【絵本】よるの すきまの おとしもの

まちが ねしずまる ころ、
よるの すきまに ひっそりと ひらく おみせがあります。
そこは、「おとしものやさん」。
でも、ここに はこばれてくるのは、
かさや おもちゃでは ありません。

ここに とどくのは、人の 心から こぼれおちた
目に見えない 大切な 気持ち。
「いうのをやめた『ありがとう』」
「すなおに なれなくて かくした『ごめんなさい』」
「だれかを おもう 小さな やさしさ」
てんしゅの フクロウは、
それらを きれいな ガラスびんに 入れて、大切に あずかっているのです。

ある夜、コトンと 小さな 音がして
ひとつの かけらが はこばれてきました。
「きょうは お母さんに やさしく できなかったな」
ひるま、小さな 女の子の 心から ぽろりと こぼれた
こうかいの かけらでした。

「ほんとうは、大好きなのにね」
フクロウは しずかに つぶやきました。
すなおに なれなかった トゲトゲの うしろには、
いつだって あたたかい おもいが かくれています。

フクロウは そのびんを むねに かかえると、
バサリと 羽を 広げました。
しずかな しずかな 夜の 空へ。
女の子が ねむる 家の まどべへと むかいます。

トントン。
だれも きづかない 小さな ノック。
フクロウは しずかに まどをあけ、
ベッドで ねむる 女の子の そばへ よりそいました。

フクロウが びんの フタを はずすと、
あおむらさき色の かけらは 夜のかぜにのって キラキラと ほどけていきます。
ふんわりと 広がり、
ねむる 女の子の むねの中へ やさしく とけていきました。

いえなかった 「ごめんなさい」も、
モヤモヤした こうかいも、
かぜに とけて、やわらかな いとおしさに かわっていきます。
女の子の ねがおが、すこしだけ ほころびました。

やがて 朝が やってきました。目をさました 女の子は、むねの つかえが すっかり とれていることに きづきます。「あ、お母さんに 『おはよう』って いわなくちゃ」

パタパタと ろうかを はしって、 キッチンへ。
「お母さん、きょうも おはよう!」
背中に そっと だきつくと、
お母さんは びっくりしたあと、とても うれしそうに ほほえみました。

そのころ、おとしものやさんの たなでは、
ひとつの ガラスびんが 空っぽになっていました。
でも、さびしくはありません。
大切な 気持ちが ちゃんと あるべき場所に かえったのですから。

おとしものやさんの びんが ひとつ 空になると、
きょうも まちに、やさしい 光が ともりはじめます。
あなたの 心から こぼれた おもいも、
今夜、フクロウが そっと あたため直して くれるかもしれません。
ー あとがき ー
「あのとき、あんなふうに言わなければよかったな」と胸がチクリと痛むことはありませんか。
大人になっても、子どもでも、誰かを大切に想う気持ちが強すぎるあまり、素直になれず飲み込んでしまう言葉や、不器用に出てしまった態度があります。この絵本に登場する「落とし物屋さん」のガラス瓶は、そんな私たちが日々の中でこぼしてしまった、行き場のない小さな後悔や優しさをそっと預かってくれる場所です。
トゲトゲした気持ちの裏側には、いつだって「本当は大切にしたい」という温かい本当の心が隠れています。
夜の空から窓辺をそっと見守るフクロウのように、この絵本を読んだあなたの心にも、温かい優しい光がふんわりと届きますように。そして、明日を迎えるあなたの背中が、少しだけ軽くなっていますように。
未来☆遊覧船
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