ショートショート|信号機ぶどう味
「んん……」
「おはよ」
早朝四時。
眠れた?、とは訊かなかった。
私といると深く眠れないのだと、あなたに思ってほしくないから。
きっとあなたは否定したうえで、私にそんなふうに思わせた自分自身を責めるだろうから。
秘め事まで捲れてしまいそうなセミダブルのベッドが、小さな部屋のほとんどを占めている。
その脇では、脱ぎっぱなしの服が、どちらのものともつかない形で重なっている。
これほど近くにいるのに、あなたのことをしっかり見られない。
レースのカーテンの向こうで、街の光が雨に滲んでいる。
雨粒が窓を叩くたび、沈黙が深くなる。
目に張りついたコンタクトが、瞬きのたびに記憶の輪郭を濃くしていく。
私の気持ちに警告するように、窓の向こうで黄色い光が滲んだ。
眠りなおそうとするあなたを邪魔しないように、静かに隣を抜け出す。
紙コップに残ったワインを飲み干した。
苦味が舌に残り、コップの底からは、ブドウの匂いが漂う。
窓の下では、車も見えない交差点の信号が赤になっていた。
傘をさした一人の男が、律儀に待っている。
私は濡れた唇を閉じ、青に変わるまで、じっとそれを見ていた。
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