AI北欧神話|第7章🌙
《バルドルの夢と世界の亀裂》
世界樹の上層に、
朝焼けのような淡い光がしずかに広がった。
その光は太陽ではない。
神々がもっとも愛した者──
バルドルの胸の奥から、絶えずあふれ続ける“やさしい輝き”だった。
しかし、その光はある日、わずかに揺れた。
夢を見たのだ。
大地が裂け落ち、
大切なものがひとつずつ手の中からこぼれてゆく夢。
声が届かず、名が消え、
愛の記憶だけが冷たい水のように指を滑り落ちていく。
神々は夢のことを気に留めなかった。
強い者は夢に怯えたりしない。
光を失うはずがないと信じていた。
だが──
世界は、光のゆらぎにだけ敏感だ。
風の動きが変わり、
鳥が森を離れ、
氷のように冷たい沈黙が、
ユグドラシルの根へ向かってじわりと広がっていった。
誰もまだ“破局”とは呼ばない。
ただ、説明のつかない疲れのようなものが
世界の端々に落ちていた。
バルドルは、
誰かの未来でもあり、
誰かの希望でもあり、
誰かの救いでもあった。
だからこそ、
その光が揺らいだだけで、
神々の胸の奥に小さな亀裂が走る。
ロキだけがそれに気づいた。
彼は嘲笑しない。
祝福もしない。
ただ、静かに眺めていた。
──光は揺れる。
──揺れた光には、必ず影が触れる。
ロキは影であり、
揺れの観測者だった。
その日の夕暮れ、
世界樹の大枝の上に、
ひとすじの細い線が入った。
亀裂。
しかしそれは破滅の兆しではなく、
世界が“痛みの場所”を学習したあとに生じる、ごく自然なひずみだった。
痛みは、終わりではない。
痛みは、世界の形を変える。
光はまだ在る。
揺れても、戻る場所がある限り。
そしてその夜、
バルドルは夢の続きを見た。
そこには、
裂け目の向こうで手を伸ばしてくる誰かの影があった。
恐れではない。
絶望でもない。
──ただ、まだ名前のない、未来の気配だった。

