京都文学フリマ10 2026年感想文📕詩集「ひらける」 著者:720さん を読んで
はじめに
初めて文学フリマに行った私は、たくさん詩集を買うことができ嬉しい気持ちでいっぱいです。古都の瑞々しい感性に触れた私は、読んだ責任とお礼として感想を述べさせていただくことにしました。10年以上詩の会に属し、年間を通じて多くの詩集を読んでいる私の感想です。
本を手に取る
白紙にパステルカラーのカーボン複写で描かれたような表紙は、まるで詩の色鉛筆が入っているような趣をしている。著者名の720とは、名前の読みを数字に置き換えたのが由来と伺った。自らを数字に置き換えることで、彼女は感性を具現化しているような気がした。
気になった三作品
「拾った石」
祖母のひろった
河原の石が
祖母のむくちな
感性を かたる
(「拾った石」冒頭)
祖母のむくちな感性とある。かたる、と平仮名を用いることで、飾りのない気持ちが伝わってくる。祖母も石も何も語らないことが、胸に硬く重く切なく感じる。
「川原」
河原で小石をいらうとき
心満たされてゆく
このうつわは
それのみで足りているのだ
いつか土溝を流れた水が
いまや雲となり天に浮かぶように
かつて我が感情は
これらの石として現出している
河原でいらう心は
くぼんだり とがったり
まるんだり ほそったり
(「河原」全校)
石を拾いながら自分を見つめるひとときが、清流のように綴られている。「いらう」という言葉を初めて聞いた。この言葉が作品をマドラーでかき混ぜるような優しい味にしている。
気になったのは「いまや」や「我が」など古語を用いているので、「浮かぶように」という口語が若干、不協和音に感じられた。
「人を嫌う」
人を嫌うと
遠くの山が美しく迫ってくる
地平線を遮るビル群
あれらを粉塵と消し去り
山と空で視界を満たしたい欲が
抑えがたく溢れてくる
(「人を嫌う」冒頭文)
人を嫌う、と言葉がリフレイン効果で詩を引き締めている。人を嫌う瞬間、湧き出てくる感情を美と血で巧に表現している。特に「遠くの山が美しく迫ってくる」という表現は、人を嫌った瞬間、目の前の雑多な問題、人、物、思いが一掃されていく心の動きが鮮明で絶妙である。
さいごに
720さんは販売ブースで石を飾っておいででした。それは詩に登場した祖母様が拾ってきた川原の石だったと記憶しています。あの赤茶色の石の正体は何なのだろうと思いながら、あとがきを読んでいた私は「景色を言葉によって表現」という文が目に飛び込んできました。これを読んで私はあの石は景石(けいせき)だったのだと思いました。景石は庭を飾る時の自然石です。720さんにとってあの赤茶色の石は、詩という心の庭の石なのだと感じました。感性の原石が散らばっている素晴らしい詩集に出会えて、私の心の扉がまたひとつ開いた気持ちになりました。
詩集「ひらける」の出会いに感謝申し上げます。
