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パレスチナ問題で政治が学問の自由を奪う米国 ―日本は大丈夫?

 ニューヨーク市立大学(CUNY)の一つのキャンパスを構成するハンター・カレッジ(ニューヨーク市立大学ハンター校)は、24日、人文・社会科学の教員たちに対してパレスチナ問題に関する「入植者の植民地主義、ジェノサイド、人権、アパルトヘイト、移民、気候とインフラの荒廃、健康、人種、ジェンダー、セクシュアリティなどを含む批判的視点を要求する」と大学のウェブサイトで声明を出した。

 この声明に対して「正義の声を上げたハンター・カレッジ当局を誇りに思い、ハンター・カレッジで勤務できることを幸運だと感じている」と社会学のヘバ・ゴウェイド教授はSNSの「ブルースカイ」に投稿した。ところが、翌日25日にニューヨーク州のキャシー・ホウクル知事(民主党)は、(大学の)教室で反セム(ユダヤ)主義が促進されることがないように、ハンター・カレッジのこの書き込みを削除するように求めた。これに応じて、CUNYのフェリックス・ロドリゲス学長と、ウィリアム・トンプソン評議会長は、声明文を削除し、反セム主義に取り組むという声明を出した。ゴウェイド教授は知事や学長らの一連の動きには非人間的なものを感じ、悲しみを覚えると反発の声明を出した。

ヘバ・ゴウェイエド教授 https://www.hebagowayed.com/


 また、CUNYの3万人が所属する教職員、労働組合は、州知事や学長の措置が学問の自由を阻害し、また政治がアカデミズム研究のすべての領域に立ち入ろうとすることは、職権の濫用であり、まったく非生産的であるという書簡を知事や学長に送った。

 さらに、イギリスでもケンブリッジ大学当局はパレスチナに連帯する学生たちが大学の主要施設に立ち入ったり、キャンパス内で他の人の移動の邪魔になったりすることを禁止する差止請求を高等法院(イングランド・ウェールズ)に対して起こした。しかし、この大学の動きに国連の集会の自由に関する特別報告官であるジーナ・ロメロ氏は27日、ケンブリッジ大学に対して人権保護に関する国際基準に違反する規制をやめるように求めた。ロメロ氏は、大学は「平和的な集会を保障し、保護しなければならない」と述べた。

ジーナ・ロメロ特別報告者 https://x.com/ginitastar


 権力と学の自由に関する問題は日本でも発生してきた問題だ。1932年10月に京都帝国大学法学部の滝川幸辰(ゆきとき)教授が中央大学で行った講演内容やその著書が無政府主義的な危険思想であると文部省や司法省によって判断され、文部省が1933年5月に滝川教授を一方的に休職処分にした。これに抗議して京大法学部の全教官が辞表を提出したが、結局文部省は同年7月に8人の教授の辞表を受理し、免官とした。

滝川事件 滝川幸辰教授の処遇をめぐり、京都帝大総長と文相との協議が決裂したことを伝える1933年5月の毎日新聞記事 https://mainichi.jp/articles/20201006/k00/00m/040/118000c


 この事件の結果、政府や軍部のアカデミズムへの介入が進んで自由な研究が阻害され、大学の側でも政府や軍部に協力する傾向が顕著になり、軍事体制に協力・貢献するアカデミズムとなっていった。京大医学部では人体実験で悪名高い関東軍の防疫給水部(731部隊)の研究に参加する若い教官たちも現れた。

 最近でも安倍政権時代から政治の学問への介入が顕著となり、防衛省は国の安全保障に役立つ研究に対して研究助成の公募を始め、また、文科省は国立大学について教員養成系や人文社会科学系の学部や大学院に関して廃止や「社会的要請が高い分野」への改編を求める勧告を行った。日本の大学から人間として情感や歴史、文学などを学ぶヒューマニズム(人文科学)研究が消えようとしていることに危機感を覚える。


 ナチス支配下のドイツでは、ユダヤ人排除などにアカデミズムが利用され、自然人類学、精神医学、および遺伝学などの分野で学者・研究者が動員されて、ユダヤ人の定義が行われるとともに、SS(親衛隊)は医師たちにユダヤ人に関する「専門的知識」を教化していった。日本の軍国主義が学問の自由を阻害していったプロセスとよく似通っている。

 著名な経営学者のピーター・ドラッカー(1909~2005年)はユダヤ系オーストリア人だが、ドイツ・フランクフルト大学に留学し、1930年に『フランクフルト日報』経済記者となった。フランクフルト大学でも非常勤講師を務めたが、ナチスが政権をとり、ナチス党員たちが教員たちを集めてユダヤ人教員は明日出て行けという訓令を出すと、教員たちの中にはユダヤ人教員をかばう者はなく、その会議の中で唯一あった発言は、研究費は継続して支給されるのかというものだった。

ピーター・ドラッカー https://markethink.guru/en/markethinkers/104-peter-drucker

https://www.genron-npo.net/future/archives/5780.html

 政治や行政が学問の発展を阻害する時、その社会は大変危険な状態に陥っていると言えるが、米国は反知性的なトランプ政権になって学問の自由、特にパレスチナ問題については教育や研究への介入の度合いを強めるだろう。必要なことは政治の教育行政への介入が明らかになった時、日本の森友問題の場合のように、あるいはCUNYの教職員・スタッフのように、多くの人々が学問や教育に介入する政治の力に反発し、関心をもち、声を上げるということだ。


このような社会では困る https://x.com/ShinjiKakijima/status/1313278088457809920

表紙の画像はニューヨーク市立大学ハンター・カレッジ(ニューヨーク市立大学ハンター校)
https://www.facebook.com/huntercollege/photos/

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