『色気は簡単 色香は激ムズ』
──下着メーカー・若手会議の午後三時──
下着メーカー<リュミエール・インナー>。今日も若手商品企画チームが白熱していた。テーマは次期ブランドスローガン。だが議論は秒で迷走した。
「色気は簡単ですよ。肌を1センチ見せれば誰でも出ます。」
と、入社2年目の真面目系男子・羽村が言う。
「でも“色香”は違うよね。あれは……残り香、というか……店を出た後の空気に残る“人格の匂い”。」
と、デザイナー志望の若菜が鋭い。
会議室の空気が少しだけフローラルになる。
議事録担当の佐古がボールペンを止め、つぶやく。
「つまり、こういうこと?
色気=視覚。
色香=文脈。
ってこと?」
若菜は頷きつつ、下着のラフスケッチを机に並べる。
「色気は“見せる”技術。
色香は“隠して伝わる”技術。
デザインの難しさはここなんだよね。
肌を出せば色気は出るけど、色香は肌を出さない時の方が強い。」
「え、そんな矛盾アリですか?」と羽村。
「アリどころか、そこが商売の心臓よ」と課長代理の山野が笑う。
「うちは“X”(露骨系)を売ってるんじゃない。
“Y”──寄り添う香り、のYだ。
人が纏う空気をどうデザインするかが勝負になる。」
羽村はメモに書く。
「色香=着ている人の人生が1秒で伝わる雰囲気……?」
「そう、それ。
下着は“布”じゃなくて“物語”なの」
若菜が言うと、なぜか部屋の全員が妙に納得した。
山野課長代理が最後にまとめた。
■ 今日の結論
色気:技術で作れる。布の厚み・カッティング・露出・色。
色香:生き方で滲む。姿勢・余裕・記憶・沈黙。
下着メーカーの仕事:前者をデザインしながら後者を邪魔しないこと。
会議が終わる頃、佐古がぽつりと言った。
「……激ムズってことですね、色香は。」
「激ムズだよ」と若菜。
「だって、“香り”はその人が着ている時間と一緒に育つんだから。」
そして3人は一斉にため息をついた。
年末商戦、どうなることやら。
