盲目の美少女修法師、埋もれた怪異に挑む 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖110 紅い紐球』
北から来た盲目の美少女修法師が、付喪神をはじめとするこの世のものならざるものたちと対峙する「百夜・百鬼夜行帖」、一年二ヶ月ぶりの新作は、謎の存在に憑かれて正気を失った男を巡る物語。事件の鍵を握る「紅い紐球」とは――?
平谷美樹の『百夜・百鬼夜行帖』は、本作で実に110話を数えるWeb小説シリーズです。これまでブログの方では全話紹介してきましたが、noteで記事を書くのは初めてなので、ここでシリーズをおさらいしたいと思います。
本シリーズの主人公・百夜は、津軽でイタコの修行を積んだ修法師(まじない師)。作者の先行するシリーズ『ゴミソの鐵次調伏覚書』の主人公・鐵次の妹弟子であり、彼を追いかけるような形で江戸に出て、湯島の「お化け長屋」に居を定めて修法師稼業に励む美少女です。
この百夜、江戸時代のイタコには多かった盲目の身なのですが、しかしあたかも目が見えるように自在に動けるばかりか、仕込み杖の達人であり、侍のような武張った口調というユニークなキャラクター。実はこれは、江戸で活動するために武士の霊を憑けているからなのですが、いずれにせよ、キャラが非常に立っていることは間違いありません。
そんな百夜が活躍する本シリーズは、当初は付喪神が引き起こすさまざまな怪異に、そしてシリーズが進むにつれてそれに留まらない亡魂や神霊が絡む事件に、百夜が挑む姿を描いてきました。
彼女を支えるのは、百夜の弟子を自認する倉田屋のお調子者の手代・左吉や、兄弟子の鐵次、彼女を師と仰ぐ女修験者の桔梗、さらには不良旗本紅柄党の頭目・宮口大学といった人々。そんな面々とともに、百夜はこれまで百九話にわたり活躍してきました。
短編とはいえ、基本的に一話完結(前後編もありますが)でこの話数というのは、日本のゴーストハンター小説では異例の長さ(というよりおそらく最長)といえます。
前話を紹介したブログ記事はこちら。
さて、シリーズの紹介が長くなりましたが、その最新のエピソードである本作は、桔梗が百夜のもとに相談にやってきたことから始まります。代々木村近くの名主から、次男の金治郎が何者かに憑かれ、正気を失っているという依頼を受けた桔梗。しかし憑き物の正体がわからず祓うことができなかった彼女は、百夜の力添えを求めてきたのです。
早速、桔梗、そして左吉とともに現地に向かった百夜は、名主の家を取り巻く黒い霞のようなものを察知します。そして金治郎の部屋を調べた百夜は渦巻文様の土器を発見――金治郎が仕事をしていた桑畑に向かった百夜は、その先の禁足地の古い塚から、彼が土器を持ち出していたことを知ります。そして塚の中の潰れた壺の中にあったものとは……
ゴーストハンターものは古今無数にありますが、本シリーズの特徴の一つは、怪異に対して、決して力押しのみで当たるわけではない点でしょう。
修法師である百夜は、この世ならざるものを「カミアガリ」(仏教でいうところの成仏に近い概念ともいえるでしょうか)させる、つまり相手を神として昇華することを目的とします。そのために必要になるのは、相手の正体、そして怪異を起こす理由を知ること――この理由を探る点において、本シリーズはミステリ的な興趣を持つのです。
そのスタンスは、もちろん本作でも変わりません。百夜でも正体のわからぬ憑き物を祓うためには、相手が何者なのか、なぜこの世に残っているのかを知らなければなりません。そして調査の果てに百夜たちが突き止めたのは、タイトルで語られる存在なのですが――果たしてその正体は何か、そして百夜たちがどのように対処するのか?
それはここでは伏せておきますが、本シリーズ、というより作者の作品に通底する怪異の特徴――この世ならざるものにはこの世ならざるものなりのロジックがある(だからこそミステリ的な論理性が必要となる)という視点は、本作でも健在です。
結末は少々意外かもしれませんが、久々にこうした百夜ならではの物語を堪能しました。
前話を紹介したブログ記事はこちら。
