幼稚園では優等生だった娘。幼児教室で突きつけられた現実、そして家庭崩壊へ
小学校受験をするにあたり、我が家は最初、希望校一校のみを受験する予定でした。
今だから言えるけれど、私は完全に小学校受験を舐めていたと思う。
「ダメだったら公立に行けばいい」
「受かったらラッキーだよね」
本当に、そのくらいの感覚だった。
幼児教室の先生にもそう伝えていたし、心のどこかでは「まあ、無理だろうな」とも思っていた。
そもそも、その頃の私は希望校についてものすごく詳しかったわけでもない。
そんな状態で始まった、我が家の小学校受験だった。
幼児教室に通うのは2週間に1回。
ペーパーが2時間、行動観察が30分。
初めて授業を見たとき、私は衝撃を受けた。
先生が季節の問題や仲間はずれの問題を出すと、周りの子たちは次々と手を挙げて答えていく。
その横で、娘はポカーン。
「あれ……?」
幼稚園ではいつも先生から褒められ、「しっかりしていますね」と言われていた娘。
そんな娘が一歩外に出たら、こんなにも“普通”になってしまうのか。
そこで初めて思い知らされた。
そして同時に、ものすごく焦った。
このままじゃ、絶対に間に合わない。
周りの子たちは、もっとずっと前から受験対策をしている。
親への話し方も、態度も、座り方も、何もかもがきっちりしていた。
周りの子が「お母様」と呼んでいる中、遠くから大きな声で、
「ママー!」
と呼ぶ娘。
他の子が、
「お願いします」
と言って紙や鉛筆を親に渡している横で、娘は、
「はい!しまっておいて!」
と私に渡してくる。
他の子が足を揃えてきちんと座っている中、娘はガニ股。
机に肘をつきながらペーパーを解いている。
私は一気に焦った。
というより、絶望に近かったと思う。
「これ、本当に間に合うの?」
不安になり、担当の先生に相談した。
でも先生は、
「まだ最初ですから。経験していけば、できるようになりますよ」
と、特に気にしていない様子だった。
それでも私は焦っていた。
だから家でやるペーパーの量を増やした。
今振り返ると、ここから少しずつ、すべてが良くない方向へ進んでいったのだと思う。
大人から見れば簡単な問題でも、4歳、5歳の子どもにとってはものすごく難しい。
初めて見る問題なら、何を聞かれているのかすら分からないこともある。
頭では分かっていた。
分かっていたはずなのに。
いざ娘と一緒にペーパーを始めると、
「なんで分からないの?」
「さっきやったじゃん!」
と、だんだんカーッとなってしまう。
怒鳴ってしまったことも、何度もあった。
そのたびに娘は号泣した。
そして少しずつ、ペーパーそのものを嫌がるようになっていった。
娘の中で、
「ペーパーをやる=ママが怒る」
ということが、完全にインプットされてしまったのだと思う。
ペーパーを出しただけで嫌がる。
やりたくない。
すると私はまた焦る。
焦って、怒る。
娘は泣く。
完全な悪循環だった。
そんな私を見て、夫からは、
「怒りすぎだよ」
と言われた。
でも当時の私は、その言葉を素直に受け止める余裕なんてなかった。
「じゃあ、あなたが勉強見ればいいでしょ!」
そう言っても、その頃の夫はまだ、娘の勉強を積極的に見ることはなかった。
私は私で、
「結局、私ばっかりじゃん」
という気持ちがどんどん強くなっていった。
娘の小学校受験のために始めたはずなのに、娘は泣き、私は怒り、夫婦仲までどんどん悪くなっていった。
さすがに、
「今のままでは良くない」
そう思い、夫婦でもう一度、担当の先生に面談をお願いした。
そして初めて、家での状況を正直に話した。
娘に怒ってしまうこと。
娘がペーパーを嫌がっていること。
夫婦でも喧嘩になってしまっていること。
すると先生は、
「当たり前ですよ。私だって自分の子どもの受験のとき、何度怒ってしまったか」
と、ご自身の経験を話してくれた。
そして、こんなアドバイスをくれた。
「お母様が怒りそうになったら、お父様と交代する。お父様が怒りそうになったら、お母様に交代する。それでやってみたらどうですか?」
不思議なもので、私が何度言ってもあまり響いていなかった夫も、先生からそう言われたことで、娘の勉強を見るようになった。
それからは、私だけではなく夫も一緒にペーパーを見る。
私がイライラしてきたら夫に交代。
夫がイライラしてきたら私に交代。
夫婦で娘の受験勉強を見るようになった。
そして、実際にやってみると――
想像以上に、娘がペーパーをできるようになった。
今まで分からなかった問題が分かるようになり、少しずつ自信もついていった。
そこで私は気づいた。
娘ができなかったんじゃない。
私が、娘をできなくさせていた部分もあったんだ。
「早く追いつかせなきゃ」
「このままじゃ間に合わない」
「周りの子はもっとできている」
そんな私の焦りを、一番近くで全部受け止めていたのは娘だった。
そして、この頃には私自身の気持ちも、受験を始めた頃とは大きく変わっていた。
最初は、
「ダメだったら公立でいい」
「受かったらラッキー」
なんて言っていたのに。
幼児教室に通って、家でも勉強して、娘も泣きながら頑張って、私たち夫婦も少しずつ受験に向き合うようになって。
ここまでやっているんだから、絶対に合格させたい。
いつの間にか、そんな気持ちが私の中に生まれていた。
今思えば、その気持ちもまた、私を焦らせていた原因の一つだったのかもしれない。
小学校受験を始めたばかりなのに、私はいつの間にか周りの子と娘を比べて、娘ではなく“できないところ”ばかりを見るようになっていた。
娘がペーパーを嫌いになってしまった原因の一つは、間違いなく私だった。
それに気づいたとき、本当に反省した。
小学校受験は、子どもだけが頑張るものじゃない。
夫婦で同じ方向を向くことも必要だったし、何より、親の焦りをそのまま子どもにぶつけてはいけなかった。
むしろ最初に変わらなければいけなかったのは、親である私の方だったのかもしれない。
ーーつづく
