【シロクマ文芸部】夜桜と黄桜どっちにする?
「夜桜と黄桜、どっちがいい?」
しんちゃんが私の顔を覗き込みながら聞いてきた。背の高いしんちゃんが首をかしげると前髪がサラッと揺れる。本当にしんちゃんは私のドストライクな顔をしている。どうしてこんな人が私の事を好きになってくれたんだろう。全くもって未だに信じられずにいる。
夜桜と黄桜ですって?
そんな野暮な質問しないで欲しいってば。
そんなもん、どっちでもないに決まってるじゃん。
それはしんちゃんに決まってる。
キミにキミに決定~!ってなものよ。
ああ、そんな事はしんちゃんに言えるはずがない。そんな恥ずかしい事、絶対にしんちゃんには言わない。
私は、コホンと一つ咳をすると、なるべくクールさを装い
「夜桜と黄桜?それは、夜桜ね。あ、でも、黄桜だったらスパークリングのやつがいいわ」
と答えた。
「ほんと、奈実って素直じゃないなあ。はいはい、両方ね」
しんちゃんは笑いながら私の髪をくしゃくしゃと撫でた。もう、せっかく朝からキレイにアイロンを掛けたのに、そんな努力を無駄にするような事はしないで欲しい。そう思っても、しんちゃんの笑顔を見たらもうだめだ。それくらい、しんちゃんの笑顔は尊いと私は思う。
「俺んちの近くの公園、すっごく桜がキレイなんだよ。今晩、桜見に行こうよ。もちろん、黄桜でもワインでも何でも飲んでいいからね」
これって、夜遅くまでデートするって事?
しんちゃんちに行っちゃうかもって事?
私、どうする!?
身だしなみは・・・セーフだわ。
しんちゃんのあっさりした誘いを受けて、私は一人パニックに陥ったけれど表面上は何ともない顔ができたはずだ。そんな私をしんちゃんはニコニコして見ている。
やがて、空が紫になってきた。
「そろそろ行こうか」
しんちゃんは私の手を握り、公園に向かって歩き出す。しんちゃんの手の温もりに私の心臓がトクントクンと音をたてる。
そこは大きな公園で、夜桜見物の人々がたくさん歩いている。私達もその人波に交じり桜を見ながら歩く。満開の桜は見事なもので、私は桜を見上げてうっとりする。
「しんちゃん、桜とてもキレイね。連れてきてくれてありがとう」
「奈実に喜んでもらえて嬉しいよ。あ、黄桜買ってないね。買いに行く?」
「黄桜なんていいよ。それより、何か屋台で買おうよ」
しんちゃんと屋台を覗いていると、すっかり辺りは暗くなった。見上げると、大きな満月が出ている。月の光を見ていると、なんだか不思議な気持ちになってくる。桜の下のベンチに座って、二人でたこ焼きを食べる。
「熱っ」
「何、どうしたの?奈実は猫舌?」
「うん。私、猫舌で熱いもの苦手なの」
「熱いのは熱がって食べるのがいいんだよ」
ふーふーしながらたこ焼きを食べていると、しんちゃんは私のほっぺを突きながら
「これから家来る?」
といかにも当たり前のように聞いてきた。
この誘い方に、しんちゃんって遊び慣れているのかと思わず考えてしまった。こんなに素敵な人だもの、モテないはずはない。もしかして、私の事も遊びなのかもしれないと思ってしまった。
爪楊枝に刺さったたこ焼きを持ったまま黙り込んだ私にしんちゃんは
「どうかした?寒い?」
と声を掛けてくる。それでも黙ったままの私にしんちゃんは
「家に来るのが怖い?」
と聞いた。私は小さくうなずいた。
「しんちゃん私の事好き?しんちゃんみたいな人が私の事を好きなんて信じられないの。ほんと不安でたまらないの」
「俺、奈実の事好きだよ。何でそんな事言うの?」
「だって、しんちゃん、好きとか何にも言ってくれないもん」
「ごめん。言わなくても分かるかと思ってたんだ。俺ね、初めて奈実と会った時からいいなと思ってたんだよ」
「そんなの、言ってくれなきゃ分かんないもん。私だって、たまには好きって言って欲しいもん」
思わず涙がにじんできて、バッグをがさごそとしながらハンカチを取り出そうとした時、しんちゃんの親指が私の涙をぬぐった。
「俺、どうしたらいい?どうしたら信じてもらえる?」
オロオロしだしたしんちゃんを見ていたら、なんだかおかしくなった。私は冷えたたこ焼きを口に放り込んでからしんちゃんに言った。
「じゃあ、今からコンビニで黄桜スパークリングを買って、しんちゃんちで飲ませてよ。もちろん、ほかのお酒も!それから、おつまみもね。その後は……」
しんちゃんが嬉しそうにOKポーズをすると、夜風に乗った桜の花びらが私達を祝福するかのようにひらひらと降り注いできた。
🌸 🍶 🌸 🍶 🌸
シロクマ文芸部に参加します💛
今週のお題は「夜桜と」です。
先週はドロドロとした物を書きましたので、今週は明るい物を書きました。
短歌なども含めて、久々に普通に明るい恋愛物を書いた気がしますw
🌸夜桜の掌編小説、良かったらどうぞ💛
みんなの俳句大会・ライラック杯の短歌の応募作品の中から好きな短歌を選んで、二次創作の掌編小説を書きました。
こちらは、みんなの俳句大会・宇宙杯に応募した俳句からセルフ二次創作をした掌編小説です。
文中に出てきたキミに決定っていう言い回しは、ここから取りました。
トシちゃんの歌ですっ!
今日も最後まで読んで下さってありがとうございます♪
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