[短編小説]わたしの好きなとこ、3つ答えて 後編
ー前回からの続きー
その人は、私に気が付くとこちらに近付いて来た。やっぱり綺麗な人だ。
「こんにちは。みかさん、ですよね?私の事覚えてますか?」
「はい、みかですけど。コンビニでお会いした方ですよね?私に何か?」
「私は、さえといいます。しょうと同じ会社で働いています。今日は、みかさんにお話があって来ました。」
やっぱり、嫌な予感がする。心臓がドキドキする。私は声を絞り出して言った。
「さえさん。せっかく来て頂いたのですが、もう昼休みも終わります。」
さえさんは、左手の時計をちらりと見ると、
「あと10分あります。お時間は取らせません。」
と言った。嫌だとは言わせない様な口ぶりだ。
「みかさん、しょうは私の事が好きなのよ。だから、彼とはもう会わないで。私の方が、彼に似合っていると思わない?」
「そんな事、急に言われても。彼は私と付き合っているんですよ。」
「私の方が、あなたより彼を好きだし、彼も私が好きなんだから。」
それだけ言うと、さえさんは足早に帰っていった。
会社に戻ったものの、仕事が手につかない。今日は忙しくなくて良かった。仕事をしながらも、頭の中は二人の事でいっぱいだった。でも、不思議と喉に魚の小骨が刺さった様な痛みは消えていた。だけど、今度は胸が痛かった。
しょう君からラインが来るけれど、今日はラインはしたくない。しょう君から送られてきたラインも、見ない。無視していると、今度は電話がかかってきた。でも、出ない。声を聞くのも嫌だったから。電源も切ってしまった。
ご飯も食べたくない。お風呂にだけ入って、早々にベッドに潜り込んだ。
なかなか寝付けなかったけれど、いつの間にか寝ていた。そして、夢を見た。夢の中で、しょう君とさえさんは結婚式を挙げていた。二人とも、それはそれはキレイで華やかだ。あれならウエディングのモデルだってできるだろう。私は、その姿を離れた所から眺めていた。お呼ばれのドレスも着ていない、普通の格好で。
それからしばらくの間、しょう君からの連絡はすべて無視した。
3日ほど経った頃だろうか。会社から帰ってくると、家の前にしょう君が立っていた。
「みか。いったいどうしたっていうんだよ。連絡しても全然出てくれないじゃないか!」
しょう君が声を荒げている。こんなしょう君を見るのは初めてだ。それに、少し頬がこけている?私は声を出そうとするけれど、うまく声が出せずにいた。すると、私の目からは涙がぽろぽろとこぼれてきた。
私がちょっと鼻をすすった時、しょう君は私をぎゅっと抱きしめた。しょう君の胸の中の私は、やっぱり涙が止まらない。そして、涙の混じった鼻声でやっと言えた。
「だって。だって、しょう君。あの人の事が好きなんでしょ?私より、あの人が。」
しょう君は、向かい合って私の肩に手を置いて言った。
「なんで、あいつが出てくるんだよ。俺の事が信じられないの?」
「さえさんが、会社に来たの。しょう君もさえさんの事好きだから、もう会わないでって言われたの。」
「俺が好きなの、誰か分かんない訳?お前の気持ちって、その程度のもんだったの?」
「だって、私。あの人みたいに綺麗じゃない。しょう君みたいなステキな人に釣り合わないんじゃないかってずっと思ってた・・・。」
しょう君は、また私をぎゅっと抱きしめた。止まりかけた涙がこぼれてくる。しばらくして、やっと泣き止んだ私の手を取り、部屋に戻ってきた。
部屋に入った私達。冷蔵庫から冷えた缶ビールを2本取ると、1本をしょう君に渡した。
プシュっといい音がする。缶と缶を合わせて乾杯して、ひと口飲んだ。苦くて、しゅわしゅわした液体が心地よく喉を流れていく。少しの沈黙の後、しょう君が口を開いた。
「あいつと、前に付き合ってたんだ。」
やっぱり。私のカンが当たってしまった。
「でも、すぐに別れたんだ。あいつに振られたんだよ。あいつには、俺達のじゃまするなって言っておいたから。みかを傷つけたら許さないって。」
「ほんとに?」
しょう君は自分の膝の上に、私を横向きに座らせた。
「重いよ、私。」
「大丈夫。俺、鍛えてるから。」
ポケットからスマホを取り出して、操作すると私に見るように言った。スマホの中には、私の写真がたくさんだ。学生の時の写真。みんなで撮った物もあれば、知らないうちに撮られた写真もある。
「これ見ても何も思わない?俺ね、ずっと前から好きだったんだよ。みかの事。」
こんな事ってあるんだろうか。しょう君が私を好きだったなんて。
「私も前から好きだったよ。全然分かんなかった。言ってくれたら良かったのに。」
「何回も言おうと思ったさ。でも、みか俺の事何とも思ってなさそうだったし。」
ホッとしたような、気付けなかった自分が情けないような、変な気持ちになった。どうしようか迷ったけれど、今度は私からキスをした。目も開けたままで。やっぱり彼の顔はキレイだ。
私はしょう君に聞いてみる。
「ねぇ、私の好きなとこ、3つ答えて。」
少し考えたしょう君は、満面の笑みで答えてくれた。
「料理がうまい事。
俺の事が大好きなところ。
それに、みかの存在全部!かわいいし、優しいし、ちょっと自信なさげなところも全部!」
うん、それだけ聞けば大丈夫。私もしょう君の全部が大好き。もう迷わないし、揺らがない。私は私でいていいんだね。
冷蔵庫から、また冷えた缶ビールを取り出して、今日2回目の乾杯をした。しょう君のそばに寄って、耳元でささやいた。
「しょう君、大好き。ずっとそばにいるね!」
ー終わりー
*「夏祭りは夢の中に」の続きのお話でした*
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