夏の暑さによる死者数はドイツで1万5800人、日本は2160人、実は別のものを数えている
マンボウの「海外ニュースクリップ」〈2026年9月2日号〉
ドイツの公衆衛生機関ロベルト・コッホ研究所(RKI)が8月27日、この夏の暑さによる死者を1万5800人と推計した。AFPが同じ日に日本語でも伝えている。ただしこの1万5800人は、死亡診断書を集計した数ではない。暑さがなかった場合に何人が亡くなっていたかを統計モデルで作り、実際の死亡数との差を取った推計値である。
一方、日本が公表している「熱中症による死亡数」は2024年で2160人、こちらは医師が死因と判断した件数の積み上げだ。
印象論が先に立ちがちな数字の大小より先に、この二つが別の問いに答えている点を押さえておく。
※画像はAIによる生成です
🌡️🇩🇪【社会・統計】ドイツは暑さの死者を毎週推計し、日本は年に一度確定数を公表している
ソース: Robert Koch-Institut(2026年8月27日)/AFPBB News(2026年8月27日)/厚生労働省(2025年9月16日)/厚生労働省(2026年)/環境省(2023年5月30日)/総務省消防庁
混同されがちな点
「暑さで亡くなった人の数」と一言で呼ばれるものには、作り方の違う二種類がある。
一つは、医師が死亡診断書に書いた死因を集計したものだ。誰がいつどこで亡くなったかが一件ずつ残り、後から検算できる。日本が公表しているのはこちらである。
もう一つは、差し引きで求めるものだ。その週が暑くなかったとしたらどれだけの人が亡くなっていたかを過去の夏のデータから推し量り、実際の死亡数との差を暑さの分とみなす。ドイツの1万5800人はこちらにあたる。この作り方では、1万5800人のうちの誰か一人を指し示すことはできない。
なぜ差し引きが要るのか。RKI自身が理由を書いている。暑さが直接死につながる場合もあるが、多くは暑さと持病が重なって死に至るため、暑さが大元もとの死因として死亡診断書に書かれることは通常ない。書かれていないものは、集計しても出てこない。だから統計的な方法を使うしかない、という理屈である。
この二つを並べると、ドイツの1万5800人(今夏)に対して、日本は2160人(2024年)になる。人口は日本の方が多い。年が違う点を差し引いても、この開きを気候で説明することはできない。数え方の差が、気候の差を覆い隠している。
事実の足場
RKIは6月から9月にかけて、暑さによる死亡の推計を週ごとに更新している。8月27日に出た最新版は8月10日から16日の週までを扱い、4月上旬からの累計を1万5800人としている。推計であることを示すために十の位で丸めてあり、幅として1万4500人から1万7000人が併記されている(95%予測区間)。人口10万人あたりでは19.0人である。
年齢別では、85歳以上が7960人と半分を占める。75歳から84歳が3910人、65歳から74歳が2440人、65歳未満は1470人だった。累計のうち約9600人は6月22日から28日の1週間に集中し、約4000人が7月末から8月中旬に生じている。
推計の作り方はこうである。ドイツ気象局(DWD)の52地点の気温を州ごとに平均し、週の平均気温を出す。おおむね20度を超えたあたりから全体の死亡が増え始める。2016年から2025年の夏のデータで気温と死亡の関係を一つのモデルに落とし込み、そのうえで気温が20度で頭打ちになったと仮定した場合の死亡数を計算する。実際の推移に近い曲線と、暑さを取り除いた曲線の差が、暑さによる死者にあたる。
同じ報告のなかで、RKIは別の数字にも触れている。超過死亡と呼ばれるもので、ふだんの年に見込まれる死亡数を実際がどれだけ上回ったかを、理由を問わずに測った数である。5月中旬から8月中旬で2万500人(1万6100人から2万4600人)だった。暑さ以外の要因も含む幅の広い数え方であり、対象とする期間も違うため、暑さによる1万5800人とは別物である。そのうえでRKIは、暑さの影響は暑さのモデルが示す分より大きい可能性がある、と付け加えている。
過去との比較もRKIの図に載っている。2018年と2019年がそれぞれ約7000人以上で最も多く、2020年と2022年から2024年は約3000人以上、2016年と2017年、2021年は1200人から2000人だった。今年の1万5800人は、まだ夏が終わっていない時点の数字である。
公表の速さは、統計局の集計に依存する。連邦統計局が火曜に週ごとの死亡数を出し、RKIが同じ週の木曜に暑さの分を計算して載せる。遅れは統計局で9日、RKIの報告で11日だ。
日本側の数字も置いておく。厚生労働省は人口動態統計の確定数から「熱中症による死亡数」を毎年公表しており、2024年は2160人で、同じ表に載る1995年以降では最も多い。2023年は1651人、2010年は1731人だった。この2024年分が公表されたのは2025年9月16日である。総務省消防庁はこれとは別に、熱中症による救急搬送人員を夏のあいだ週ごとに速報している。
読み解き
二つの数字は、別の問いに答えている。ドイツが答えているのは、暑さがなかった場合と比べて何人多く亡くなったか。日本が答えているのは、何件の死亡で医師が暑さを死因と判断したか。どちらかが正しいという話ではない。
日本の選び方が手にしているのは、検算できることだ。一件ずつ診断があり、都道府県別にも年齢別にも実数で割れる。政策の目標に据えても、達成したかどうかを争えるだけの硬さがある。実際、2023年5月に閣議決定された熱中症対策実行計画は、2018年から2022年の年平均1295人を基準に、2030年までの半減を掲げた。基準に置かれたのは人口動態統計の確定数のほうだった。
手放しているのは、暑さが持病を押し切った分である。心疾患や腎疾患を抱えた人が猛暑の週に亡くなったとき、死亡診断書に書かれるのは持病の名前になる。その死は熱中症の欄には入らない。ドイツの推計が拾おうとしているのは、まさにそこだ。
逆にドイツが手放しているのは、個人を指せることである。RKIは十の位で丸め、1万4500人から1万7000人という幅を添え、下限が負になる場合はふだんの変動と区別できない、という注記も置いている。硬さと広さは、同時には持てない。
物差しの選び方は、政策の向き先まで決める。日本の半減目標は1295人を土台に立っている。別の物差しを当てれば、基準の数も、何をもって前進とみなすかも変わる。暑さをしのぐ避難施設を増やすことやエアコンの購入を支えることが効いたかどうかを、どの数字で測るのかという話でもある。
日本の中でも物差しは一つではない。職場の熱中症は労働者死傷病報告から集計され、2025年の速報値は死傷者1681人と、統計を取り始めた2005年以降で最も多かった。ところが同じ集計のなかで、死亡者は前年の30人から15人へ半分に減った。死傷者が最多の年に、死亡者は半減している。人口動態統計、救急搬送、労災報告。この三つはそれぞれ違う問いに答えており、どれか一つを「日本の熱中症の数字」と呼ぶことはできない。
その意味で、速さの点で日本が後ろに回っているわけでもない。消防庁は夏のあいだ、救急搬送された人数を週ごとに出している。ただし数えているのは死者ではなく、病院へ運ばれた人だ。ここでもまた、答えている問いが違う。
2025年分の確定数がいつ出るかは示されていないが、前回は9月16日だった。まもなく、この夏の日本の数字が並ぶ。それを大きいと見るか小さいと見るかは、その数字が何を数えたものかで変わる。暑さで失われた命のうち、私たちはどこまでを数えることにしているのか。
📌 本クリップは外国語の一次ソースをもとに要約・解説したものです。 引用元の全文はリンク先でご確認ください。 最後までお読みいただきありがとうございます。
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