【シロクマ文芸部】リアルな夢の先に~白い息
白い息を弾ませて君が改札を出てきた。僕が軽く手を挙げると、君は僕の所へ一目散に小走りでやって来た。
「おはよう。やっとここに来れたよ」
「うん。この日が来るのを待っていたよ。車はあっちなんだ」
僕は君の手を取り駐車場へ歩いた。君のほっそりした手は冷たくて、僕は繋ぐ手にいっそう力を込めた。
エンジンを掛けると懐かしい曲が流れる。君は楽しそうに小さな声で歌っている。
「歌ってるの、聞こえてるよ」
「え、ほんと?やだ、恥ずかしい。でも、あなたのセレクトが私のツボを押さえてるんだもん」
「君と僕が好きな懐かしい曲でプレイリストを作って来たからね」
「ふふ。昔のカセットテープみたいね」
今日は少し寒いけれどいい天気で、絶好のドライブ日和だ。車は順調に走り、目的地へ到着した。ここは海辺に歴史的建造物がたくさん建てられていて、いつか二人で訪れたいと思っていた場所だった。
建物が建てられた当時に思いを馳せながら、二人でゆっくりと歩く。
君は突然僕の腕を自分の腕にぎゅうっと絡ませてきた。立ち止まった僕を見上げながら君ははにかんだ笑顔を浮かべた。
「私、ずっとあなたとここに来てこうしたかったの。やっと堂々とあなたに会える日が来たのがこんなに嬉しいなんて」
「僕も君と会いたかったよ。ずっと待たせてごめん。君とはやましい事なく会いたかったんだ」
視線を先に向けると、冬の海が太陽の陽を受けてきらきらと光っている。今日は風が無いので、冬の海も波が穏やかだ。
++++++++++
スマホのアラームが鳴る。その尖がった音が僕の心臓を容赦なく刺す。今日も一日が始まるのだ。君のいない一日が。君はいないのに、さっきまで君が僕の腕の中にいたような感触が残っている。君に会いたいあまり、僕はやけにリアルな夢を見てしまったようだ。
「おはよう」
妻が子供たちの弁当を詰めながら僕に話しかけてきた。
「今日、サキの三者面談があるんだけど、志望校はH大でいいよね」
「サキの希望ならそこでいいと思うよ」
「私も同意見だけど偏差値がどうかしらね」
「最後に伸びる子もいるからそこに賭けないとな」
僕は君の事を愛しているけれど、現実の僕は抱える物がたくさんある。それは君も同じだろう。君も僕を愛してくれているけれど、君も抱える物がたくさんある。お互いの愛が重くてじわじわと漏れ出してきているようだ。
重すぎる愛を持て余した僕は君から遠ざかろうとした。接点を無くしてみても愛は減らないし、より漏れ出てしまう。突然接点を無くした僕を君はどう思っているのだろう。いっそ僕を憎んでいてくれたらと思えてならない。僕も君を嫌いになれたらどんなにいいだろう。いつでも僕を見守っていてくれるやさしい君を。
君への愛をこのままこの水に流してしまえれば僕は楽になれるのだろうか。洗面所の鏡に映る僕に問うてみる。曖昧なまま答えの出せない僕は、スマホを手にSNSで君の近況をこっそりチェックする。
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シロクマ文芸部に参加します💛
今週のお題は「白い息」です。
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