す。
意識していたことではあったが、外から見ても違いとして見えていたなら意味がある。
「営業が強かったのは、やっぱり仕事内容の解像度ですかね」
僕がそう言うと、水野さんがすぐに反応した。
「そこは大きいです。売って終わりじゃないとか、顧客と長く関われるとか、営業の話が具体的でした。だから営業経験者が、自分ごととして聞きやすかったんだと思います」
「企画やマーケティングは、少し反応の種類が違いましたよね」
矢野くんが言う。
「仕事内容というより、商品とかブランドへの興味から入ってくる方が多かった印象です」
「その通りです」
佐伯さんがうなずく。
「企画やマーケティングに関心を持つ方は、まず会社そのものに惹かれていました。なので次回は、その方たちに対して、この会社でどこまで商品やブランドに関われるのかをもう少し見せられると、さらに強くなると思います」
僕はうなずいた。たしかに営業は仕事内容で引き込みやすいが、企画やマーケティングは仕事の輪郭が見えないと、興味で止まってしまう。
「一方で、改善点もありますよね」
僕がそう切り出すと、水野さんが笑った。
「あります。いちばん大きいのは、足を止めてくれた人をどう着座までつなぐかですね。御社、止まる人は多かったんです。でも、その先でもう一歩いける場面はありました」
矢野くんが少し苦笑する。
「やっぱりそこか……。最初の声かけが、少し同じ型に寄りすぎていた感じはあります」
「でも、それは悪いことじゃないです」
佐伯さんが補う。
「軸があるから、次は入口を増やせます。営業を見ている人には仕事内容から入る。企画やマーケティングなら、商品やブランドの話から入る。U・Iターンなら、福岡で働くイメージから入る。そこを分けるだけでも、着座率はもっと上がると思います」
なるほど、と僕は思った。
面接でも同じだ。型があるから、相手に合わせて入口を変えられる。
白石さんが資料を見ながら、ぽつりと言った。
「こうして振り返ると、面接でやっていることと本当に似ていますね。相手が何を求めているかを聞いて、それに対して会社のことを返すというか」
「うん。たぶん同じなんだと思う」
僕が答えると、水野さんが笑う。
「結局、採用ってそこなんですよね。こっちが話したいことを話すんじゃなくて、相手が知りたいことに返す。御社はそこが前より、かなりできるようになってきています。僕が担当になった当初と比べてですが」
前より。その言葉が、静かに胸に残った。
ビッグブリッジとの死闘から始まった変化は、面接だけでは終わっていなかった。フェアの短い会話にも、部門との連携にも、少しずつ広がっている。今日のこの振り返りで、それがはっきり見えた気がした。
「今日はありがとうございました」
僕は改めて二人に頭を下げた。
「数字の確認だけじゃなくて、外からどう見えていたかまで聞けたのは大きかったです。次につなげやすい振り返りになりました」
「ぜひ次回もご一緒させてください」
佐伯さんが言い、水野さんもいつもの調子で笑う。
「次は、もっと取れますよ」
その言葉に、矢野くんが吹き出した。
「またそれ言うんですね」
「言いますよ。まだ伸ばせるんで」
部屋の空気が少しやわらぐ。僕も笑いながら、でも心の中では少しだけ本気でうなずいていた。
次は、もっと狙って再現できる。そう思えたこと自体が、今回いちばん大きな収穫だったのかもしれない。
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