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紅海はなぜ「紅い」のか。黄海・黒海・白海と比べてわかった、名前のつき方の違い。

ニュースで「紅海」という地名を目にする機会は少なくない。しかし、紅海の海水は実際には赤くないとされる。なぜ「紅い海」と呼ばれるようになったのか。調べてみると、世界には紅海のほかにも黄海・黒海・白海という、色の名前がついた海が存在し、それぞれの由来を比べると、紅海だけが際立って特殊な事情を抱えていることがわかった。


黄海と白海は、素直に「見たままの色」

黄海は、中国大陸と朝鮮半島のあいだにある海で、黄河から流れ込む黄土を含んだ水によって、海面が黄色く濁って見えることに由来するとされる。実際の水の色がそのまま名前になった、わかりやすい例だ。

白海は、ロシア北西部にある海で、高緯度にあるため冬に氷結して白く見えることなどが由来とされる。こちらも、見たままの色に近い命名と言える。


黒海は、比較から生まれた色

黒海の名前の由来は、少し性格が違う。古代ペルシア人が、温暖で穏やかなペルシャ湾と比べて、北方特有の暗く荒々しい印象から「暗い海」と呼んだのが始まりとされ、のちにオスマン帝国のもとで「黒海」という呼び名が広く定着していったという。

つまり黒海は、実際に海水が黒いというより、南の穏やかな海との対比で生まれた、相対的な色の呼び名だったらしい。なお、トルコ語には「偉大なる海」という意味を持つ呼び方も残っているとされ、一つの海に複数の由来が重なっている。


紅海は、決定打のない色

これに対して紅海は、実際の海水が赤いという事実に基づいた名前ではないとされる。由来には複数の説が並立している。

  • 説①:ギリシャ語で「赤」を意味する「エリュトラース」、あるいは「エリュトゥラー海」の直訳に由来する説

  • 説②:古代に方角を色で表す習慣があり、「南=赤」を意味したとする説。北の黒海と対をなす、という見方。歴史家ヘロドトスも「赤い海」と「南の海」という表現を交互に使っていたとされる

  • 説③:エジプトで砂漠を「デシェレト(赤い大地)」と呼んでいたことに由来するという説。エジプトの文脈ではこの説が有力だとする見方もある

どの説が最も正しいのか、確定した答えはまだ出ていない。


なぜ紅海だけ、こんなに説が割れるのか

黄海・白海は「見たままの色」という一次的な事実に基づく命名で、由来を疑う余地が少ない。黒海は「比較による色」で、由来はペルシア人の視点というほぼ一つの物語に収れんしている。

一方の紅海は、ギリシャ語、方角の思想、エジプトの大地という、それぞれ異なる文化圏が独自に「赤」という言葉をこの海に当てはめていった可能性がある。地中海と紅海を結ぶ交易路の要衝として、古くから複数の文明が行き交ってきた土地であることそのものが、名前の由来を一つに定まらせなかったのかもしれない。


四つの海を並べてわかること

色の名前がついた海を並べてみると、命名のされ方には「見たままの色」「比較による色」「決定打のない色」という違いがあることが見えてくる。紅海は、その中でも最も多くの文化が関わり、最も謎が残った例だった。


このシリーズとの接続

このシリーズでは、国旗や地下鉄路線の色など、「なぜその色がついたのか」という語源をたどる記事をいくつか書いてきた。国旗や路線図の色は、決定した機関や時期が比較的はっきりしている例が多かったが、紅海のように国境をまたぎ、複数の古代文明が関わってきた地名の色は、由来を一つに絞れないまま今日まで使われ続けている、という違ったパターンだった。

このシリーズの一貫した問い「色は誰が・何のために決めるのか」に照らすと、紅海は「複数の人々が、それぞれ違う理由で同じ色をこの海に当てはめ続け、結果として誰か一人が決めたとは言えなくなった」という、新しい答えのパターンとして位置づけられそうだ。


この記事は、紅海・黒海・黄海・白海の名称由来に関する各種資料をもとに構成しています。紅海の名前の由来には複数の説があり、確定した答えは出ていません。


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