麻衣ちゃんがおとなになったら【ショートショート】
プシュ!
缶ビールを開けた麻衣は、一口ぐいっと飲んだ。
「あー、うまいっ。やっぱりお風呂上がりはこれよね、これ。」
そんな事を呟く麻衣だけど、その前にも数本ビールは飲んでいる。ビールを飲みながら、お風呂上がりのスキンケアをする。それは、麻衣の至福の時間だ。少し面倒な時もあるけれど、明日の肌のためにコツコツとケアをする。
壁のカレンダーを見ながら、麻衣は思った。
明日は成人の日かぁ。今の私って、あの頃の私が思っていた未来を生きているのかな。今の私ってどうなんだろう。
30年前の成人式前夜の事を麻衣は思い出していた。
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頭にカーラーをたくさん巻いている麻衣ちゃん。明日は成人式がある。早朝から美容院に行かなければならない。今日は明日のセットの準備のために美容院に行ってカーラーを巻いてもらっていたのだった。
「こんなにカーラー巻いてさ、ちゃんと寝れるのかなぁ。明日も起きれるんかなぁ。」
明日持っていく物をチェックしながら、麻衣ちゃんは独り言を言う。振袖は今日、貸衣装から受け取ってきた。草履やバッグ、着付けの小物類、髪飾り。明日持っていくバッグの中身など、結構な荷物だ。美容院には忘れずに前開きの服を着て行かなければ。
用意を済ませた麻衣ちゃんは、明日の事をいろいろ考えてみる。
明日は成人式だけど、天気予報は曇りのち雨。寒いんだろうな。雨や雪が降んなかったらいいなぁ。それにさ、私まだ19歳だもんなぁ。2週間は未成年のまんまだよね。
明日、あの人来てくんないのか。来てくれたらいいのに。あの人、私の事どう思っているのかな。でもさ、もし来てくれたとして、「そういう事」になってもさ、私一人じゃ着物着れないから、それでいいのか。よく分かんないけどさ。
それにしても。大人ってどういう事なんだろう。大人ってなんなんだろう?20歳になったからといって何が変わるんだろう。
選挙に行く事。お酒が飲める事。税金を払う事。そんな事くらい?
そんな事より、私結婚できるのかな?幸せに暮らしているのかな?
麻衣ちゃんは、明日が早いから寝なくちゃと思いながら、なんだか眠れないでいた。
「あの人」は麻衣ちゃんをどう思っているのかよく分からない。それは麻衣ちゃんを不安にさせるし、ヤキモキさせていた。明日だって、彼がいる子は彼が車で迎えに来てくれるのに、麻衣ちゃんは来てもらえない。結局、麻衣ちゃんは友達と遊ぶ事にしたのだった。
大人になるってどういう事なのか考えていた麻衣ちゃんだけど、「あの人」の事ばかりが浮かんでくる。麻衣ちゃんにとっては、大人になる事よりも「あの人」に愛されることが大事みたいだった。
眠りに落ちそうな頃、麻衣ちゃんはぼんやり考える。
私がこの先、うんとうんと大人になったら、何をしているのだろう。結婚しているのかなぁ。子供もいるのかなぁ。幸せなのかなぁ。
この先の私、幸せ、なのかなぁ……。
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麻衣はビールを飲みながら、30年前の曲を聴いていた。そして、今度は成人式後の事を思い出していた。
無事に成人式が済み、麻衣は伸ばしていた髪をバッサリとカットした。久しぶりのショートヘアは麻衣をすっきりとした気持ちにさせた。
好きな人とは終わってしまい、それは長い間麻衣の心を苦しめた。
仕事も変わり、新しい生活が始まった。麻衣は、仕事も遊びも全力で取り組んだ。そんな毎日は、大変だけど楽しくもあった。
少しずつ、恋もするようになってきた。古傷がチクチクと胸を刺す事もあった。そんな時、麻衣はどうしていいか分からなくなって、無茶をする事もあった。それは、麻衣を余計辛くさせる事もあったけれど、それが大人という事だろうかと考えていた。
だけど、やっぱり大人になるってどういう事かよく分からなかった。
やがて、出会いがあり麻衣は結婚した。子供も二人産まれた。世間から見ると麻衣は幸せそうにみえた。だけど、麻衣は心にぽっかりと穴が開いているように思えるのだった。
麻衣は、毎日を淡々と過ごしていた。
子供はすくすくと育ち、それをそばで見る事は幸せな事なんだろうと麻衣は思った。子供の世話をし、家業で働き、同居の生活をする。いい事ばかりではないけれど、言いたい事を飲み込む事ばかりだったけれど、そうやって淡々と暮らす事が大人になる事なのだと思っていた。
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子供も自立して、これからの事を考える余裕が出てきた。
今の私は、あの頃の私が望んでいた姿なのかな。こんな今の私ってどうなんだろう。
昔、今の私の年頃の人はみんな大人に見えた。それに比べて、今の私は子供っぽくて仕方なく感じる。いまだに自分探しのような事を考えている自分は青臭くて子供っぽいのではないだろうか。
麻衣は、そんな事を考えていた。
30年経っても、大人になる事への答えは出ない。大人になるっていったいどういう事なのか。おそらく、ずっと答えは出ないのかもしれない。これからも、大人になる事への答えを探しながら生きて行く事になるのだろう。
30年前の麻衣ちゃんには、「あの頃の麻衣ちゃんが望んだ通りの人生ではないよ。辛い事が多いけど、悪い事ばかりじゃないよ。新たな気づきを得て頑張っているよ。幸せになるためにね。大人って何なのかは今も答えを探しているよ。そして、今が幸せなのかどうかは分かんないんだ。ごめんね。」と伝えようと麻衣は思った。
「さ、もう一本飲もうかな!ビール、ビール。」
麻衣はもう一本ビールを飲むために冷蔵庫へ向かった。
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成人式前夜の事を大人の麻衣と、子供の麻衣ちゃんの視点で書いてみました。
最近、私は大人になるってどういう事なんだろう。自分は子供っぽいんじゃないのかなって考えていました。
私の周りの人たちがみんな大人に見えて。自分だけが、青臭くて大人になりきれていないんじゃないかって。
昔、若い頃は今の私の年頃の人達がみんな大人に見えていたっけ。
なんだか、自分だけが周りから取り残されているような、世間とズレているんじゃないか、そんな風に思えてなりません。年齢だけは、いい歳になってしまったのにね。
そんな思いをショートショートにしてみました。
今日も最後まで読んで下さってありがとうございます♪
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