教室の静かな風景 卒業の日
感情は、言葉より先にくる
教室には、今日も子どもたちの時間が流れている。
今年も、教室から巣立つ季節がきた。
中学生の卒業の時期だ。
この教室には、長く通ってくれている生徒さんもいる。
小学生のころから見てきた子も少なくない。
まだランドセルが少し大きく見えたころ。
宿題を終えると、すぐに友だちと笑いあっていたころ。
そのころの姿を知っているからこそ、
中学生になった今の姿を見ると、
子どもたちがどれだけの時間をくぐってきたのかを思う。
教室には、ことばの少ない中学生がいる。
質問をしても、短くうなずくだけ。
「うん。」
それだけで会話が終わることもある。
話しかけると、少しだけ目を上げる。
けれど長く話すことはない。
どう声をかければいいのか迷うこともある。
こちらの言葉が、余計な重さにならないだろうかと思うこともある。
それでも同じ時間を過ごしていると、
子どもの変化は、ことばより先に表れてくる。
ある日、ふっと表情がゆるむ。
目の奥の緊張が、少しほどける。
そして、笑う。
中学生になると、子どもたちは急に疲れる。
人間関係。
勉強。
周りの目。
小学生のころにはそれほど気にしていなかったことが、
少しずつ重くなる。
友だちとの距離。
グループの空気。
ちょっとした言葉。
大人が思うよりも、
子どもたちはずっと敏感に感じ取っている。
そして、疲れる。
小学生のころは朗らかだった子もいる。
よく笑って、よく話していた子もいる。
けれど中学生になると、
ことばを減らして自分を守る子もいる。
それは弱さというより、
思春期を通り抜けるための
一つの形なのかもしれない。
そんな子たちと過ごす時間の中で、
私が大事にしていることは、実はそれほど多くない。
急がないこと。
無理に話させないこと。
すぐに答えを出そうとしないこと。
ただ、そこにいること。
安心できる大人が近くにいると、
子どもは少しずつ表情を変える。
それが小さな回復の合図だと、
私は思っている。
家でことばが少なくなると、
親は少し心配になる。
「学校どうだった?」
「何かあった?」
つい聞きたくなる。
でも、すぐに答えが返ってこない日もある。
そんなときは、
「おかえり」と迎える場所があるだけで、
子どもは少しずつ力を取り戻していくこともある。
話す日もある。
話さない日もある。
それでも大丈夫だと思って欲しい。
そして今、教室には三年生がいる。
この春、ここを巣立っていく。
正直に言えば、
高校生活は楽しいことばかりではない。
また悩む日もあるだろう。
疲れる日もあるだろう。
それでも
それぞれの場所で、
それぞれの歩幅で歩いていけたらいい。
教室から、今年も静かにエールを送っている。
この春旅立つあなたたちへ、贈りたい曲。
RADWIMPS 「なんでもないや」
『嬉しくて泣くのは
悲しくて笑うのは
君の心が君を追い越したんだよ』
