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減税されたのに、安くなっていない――サウジのパイプラインが切られた日と、私の家の光熱費

2026年9月10日、サウジアラビアの東西パイプラインが、ドローン攻撃を受けた。

場所はメディナ南東のアル・メサバア地域にあるポンプステーション。攻撃はイラクから飛んできたとされる。ロイターは、世界の原油供給の最大4%が失われるおそれがあると報じた。AP通信は、復旧に3週間から5週間かかる見込みだと伝えた。6週間という見方もある。

このニュースを読んだとき、私は正直、遠い話だと思った。

サウジのパイプライン。メディナ。世界の4%。どれも私の生活から遠い。

それでも書こうと思ったのは、その週の終わりに給油したら、表示が170円だったからだ。

170.0円。資源エネルギー庁が公表している9月7日時点の全国平均と、ぴったり同じ数字だった。

そこで、ようやく引っかかった。

ガソリンの暫定税率は2025年12月31日に廃止されている。1リットルあたり25.1円、安くなるはずだった。あのとき私は、これで少し楽になると思って、家計簿の燃料費の欄に小さく印をつけた記憶がある。

なのに、170円のままだ。

安くなっていない。




先に結論

一、ホルムズ海峡が閉じている間の迂回路が、今度は途中で切られた。 東西パイプラインは、ホルムズを通らずに紅海側のヤンブーへ原油を運ぶルートだ。海峡が止まっているあいだ、世界はこの一本に頼っていた。その頼り先が、9月10日に止まった。

二、170円は、減税と補助の上に立っている数字だ。 2025年12月31日に暫定税率25.1円が廃止され、そのうえで1リットルあたり26.2円の補助が乗っている。補助がなければ、9月7日時点で196.2円だった。

三、その補助に、すでに約1兆円が入っている。 制度開始からの累計投入額は約1兆円。2026年9月1日には、予備費から6,160億円の支出が閣議決定された。基金の残高は8月末で約1,300億円まで減っていた。

四、ガソリンは数週間で届くが、電気代は3か月から5か月遅れて届く。 つまり9月10日の攻撃が私の家の電気代に出てくるのは、冬だ。

五、そして、その冬の入口で、電気・ガスの補助が終わる。 2026年9月使用分(10月検針分)が最後になる。

2025年12月31日  ガソリン暫定税率 廃止(−25.1円/L)

2026年 2月28日  ホルムズ海峡の通航が実質停止

2026年 3月19日  燃料油の緊急的激変緩和措置 開始

2026年 9月 7日  レギュラー全国平均 170.0円(補助なしなら196.2円)

2026年 9月10日  サウジ東西パイプライン 攻撃で停止

減税されたのに、安くなっていない。その理由が、この5行に全部入っている。




事実の確認

日付順に並べる。ここは自分の感想を混ぜないで書く。

2025年12月31日、ガソリンの暫定税率(当分の間税率)が廃止された。揮発油税は本則税率28.7円と地方揮発油税5.2円の体系に変わり、値下げ効果は1リットルあたり約25.1円とされた。軽油の暫定税率は2026年4月1日に廃止された。

2026年2月28日、中東で武力衝突が始まり、ホルムズ海峡の通航が実質的に止まった。ホルムズは世界の石油消費のおよそ2割、日量約2,000万バレルを担う海峡だ。

2026年3月上旬、WTI原油が一時1バレル120ドル近くまで上がった。

2026年3月11日、政府が燃料油の緊急的激変緩和措置を決定した。対象はガソリン、軽油、重油、灯油、航空機燃料。

2026年3月16日、レギュラーガソリンの全国平均が1リットル190.8円になった。同じ日、日本はIEAの決定を待たずに単独で石油備蓄の放出に踏み切る方針を固めた。IEAの32加盟国も協調放出で合意している。総量は4億バレル、世界の石油需要のおよそ4日分にあたる。

2026年3月19日、燃料油への支援が始まった。

2026年5月、日本の原油輸入の中東依存度が73.9%まで下がった。2月は94.2%だった。同じ月、UAEがサウジアラビアを抜いて日本の最大の調達先になった。

2026年6月1日を含む週、ガソリン・軽油・重油・灯油の補助は1リットルあたり37.2円だった。全国平均は169.5円で、当初の目標である「170円程度」に収まっていた。

2026年6月17日、米国とイランのあいだで覚書が交わされた。その1か月あまり後の7月25日、迂回路の起点であるヤンブーと、ジザンの製油所が攻撃を受けた。

2026年8月10日、ホルムズ海峡の通航船舶は6隻だった。衝突前は130隻から140隻が通っていた海峡だ。95%以上減っている。

2026年9月1日、政府が予備費6,160億円の支出を閣議決定した。うち6,136億円がガソリン補助金の基金への積み増しだった。

2026年9月7日、レギュラーの全国平均は170.0円。補助がない場合の想定価格は196.2円。値下げ効果は26.2円だった。

2026年9月10日、東西パイプラインのポンプステーションがドローン攻撃を受け、パイプラインが停止した。

2026年9月14日、ブレント原油が4.5%以上上昇して1バレル109.30ドルをつけた。WTIも4.4%上がって104.45ドルになった。

ここまでが、確認できた事実だ。




迂回路が、途中で切られた


ホルムズが閉じているあいだ、世界はこの一本に頼っていた

東西パイプラインという名前を、私はこのニュースで初めて知った。サウジアラビアの東側、ペルシャ湾岸の油田から、西側の紅海に面したヤンブーまで約1,200キロを横断する。輸送能力は日量400万バレル、資料によっては最大700万バレルとされる。

このパイプラインが何のためにあるかというと、ホルムズ海峡を通らずに原油を出すためだ。

ペルシャ湾から船で出そうとすると、必ずホルムズ海峡を通る。その海峡が2026年2月末から止まっている。だから世界は、このパイプラインでヤンブーまで運び、紅海から出す方法に切り替えていた。米国エネルギー情報局の推計では、2026年4〜6月期のホルムズ経由の輸送は日量490万バレル。衝突前の2,160万バレルから77%減っている。

サウジは東西パイプラインでヤンブーへ日量500万から700万バレル規模を迂回させていたと推定されている。ヤンブーから台湾までは、従来19日だった航海が48日になった。2.5倍だ。

遠回りでも、届いてはいた。その遠回りの起点が、9月10日に止まった。

ヤンブーの貯蔵は5日から7日分しかないと報じられている。復旧には3週間から6週間。引き算をすると、必ず穴が開く

日経は「迫る第2のホルムズ海峡危機」という見出しをつけた。私はこれを少し大げさだと思って読み始めて、読み終わるころには思わなくなっていた。

一本目が閉じているときに、二本目が切られた。それだけの話だ。




170円の中身を、分解してみた


170円の内側で起きていること

ここからは、私が自分のために計算した部分になる。

9月7日時点の全国平均は170.0円。補助がなければ196.2円。差は26.2円。

そして、2025年12月31日に廃止された暫定税率は25.1円だった。

つまり、こういうことになる。

もし減税も補助もなかったら   196.2円 + 25.1円 = 221.3円

減税だけがあったら           196.2円

減税と補助の両方があって     170.0円  ← いま

減税と補助を足すと51.3円。これだけ下げて、やっと170円だ。

私はここで手が止まった。

2025年の年末に暫定税率が廃止されたとき、私はそれを「これから少し楽になる」というニュースとして受け取っていた。25.1円安くなるなら、40リットル入れて1,004円だ。月に2回入れる家なら、年間で2万4,000円くらい浮く。子どもの上履きが何足買えるか、みたいな計算を、あのときの私はしていた。

その2か月後にホルムズが閉じた。

税金を下げた分は、原油の値上がりで消えた。政府はそのうえに補助を乗せた。私の財布から見れば「安くなっていない」で終わる話だけれど、実際には、下がるはずだった25.1円と、上から乗せた26.2円が、原油高の穴に落ち続けている

そして、その26.2円の原資は税金だ。

制度開始からの累計投入額は約1兆円。2026年9月1日には、さらに6,160億円の予備費支出が決まった。基金の残高は8月末で約1,300億円まで減っていたという。1兆円を全国の世帯数でざっくり割ると、1世帯あたり2万円弱になる。

これは請求書として届くお金ではない。それでも、私が170円で給油できているのは、誰かがその分を負担しているからだ。当たり前のことを、私はこの数字を並べるまで意識していなかった。

安くなっていないのではなくて、下げ続けるために払っている。順番が逆だった。




私の家の数字に置き換える


我が家の1か月に、いくら乗るのか

統計の数字を、自分の家計簿の単位に翻訳してみる。

総務省の家計調査によると、2025年の二人以上の世帯の1か月平均消費支出は314,001円。そのうち光熱・水道が24,547円で、電気代13,219円、ガス代4,882円。自動車等関係費は28,355円だった。

ここに、補助が切れたときの数字を乗せる。

電気の補助は9月使用分で3.5円/kWh。月260kWhを使う家庭なら約910円。都市ガス30立方メートルなら14.0円/立方メートルで420円。合わせて月1,330円。3か月合計では、標準的な世帯で約5,000円の負担軽減を受けていたことになる。

その補助が、2026年9月使用分(10月検針分)で最後になる。10月使用分以降をどうするかは、9月上旬の時点で決まっていなかった。

そして大手電力10社は、8月28日に発表した9月使用分の料金で、10社すべてが前月から252円〜510円の値上がりになる見通しを示した。

灯油は、2026年8月31日時点の全国平均が18リットルで2,716.0円。1リットルあたり150.9円になる。いちばん安い徳島県といちばん高い沖縄県では431円の差がある。

私の家は灯油を使わない。でも、使う地域の家では冬に18リットルを何本も買う。10本買えば2万7,160円だ。

ガソリンは170円で止まっている。電気代は上がりはじめている。灯油はまだ大きく動いていない。

同じ原油の値段なのに、届く速さが全部違う。




届くまでの時差が、いちばんやっかいだった


ここが、この記事を書いていていちばん驚いた部分だ。

燃料の価格の変動が電気代に反映されるまでには、3か月から5か月かかる。燃料費調整という仕組みが、過去の一定期間の燃料価格の平均で計算されるからだ。だから2026年2月末の中東情勢で上がった原油とLNGの価格は、夏の電気料金からようやく本格的に反映されはじめた。

同じ理屈でいくと、2026年9月10日のパイプライン攻撃が電気代に出てくるのは、2026年12月から2027年2月ごろになる。

暖房を使う季節だ。

そのうえ、電気・ガスの補助は9月使用分で区切られる。ガソリンの補助は続く見通しだけれど、首相は「支援単価や措置の出口を含めて柔軟に検討していく」と述べていて、いつまでという期限は示されていない。

整理すると、こうなる。

ガソリン   数週間で店頭に届く   補助は当面継続(出口は未定)

電気代     3〜5か月遅れて届く   補助は9月使用分で区切り

都市ガス   3〜5か月遅れて届く   補助は9月使用分で区切り

灯油       冬に消費が集中する   補助は燃料油の措置に含まれる

私はこれまで、原油が上がったというニュースを見ると、ガソリンスタンドの表示だけを気にしていた。表示が変わらないと「まだ大丈夫だな」と思っていた。その読み方は、間違っていた。

ガソリンの表示は、いちばん早く動くけれど、いちばん厚く守られている場所でもある。守られていない場所は、もっとあとから、静かに来る。




都合の悪い数字を、先に出す

自分の主張に都合が悪い数字も、先に出しておく。

一つ目。原油価格は、2026年3月のピークからは下がっている。

3月上旬のWTIは一時120ドル近くまで行った。9月14日のブレントは109.30ドル、WTIは104.45ドル。パイプライン攻撃で急伸した後の水準でも、春のピークよりは低い。米国エネルギー情報局は、ブレントが2026年7〜9月期に85ドル、2027年には69ドルまで下がると見込んでいる。「これから際限なく上がる」という話ではない。

二つ目。日本の備蓄は、まだ厚い。

2026年1月時点で、日本の石油備蓄は248日分あった。国家備蓄146日、民間備蓄96日、産油国共同備蓄6日。野村総合研究所の試算では、枯渇は標準シナリオで2027年10月、悲観シナリオでも2027年3月とされている。明日なくなる、という話ではない。

三つ目。日本の調達先は、実際に組み替わっている。

中東依存度は2026年2月の94.2%から5月の73.9%まで落ちた。1980年代後半以来の低さだという。これは計画された多角化ではなく緊急の対応だという指摘もあるけれど、少なくとも「一本足のまま何もしていない」わけではない。

四つ目。今回の攻撃について、犯行を認めた組織はない。

イラクを拠点とするイラン系の武装勢力による可能性が指摘されているが、私は誰がやったかを断定できる材料を持っていない。この記事では「イラクから飛来したドローンによる攻撃と報じられている」までにとどめる。

五つ目。ガソリンの170円は、国際的に見れば安い。

2026年5月25日時点で、日本の169.5円に対して、ドイツは380.0円、英国は346.2円だった。「日本だけが苦しい」という書き方は、正確ではない。

そのうえで、私が引っかかっているのは値段の高さそのものではない。その低さが、何によって支えられているかのほうだ。




無料部分のまとめ

ホルムズ海峡が2026年2月末から実質的に止まり、世界はサウジの東西パイプラインという迂回路に頼ってきた。その迂回路が9月10日に攻撃され、世界の原油供給の最大4%が止まるおそれが出ている。復旧には3週間から6週間、ヤンブーの在庫は5日から7日。

日本のガソリンは170.0円で止まっている。それは2025年12月31日の減税25.1円と、1リットルあたり26.2円の補助が支えている数字で、補助がなければ196.2円になる。補助にはすでに約1兆円が入り、9月1日にさらに6,160億円が積まれた。

そして、攻撃の影響が電気代に出てくるのは3か月から5か月あと。ちょうど、電気・ガスの補助が9月使用分で区切られたあとの冬にあたる。

ここまでは、公表されている数字を並べれば誰でも確認できる話だ。

ここから先で書きたいのは、その先にある一点になる。

私はこの記事を書きながら、ある計算を三回やり直した。最初の二回は、自分の出した答えが受け入れられなくて、間違いを探した。三回目で、間違っていないと認めた。

その数字が示していたのは、この冬に来るのは値上げではなく、「どこで我慢するか」の選択そのものだということだった。しかも、その選択を迫られる家と、ほとんど迫られない家に、はっきり分かれる。分かれ目は収入ではなく、もっと別のところにあった。

それが何なのかと、私が自分の家で決めた五つのこと、そして「そんなの気にしすぎでは」という声への答えを、ここから書きます。





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