【シロクマ文芸部】記憶は永遠に|短歌から小説
メモをするのはやめにして、ポケットの中のボイスレコーダーの録音ボタンを押した。
「話があるんだ」
あなたに呼び出された駅前のカフェのテーブルで私たちは向かい合う。お互い話を切り出せずに沈黙が続いている。目の前のアイスティーは氷が溶けかけ、グラスの雫がコースターにシミを作っていく。
沈黙に耐え切れない私は、口を開くと負けだと知りながらあなたに問う。その声はひどく掠れていて、口の中がカラカラに乾燥していた。アイスティーをゴクゴクと飲むと小さくなった氷が頼りない音を立てた。
「いったい何の話があるの?」
あなたは視線を下に落としてギュッと目を瞑ってから、再び顔を挙げて私に言った。
「俺と別れて欲しいんだ。ごめん」
私はそう言われるであろう事は分かっていた。だから今日はボイスレコーダーをポケットに入れてきたのだ。
最近、私と会っていても様子がおかしかった。いつもやり取りしていたメッセージもいつしかあなたからは来なくなり、私からのメッセージにもなかなか既読が付かなくなっていた。
だから私は、そろそろ私たちの関係も終わるのだろう、そう思っていた。
私はこの関係を始める時に誓った事がある。それは、あなたから別れを切り出された時は縋らずにあっさりと綺麗に別れるという事だ。それがこんな関係を続ける私の矜持だと思うからだ。
「分かったわ。今までありがとう。大好きだったわ」
「ごめん。俺も君を愛していたよ」
「そんな簡単に愛してるって言葉を使わないで。最後にお茶はごちそうしてね。さようなら」
立ち上がった私は振り返らずにカフェを出た。もしかしたら追いかけて来てくれるかと微かな希望を持っていたけれど、私を追ってくれる人は誰もいなかった。ポケットの中のボイスレコーダーの録音ボタンを止めると、なぜだか力が抜けてしまった。
私はメモはしなかったけれど、今日の事はしっかり目に焼き付けた。あなたの事が恋しくて、会いたくてたまらなくなった時は今日の事を思い出そう。そして、このボイスレコーダーのあなたの声を再生しよう。いつまでもいつまでも色褪せないあなたの記憶。
早速あなたの顔を思い浮かべる私の目には涙が浮かんで、昼下がりの初夏の日差しが目に染みる。思えば、こんな昼間にあなたに会うのは初めてだった。頬に伝う涙を雑に手で擦りながら、手を繋いで楽しそうに歩くカップルを私はずっと羨まし気に眺めていた。
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今週のお題は「メモをする」です。
今回、短歌をもとに掌編小説を書きました。
この元ネタの短歌はこちらの作品です。
沈黙に溢れそうなアイスティー
妥当な言葉も見つからぬまま
aeu<アユウ>|雨唄アユウさんが詠まれた短歌です。
実は、この短歌は3年前の「みんなの俳句大会・旬杯」で私が審査員みゆ賞として第2位を贈らせて頂いた作品なんです。
このお歌、午後4時くらいの晴れた日の喫茶店の窓辺の席の様子が浮かんできました。
ところが、何やら不穏な空気感が漂ってきます。
もしかして、別れ話をしている2人なのでしょうか。
あの人に告げられた言葉に、発する言葉を探しているうちに長い沈黙が続きます。
グラスのアイスティーは汗をかき、雫がコースターを濡らします。
氷が溶けてしまって、もうグラスから溢れそう。
だけど、それでも、言葉は探せず時が流れるまま。
お互いがお互いの言葉を待っている、そんなもどかしさをすごく感じます。
早く楽にして・・・そんな思いも感じました。
この後、この2人はどうなってしまうのだろうと考えてしまいました。
この時、私はこういう感想を書かせて頂いていました。
今回のシロクマ文芸部のお題で、喫茶店での別れ話を書こうと思った時にこの作品が頭に浮かびました。
それで、3年越しの二次創作をする事にしました。
aeuさん、いきなりの二次創作をさせて頂きました。
3年経っても、あの時の短歌が頭に残っていたんです。
自分なりの解釈で掌編にしましたが、いかがですか💦
小牧部長、よろしくお願いします😊
今日も最後まで読んで下さってありがとうございます♪
#シロクマ文芸部
#メモをする
#aeu<アユウ>|雨唄アユウさん
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